総務省は20日、自治体首長や有識者らによる「地方行財政検討会議」(議長・原口一博総務相)の初会合を開き、鳩山政権が掲げる「地域主権」確立のための地方自治法改正作業に着手した。
 今国会で議員定数の上限を撤廃した上で、議会への住民参加、首長の多選制限、住民投票制度の在り方などについて、約1年をかけて広範に議論。来年3月ごろの通常国会に改正案を提出する方針だ。原口氏は会議の冒頭で「地方議会の改革、地方議員の身分や権能についてもしっかり議論してほしい」と要請。「提言は即、実行に移していく」と述べ、抜本改革に強い意欲を表明した。
 総務省はこの日の会議で、法改正に関する「検討の視点」と題した資料を提示。(1)自治体の組織や運営の自由度の拡大(2)首長と議会の関係(3)勤労者ら幅広い住民が議会・行政に参加できる方策―などを論点とする方針を示した。具体的には、首長が現職議員を副知事や副市長など自治体幹部に起用できるようにすることや、会社員ら多様な人材の立候補や議員活動を可能にする休職・復職制度の導入などを検討する見通しだ。

松沢成文知事は18日、総務省を訪問し、国と地方の役割分担などを明記した地方自治基本法を制定するよう、渡辺周副大臣に文書を手渡して提案した。知事によると、副大臣は「具体的な提案はありがたい。知事会でも検討して意見を出してもらえれば」と述べたという。
 同法は県庁内の検討チームでまとめたもので、住民投票権や直接請求権などの定める住民自治の保障や、自治財政権などの団体自治の保障を盛り込んだ。知事は「総務省の地方行財政検討会議でも考え方を伝えさせてほしい」と要望。渡辺副大臣は前向きな意向を示したという。
 21日に開かれる全国知事会でも提案する予定。知事は、「子ども手当の地方負担案なども、地方のことは地方で決めることを明記した法律があったら起こり得なかった」と制定の必要性を強調した。

第1記事では,第1回の地方行財政検討会議が開催されたことを紹介.
2009年12月26日付及び2010年1月15日付の両本備忘録にて取りあげた同会議.同会議の詳細に関しては,総務省HPを参照*1
第1回配付された資料において,「検討の視点(イメージ)」として次の6つの「視点」が提示.「地方自治法の規律密度が高く,地方自治体の組織及び運営について裁量の余地が乏しいという指摘があるが,地方自治体の自由度を拡大すべきではないか.一方,全国的に統一して定めることが要請される事項をどう考えるか」,「地方自治法は,厳格な二元代表制を採用しているが,長と議会が対立的な関係になって,住民の意見が適切に反映されず,また,効率的な事務の処理を阻害していることもあるのではないか.地方自治体の基本構造のあり方をどう考えるか」,「勤労者等、幅広い住民が、議会をはじめ地方自治体の行政運営に参加するような方策を考える必要があるのではないか」,「地域主権型社会において国と地方自治体の関係をどう考えるか.国・地方それぞれの判断と責任が尊重されるためには,どのような仕組みが必要か」,「「平成の大合併」進展後,市町村の姿は変貌を遂げたが,現行の基礎自治体のあり方(市と町村,市の中の区分(指定都市・中核市特例市))はこれにふさわしいものとなっているか」,「不適正経理事件等を踏まえ,地方公共団体の監査制度等の抜本的な見直しが必要ではないか.また,財務会計における透明性の向上と自己責任の拡大が必要ではないか」*2.また,「検討項目の例」としては,「1.自治体の基本構造のあり方」として概ね5項目(「二元代表制を前提とした自治体の基本構造の多様化」,「基礎自治体の区分の見直し」.「大都市制度のあり方」,「都道府県間・基礎自治体間の広域連携のあり方」,「国・地方関係のあり方」等),「2.住民参加のあり方」として概ね3項目(「議会のあり方」,「一般的な住民投票制度のあり方」,「長の多選制限その他の選挙制度の見直し.「規模の拡大に伴う自治体経営への住民参画の手法」等).「3.財務会計制度・財政運営の見直し」として概ね2項目(「不適正経理事件等を踏まえた監査制度等の抜本的見直し」,「財務会計制度の見直し」等),最後に,「4.自治体の自由度の拡大(規制緩和)」として概ね3項目(「執行機関(行政委員会など)」,「議会の組織・権能」,「財務規定」等)*3と,広範な視点,項目が提示されている.審議日程は,「平成22年」「5月」の「第4回会合」において「論点整理」*4ともある.同会議,何をどこまで,どの時期で公開されるかは,現在のところ,判然都はしないものの,審議過程は要経過観察.
第2記事では,その「地方政府基本法の制定」に向けて,2009年11月20日付の本備忘録においても取り上げた神奈川県に設置された「地方自治基本検討プロジェクトチーム」において検討が進められていた,地方自治基本法案が総務省副大臣に提出されたことを紹介.同案の内容に関しては,同県HPを参照*5.同県知事の「考え方をもとにプロジェクトチームが短期間の中で取り急ぎまとめた」「基本構想」*6としての性格を有するもの.
同提案では,現行地方自治法の課題の整理から始められている.同提案の認識では,現行地方自治法では「「地方自治の本旨」の意味・内容を明示していない」*7「住民自治を支えるための規定内容が十分ではない」「膨大で複雑な条項を擁し,わかりにくい」*8地方自治体の運営を統制し,裁量権を奪っている」*9「国−地方間の役割分担や原則に実効性がない」*10という.そして,「現行の“国家が地方自治体を管理するための法律”を廃止し,“地方自治を保障する法律”,すなわち,「地方自治の本旨」を具体化し.住民本位の地方自治制度を確立するための基本原則及びそれを支える制度等を定めた基本法を新たに制定する必要」*11との提案が示されている.そして,同基本法では,「地方自治基本法は準憲法的な位置付けを持つ法律とし,地方自治を保障する諸原則とそれを支える基本的な制度のみを地方自治基本法*12制定の必要性が提示されている.同提案では,「基本理念」「地方公共団体の定義」「国と地方の役割分担」「住民自治の保障」として「住民参加権,住民投票権,直接請求権,納税義務など」,「団体自治の保障」としては「自治財政権,自治行政権,自治立法権自治組織権など」,そして,「上記の権利を担保する制度の枠組み」を規定し,「組織・運営の細目等は個別法に再編」*13することを提案されている.
地方自治法の制定に至った,第2次地方制度改正時において,「東京都制,道府縣制,市制及び町村制竝びに地方官官制等の諸規定を統合整理して,なるべく同一の原則により各種地方公共團体を律することとするとともに,各種地方公共團体に特異な事項は,これを條例に譲ること」により「一本の地方自治法を制定し,これを全ての地方公共團体に適用」*14されるに際して,「内務大臣答辯資料」内では「本法案は,内容及び措辭ともに頗る難解である.もつとも親しみや易い自治法典とすることが適當ではないか」との想定問に対して,次のような想定答が用意されている(以下,引用内の漢字は,常用漢字とします).つまり,「都道府県及び市区町村を単一の法典で規定したために,やや難解と思われる点がないではないが,地方公共団体としての性質が殆ど同一となつて来た関係上同一法典に規定してあつて,左程規定の判読や解釈が難しくなるとは考えない」*15として,更に「同一の法典」であることで「全ての地方制度を容易に知ることができる積極的利益もあると考える」とともに,「親しみ易いか否かは,結局慣習の問題である」として「従つて,常時利用し慣れるようにしさえすれば自ら親しみを持つ法典となるであろう」*16との希望も示されていた.同提案では,現行の地方自治法に対して,「実際、地方自治法自体が極めて重要で有用な法律であることは,制定以来,時々の社会的,経済的な要請や期待に応え,現在に至るまで度重なる改正を行って充実してきた経緯,逐条解説や行政実例の蓄積からも明らか」*17とのその功績と配慮を示されつつも,制度設計者たちが夢見た,「慣習」や「親しみ」の醸成には結びつかなかったのだろうか.
下名の個人的な関心からは,「地方公共団体の定義」*18とその種別と自治行政権に対する各種提案から窺える,同提案における自治体間での事務配分に関する認識が興味深い.まず,同提案内では,地方公共団体を,現行の地方自治法に則し普通地方公共団体特別地方公共団体とに分類し,「普通地方公共団体としての地方自治体」として「都道府県と市町村はともに地方自治体」*19とされている.つまり,同提案では,市町村と都道府県の2元的区分は「デフォルトオプション」*20となる.同区分は,現行制度を下にした,現実的な提案.一方,少し気になることは「自治行政権」に関して整理された箇所.同箇所においては,まず,「基本法の規定内容」としては,「地方自治体は,その役割を果たすため,必要な事務を自己の判断と責任において,自ら処理することができることなど,自治行政権の保障」*21を規定するとある.あわせて「個別法に委ねる内容」としては,「どのような事務を執行するか,あるいは執行しないかを含め,執行の方法や基準等は,できる限り地方自治体の判断に委ねることとし」*22とある.このことはつまり,事務の執行方法等のみならず,そもそも自治体が執行する対象となる「事務」に関しても,(個別又は総体としてかは判然とはしないものの)自治体側に,裁量的選択的を提示することを提案されているようにも読めないこともない.
そして,この場合,興味深い点は,大都市制度に対する,同提案における認識である.つまり,現行の地方自治法に設けられている「大都市特例は,地方自治の基本原則ではなく運用規定的側面を持つ」との認識が示されており,「新しい地方自治法制の中の一つとして,その必要性を検証の上、個別法にて扱う」*23とある.(「運用規程的側面」なのかなあ,と政令指定都市制度の観察者の一人としては思いつつも)同認識からは,上記の市町村と都道府県をデフォルトとした場合,現行法がもつ市レベルでの,主にその規模に基づく制度的多様性をもつ「特例主義」*24的な大都市特例をまずは廃し,これにより「政令市都市制度の希釈化」*25を越え,制度的皆無化を図り,一方で,その規模を問わず,まさに自治体の意向次第での所掌範囲の裁量的選択的を提案された,「特例主義」の「普遍主義」化を提案されるようにも読めなくもない.興味深い.
戦後の地方制度改正により,「地方公共団体たる都道府県は,地方自治の外套をまといながら,その外套だけでは覆いきれないほど数多くの地方行政上の重荷を抱え込む」*26との認識も示されている.地方自治法の改正を通じて,その重荷を下ろし,軽めの外套へと衣替えがなされることになるのか,要経過観察.

*1:総務省HP(組織案内研究会等)「地方行財政検討会議

*2:総務省HP(組織案内研究会等:「地方行財政検討会議第1回(開催日平成22年1月20日))「参考資料2検討の視点(イメージ)

*3:総務省HP(組織案内研究会等:「地方行財政検討会議第1回(開催日平成22年1月20日))「参考資料3検討項目の例

*4:総務省HP(組織案内研究会等:「地方行財政検討会議第1回(開催日平成22年1月20日))「参考資料9当面の会議の進め方(イメージ)

*5:神奈川県HP(県の運営情報地方分権地方分権の広場地方自治基本法の提案(平成22年1月))『地方自治基本法の提案〜 地域主権国家の実現に向け、現行地方自治法を抜本改正し、地方自治システム全体の大転換を〜』(地方自治基本検討プロジェクトチーム事務局(神奈川県政策部広域行政課)平成22年1月)

*6:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)「提案趣旨」

*7:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)1頁

*8:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)2頁

*9:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)3頁

*10:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)4頁

*11:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)6頁

*12:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)12頁

*13:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)17頁

*14:小早川光郎・編集代表『史料日本の地方自治2 現代地方自治制度の確立』(学陽書房,1999年)216〜217頁

*15:内務省『改正地方制度資料第2部』(1947年)381

*16:前掲注15・内務省1947年:382頁

*17:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)2〜3頁

*18:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)18頁

*19:前掲注5神奈川県(地方自治基本法の提案)19頁

*20:リチャード・セイラー,キャス・サンスティーン『実践行動経済学』(日経BP社,2009年)141頁

実践 行動経済学

実践 行動経済学

*21:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)24頁

*22:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)24頁

*23:前掲注5・神奈川県(地方自治基本法の提案)28頁

*24:金井利之『自治制度』(東京大学出版会,2007年)202頁

自治制度 (行政学叢書)

自治制度 (行政学叢書)

*25:前掲注24・金井利之2007年:178頁

*26:姜再鎬「地方制度」森田朗編著『行政学の基礎』(岩波書店,1998年)80頁

行政学の基礎

行政学の基礎