鹿児島県は12日、知事直轄の「知事公室」や「環境林務部」「商工労働水産部」などを新設する4月からの機構改革案を発表した。関連議案を19日開会の県議会に提出する。
 知事公室は、今の総務部内にある秘書、広報、政策の3課で構成。トップの公室長は部長級とし、伊藤祐一郎知事が公約した主要プロジェクトなど、各部局にまたがる県政の重要課題の推進や秘書、広報機能の充実を図る。
 環境林務部は、森林の二酸化炭素の吸収機能などに着目し、環境部と林務水産部の林務部門を統合。「地球環境先進県」の取り組みを強化する。商工労働水産部は、水産加工業の育成や水産物の販路拡大を目的に、商工労働部と林務水産部の水産部門を統合する。このほか、九州・山口の近代化産業遺産群に関して世界文化遺産登録推進室を課に格上げし、人員も増やす。県民生活局内に消費者行政推進室を新設する。
 改革後、知事部局は8部1局から1公室7部1局となり、一般行政職の職員数は昨年4月1日時点の5534人から100人以上減る見通し。職員削減数は同4月時点で、県の集中改革プラン(2005−09年度)の目標である計630人を上回る計771人に達している。

本記事では,鹿児島県における機構改革の方針を紹介.下名の個人的な観察関心からは,「知事公室」の新設の詳細を把握しようと,同県HPを確認してみると,「県庁舎の庁舎設備点検のため,平成22年2月12日(金)午後6時から平成22年2月14日(日)午後2時までの期間」は「運用休止」*1の模様,残念.運用開始後,要確認.
2010年2月9日付の南日本新聞による報道を拝読すると,「知事の直轄組織とすることで,縦割り行政の弊害を生じにくくし,情報収集や分析・調査を総合的に推進.政権交代などによるさまざまな政治情勢の変化にも迅速に対応する狙い」*2からの組織設計の模様.また,同記事では「九州・沖縄では長崎県沖縄県がすでに設置」「秘書や広報機能以外に,長崎は世界遺産登録準備室,沖縄は基地対策課や防災危機管理課を配置するなど,県によって機能には特色がある」*3とも紹介.なるほど.
「県によって機能には特色がある」と紹介されると,では,全国的な「知事公室」という名称を持つ組織を確認してみたくなり,全都道府県の設置状況を見てみると,現在のところ,秋田県福島県奈良県長崎県沖縄県の5県で設置されていることが分かる(ただし,あくまで「知事公室」という名称を用いる組織に限定.組織規定上,総務部等に含まれる「知事室」,また,「知事直轄」等の規定の下に置かれる「知事室」,更に,2009年11月21日付の本備忘録でも触れた,「規則室」としての神奈川県の「知事室」は除く).
各公室の内部課数及び名称(係数)は,秋田県は3課1室1センター1所1館(総務課,総務課分権改革推進室,秘書課,情報公開センター,総合防災課,東京事務所,公文書館,消防学校)*4福島県は3課(秘書課,政策調査課,広報課)*5奈良県は7課1室(秘書課(5係),広報広聴課(4係),政策調整課,行政経営課,統計課(5係),防災統括室(4係),消防救急課(1係,1隊),安全・安心まちづくり推進課(4係))*6長崎県は4課2室(政策企画課(5班),秘書課(3班),広報広聴課(2班),国際課(2班),世界遺産登録推進室,まちづくり推進室)*7沖縄県では4課(秘書課(1班),広報課(2班),基地対策課,防災危機管理課(3班))*8とある.その名の通り,秘書機能の他,広報(雄及び広聴)機構,企画・調査機能に関しては一定の共通性を窺うこともできそう.
また,各公室は,いずれも「設置条例」に基づく配置とされているが,福島県のように,福島県部等設置条例*9に基づき,他の知事直近下位部と並び「知事直轄」の概念を用いて配置される場合もある.2008年11月26日付同年12月4日付2009年3月10日付同年11月21日付の各本備忘録にて触れた「知事直属」「知事直轄」「知事直結」という「ドクトリン」*10の具現化された各機構.2008年3月13日付の本備忘録でも参照した,道府県企画部局に関する稲垣浩先生による各種行政文書に基づく論攷からは,1949年から1955年迄の間における「知事公室」(同論攷内では,「知事室」との名称の組織も同一組織としてカウント)の設置状況が把握できる*11.ただ,同「室」に関しては,1926年の改正により地方官官制第12条及び第13条に規定され,「官吏ノ進退及身分ニ関スル事項」「文書ノ往復及記録編纂ニ関スル事項」「官印府県印ニ関スル事項」「褒賞ニ関スル事項」「統計ニ関スル事項」を「掌ル」*12という,一見する限りは,「機務」と「庶務」との分類では「庶務」*13を所掌するとされた「知事官房」から今日における「知事公室」の経路依存性にも考慮したうえで,「旧地方自治法第一五八条の規制の網をくぐりぬけ」*14つつ「室」として配置された同種機構の特性への歴史的制度分析は興味深そう(来年度,少しまとめたいなあ).

*1:鹿児島県HP「鹿児島県ホームページの運用休止のお知らせ

*2:南日本新聞(2010年2月9日付)「鹿児島県「知事公室」新設へ 10年度、政策調整機能を強化

*3:前掲注2・南日本新聞(2010年2月9日付)

*4:秋田県HP(秋田県例規集)「秋田県部等設置条例」(昭和五十六年三月二十七日,秋田県条例第二号)

*5:福島県HP(福島県例規集)「福島県行政組織規則」(平成十五年三月二十四日,福島県規則第二十四号)

*6:奈良県HP(奈良県例規集)「奈良県行政組織規則」(昭和三十一年七月一日,奈良県規則第二十六号)

*7:長崎県HP(長崎県例規集)「長崎県組織規則」(昭和46年4月1日,長崎県規則第23号)

*8:沖縄県HP(沖縄県例規集)「沖縄県行政組織規則」(昭和49年3月30日,規則第18号)

*9:福島県HP(福島県例規集)「福島県部等設置条例」(平成五年十二月二十四日,福島県条例第五十五号)

*10:牧原出『行政改革と調整のシステム』(東京大学出版会,2009年)20頁

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

*11:稲垣浩「戦後府県企画担当部局の形成と展開」『年報行政研究41 橋本行革の検証』(ぎょうせい,2006年)136頁

橋本行革の検証 (年報行政研究)

橋本行革の検証 (年報行政研究)

*12:小早川光郎・編集代表『史料日本の地方自治1 近代地方自治制度の形成』(学陽書房,1999年)523頁

*13:河中二講『現代の官僚制 改訂版』(中央大学出版部,1966年)16頁

*14:前掲注11・稲垣浩2006年:138頁