市区町村が運営している介護保険について、首長の約半数が「都道府県や国が運営するべきだ」と考えていることが、朝日新聞の全国自治体アンケートでわかった。財政難などを理由に「限界だ」との声が多かった。介護保険制度は2012年度見直しが予定されており、今後、財源問題も含めて運営のあり方の議論が本格化する。
 調査では、市区町村長の48%が運営主体を「都道府県や国にするべきだ」と回答。町村長に限ると、過半数の54%に上った。「このままでは地方の自治体は負担増に耐えられない」(岩手県の町長)、「介護も国民健康保険と同様に、自治体による運営は困難になると思う」(宮城県の市長)など、財政難が主な理由だ。
 介護保険では、国と自治体で財源の半分を負担する。サービスの利用が増えるに伴い、公費負担も増加する。運営の広域化を求める理由として、「自治体によって保険料額や利用できる施設の数が異なるのはおかしい」(北海道の市長)という声も多かった。「隣の自治体と差がある理由を、住民に説明しづらい」という意見もあった。65歳以上が払う保険料は、09年度は最高月5770円(青森県十和田市)から最低の2265円(岐阜県七宗(ひちそう)町など)まで開きがある。特別養護老人ホームに入りたくても入れずに待機する人が全国に約42万人おり、国は09年度、施設の建設費を補助する交付金を設けた。
 しかし、今回の調査では、交付金を利用し、従来の整備計画(計12万人分)よりも上積みして施設を整備すると答えた自治体は21%。それ以外の自治体の大半は交付金を利用しない考えを示した。「施設が増えるとその後の費用がかさむ」ことが主な理由だ。国は11年度までに計4万人分の上積みを目指しているが、目標通りには進まない可能性がある。
 調査は、3月上旬に全国の1778市区町村(2月末現在)の首長と担当者に質問用紙を郵送。首長分は1171人(回収率66%)、担当者分は1224自治体(回収率69%)から回答を得た。00年に導入された介護保険は原則、市区町村が単独で運営し、複数の自治体で運営するところもある。サービスを充実させる一方で保険料も高くするのか、逆にサービスも保険料も抑えるのかなど、各自治体の判断が問われ、「地方分権の試金石」とも言われてきた。(山田史比古、松浦祐子)

4月で発足から10年を迎えた介護保険制度について、「現行のままでは制度を維持できない」と考えている市町村が87%に上ることが、読売新聞社介護保険全国自治体アンケートで明らかになった。
 7割が保険料負担の限界を理由に挙げた。今後、財源確保が大きな課題となりそうだ。調査は、全国の1778市町村(東京23区含む)すべてを対象に、2月に実施。1488自治体からインターネットで回答を得た(回答率84%)。
 制度全体については、「大いに」(36%)、「多少は」(60%)を合わせ、96%が「評価している」と回答。しかし、今後10年間、財源構成(1割の利用者負担を除き、税と保険料が50%ずつ)やサービス内容などは現行のままで制度を維持できるかを尋ねたところ、「そうは思わない」が29%、「どちらかといえばそうは思わない」が58%。9割が否定的な見方だった。
 その主な理由は、「保険料の上昇に住民の負担が耐えられなくなる」(71%)、「老老世帯や高齢独居世帯の増加に対し、現在の介護サービス量では足りなくなる」(58%)など。高齢化に伴う要介護者の増加が不安材料になっているようだ。現在、全国平均で月4160円となっている介護保険料の上昇を抑えるために、税の投入割合を増やすことについては、「賛成」(25%)、「どちらかといえば賛成」(46%)を合わせ、71%が賛成した。
 また、「介護保険や高齢者福祉を充実させるための財源として、消費税率を引き上げるべきか」との質問に対しては、14%が「できるだけ早く引き上げるべきだ」と回答。62%が「将来的には引き上げるべきだ」と答え、「引き上げるべきではない」は15%にとどまった。

 調査の詳報は、こちら(http://yomidr.jp/page.jsp?id=22451

第1記事では,朝日新聞が2010年3月に全国の1778市区町村長及び担当者に対して実施された,介護保険の運営に関する郵送質問調査の結果(首長分の回収率66%,担当者分の回収率69%)),第2記事では,読売新聞がその前月である2010年2月に同じく1778市区町村に対して,こちらは,恐らくはインターネット調査に基づき実施された介護保険に関する調査の結果(回答率84%).第2記事の読売新聞における調査結果については,単純集計結果の確認も可能*1朝日新聞調査も,少なくとも,質問項目毎での単純集計結果が確認できるとよいのですが).
あくまで「保険財政の安定を第一とする思考」*2の観点からすれば,2008年4月1日付の本備忘録にて,「いかなる社会保険においても不可逆的な動向」とも言及した「「広域化」という制度再編の動向」.第1記事からは,市区町村が「48%」の市区町村が,介護保険においても「広域化」路線を指向される様相も窺えそう.
もちろん,社会保険としての自律性を前提とした財政安定化を想定した場合,被保険者の「拡大」路線も想定されなくもない.後者の路線に関しては,第2記事でも紹介されている読売新聞による調査において,「40歳以上となっている介護保険の保険料負担者とサービス受給者の対象年齢を引き下げること」が尋ねられており,「現行制度を維持すべきだ」との回答が「55.78%」と最も多く,「保険料負担者と受給者双方の対象年齢を引き下げ,介護の必要な若い障害者でもサービスを利用できるようにすべきだ」という被保険者の「拡大」路線は「20.77%」,そして,「サービス受給者の対象年齢は現在のままにし,保険料負担者の年齢だけを引き下げるべきだ」という,保険料負担者と被保険者(受給者)の「分離」路線も「17.07%」*3の認識が示されている.
いずれの「思考様式が自治職員の一般」*4化されたとまでは,同調査からは特定はできないものの,興味深い結果.

*1:読売新聞(ヨミドクター介護保険制度に関する全国自治体アンケート)「介護保険制度に関する全国自治体アンケート

*2:武智秀之『政府の理性、自治の精神』(中央大学出版部,2008年)108頁

政府の理性、自治の精神

政府の理性、自治の精神

*3:前掲注1・読売新聞(介護保険制度に関する全国自治体アンケート)2頁

*4:前掲注2・武智秀之2008年:108頁