新温泉町湯村温泉で温泉の管理などに当たる「湯財産区」の事務業務をめぐって、同町と地元住民の間で意見の対立が起きている。実質的に町の嘱託職員として長年、財産区の事務を預かってきた地元自治組織「湯区」の区長の任用を、町が3月末に突然打ち切ったのが発端。法律上は町が事務を担う財産区と、自治組織の湯区の業務を分けるためとする町に対し、住民らは「地元をよく知る区長が事務に当たることで、温泉を地域のために有効に活用できてきた」と再考を要求。双方の協議の場も設けられているが、議論は平行線をたどっている。
 財産区は、地区にある温泉や山林といった財産の管理などを行う特別地方公共団体湯村温泉も湯財産区が各戸への配湯事業などを行い、住民の意思を反映させる議決機関「湯財産区議会」を置いて運営している。
 一方、財産区の管理者は地方自治法上は市町村長で、湯財産区の管理者も岡本英樹町長。また、財産区専任の職員は原則置くことができないとされ、「首長の命を受けた市町村職員が執行補助者として事務に当たるのが一般的」(総務省)という。
 しかし、湯村温泉では旧温泉町時代から「地域振興に有用」として、財産区の事務を、23の町内会からなる湯区の区長に任せてきた経緯がある。町も区長を嘱託職員と位置付けてきたが、昨秋に就任した岡本町長は「財産区の事務は法律上、町の事務なので、財産区と湯区の業務が混同されることを避けたい」として、区長を事務からはずした。これに対し、湯財産区議会などは、区長が財産区の事務を担うことで、地元の行事なども円滑に進められてきたと主張。同議会の福島祥介議長は「湯区と財産区は実質一体であることを考慮してほしい」と訴える。また、一部の住民らは異議をとなえるビラを制作し、「唐突な決定。これまで特に問題が起きていないのに、区長をはずす理由が分からない。原則論でなく、実態に合わせた任用を考えてほしい」と訴えている。この問題をめぐり、町と地元は4月に入って2度にわたり協議したが、歩み寄りはみられず、今後も議論を重ねるという。(大盛周平)

本記事では,新温泉町における財産区に関して紹介.
「市町村又は特別区の区域の一部を構成要素とする地方公共団体たる財産又は公の施設の所有又は設定の主体」として「法律上の独立の人格者たる能力が認められ」*1る,「財産区」制度.「戦前から市区町村の一部(部落)で財産を持ちあるいは公の施設を設置しているもの」である「旧財産区」と,「戦後,市町村合併などの際,自治体間の協議によって市町村の一部(旧町村)で財産を持ちあるいは公の施設をもうけることになったもの」である「新財産区*2の区分が置かれることもある.
後者に該当する場合,まさにいわゆる「山分け論」*3とならない,「共有地の悲劇」を回避するための,「相互信頼(reciprocate trust)」に基づく調整*4手続として,地方自治法の1954年の改正において,同区の「設置の規定」*5等が整備.一方で,いずれの区分の同制度においても,地方自治法第296条の5第1項の「一体性」原則があり,「財産区住民とその他の住民との間に分立対抗的意識を生じて市町村の中に市町村をつくる結果となることのないように特別の配慮をすることが必要」*6との見解が示されることもある.
本記事を拝読すると,そこには「住区の自治*7の様相が観察される.いわば,「一部」でありながら「独立」,というヤーヌスの如く,二つの性格が合成される同制度において,「一部」である側からは,「代理人費用(agency cost)」*8は不可避ともいえるのだろうか.考えてみたい課題.

*1:松本英昭『新版 逐条地方自治法第5次改訂版』(学陽書房,2009年)1482頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*2:村上順著・財団法人地方自治総合研究所監修『逐条研究地方自治法Ⅴ』(敬文堂,2000年)1058頁

逐条研究地方自治法 (5)

逐条研究地方自治法 (5)

*3:「佐藤竺氏が語る 昭和の大合併」東京市政調査会編『当事者達の証言 地方自治史を掘る』(財団法人東京市政調査会,2009年)42頁

*4:Ostrom,Elinor.(2005)Understanding Institutional Diversity,Princeton UP:97-98.

Understanding Institutional Diversity (Princeton Paperbacks)

Understanding Institutional Diversity (Princeton Paperbacks)

*5:前掲注1・松本英昭2009年:1481頁

*6:前掲注1・松本英昭2009年:1496頁

*7:西尾勝『権力と参加』(東京大学出版会,1975年)302頁

*8:Horn,Murray.J.(1995),The political Economy of Public Administration, Cambridge University Press:19