兵庫県尼崎市在住の50歳代の韓国人の男性が22日、同市役所を訪れ、タイで養子縁組したとする554人分の子ども手当の支給を申請していたことが分かった。市は「養育の実態がない」などとして、不受理にした。
 市こども家庭支援課によると、男性が市役所を訪れたのは22日昼前。妻がタイ出身で、「タイの修道院と孤児院の子ども計554人と養子縁組した。子ども手当の申請をしたい」と申し出たという。
 男性は養子縁組を証明する公的な文書として、タイ語で書かれた数十ページの書類を持参し、そこに書かれた子どもの名前や出身地、生年月日などを示したという。市から照会を受けた厚生労働省子ども手当管理室は「制度の趣旨に合わない。支給の対象外」と回答したという。
 同省は、海外に子どもが住む在日外国人への子ども手当の支給について、年2回以上の面会▽来日前に親と同居歴がある▽継続的に生活費などを送金――などの条件を通知しているという。2010年度の子ども手当の支給額は1人あたり月額1万3千円。この男性の場合、仮に支給されれば、年間の支給額は554人分で、8642万4千円になる。

本記事では,尼崎市における子ども手当支給手続を紹介.554名の養子縁組をされた方が申請されたことを報道.
同手当の対象を,「この表象」を「いかに相対的なものである」と「観念」*1されるかと「平成二十二年度における子ども手当の支給に関する法律」第3条第1項*2を拝読すると,「この法律において「子ども」とは、十五歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある者」と規定されている.ただし,その「支給要件」としては,同法第4条に規定されているように,「子どもを監護し,かつ,これと生計を同じくするその父又は母」,「父母に監護されず又はこれと生計を同じくしない子どもを監護し,かつ,その生計を維持する者」,「子どもを監護し,かつ,これと生計を同じくするその父又は母であって,父母に監護されず又はこれと生計を同じくしない子どもを監護し,かつ,その生計を維持するもの」とも「観念」されている.
同支給要件,2010年3月19日に開催された第174回国会参議院総務委員会では,次のような応答が行われている.
まず,「海外にいる外国人にも支給されるということでありますが,改めて確認したいと思うんですが,例えば外国人牧師が五十人の子供を養子縁組して本国に置いてきた場合,子ども手当は支給されるんですか」 *3との質問が示される.
同質問に対しては,「ためにする議論というと大変失礼になりますけれども」との留保的認識が示された後,「五十人のお子さんを養子にしたらどうかというようなお尋ねはいろんなところでちょうだいしているわけでございますが,基本的にはしっかり本当に生計を一にしているかどうか,監護しているかどうかということがまず確認されてしかるべきと考えておりまして,普通五十人の方をしっかり監護していらっしゃるというケースはそんなにたくさんはないんじゃないかというふうに私どもは理解しているところでございます」 *4との見解が政府からは示された.
同法を所管する厚生労働省では,その後,『子ども手当について一問一答』*5を,2010年4月6日付で公表され*6,「母国で50人の孤児と養子縁組を行った外国人にも子ども手当は支給されますか」との問いに対して,行政実例よろしく,「父又は母が子どもを監護し,かつ生計を同じくすること等が支給要件となっており,支給要件に該当することについて個別に市町村の認定を受ける必要」,そして,「子ども手当の実施に当たっては,このような支給要件について確認を厳格化するなど,運用面の強化を図ることとしました」*7と,上記の国会における応答を踏襲され,「支給要件を満たしません」との見解が示されている.
「子を肉体的に監督・保護」すると解されている「監護」*8に関しては,同法による「技術的な助言」として,『平成22年度における子ども手当の支給に関する法律等の施行について』が通知されており,同通知では「監護」を「子どもの生活について通常必要とされる,監督,保護を行っている社会通念上考えられる主観的意思と客観的事実が認められること」とされ,ただし,「必ずしも子どもと同居している必要はなく,また,子どもの生計費の負担というような経済的要素は含まないもの」*9と「観念」する.あわせて,「海外に居住する子どもを監護する場合」には,『平成22年度における子ども手当の支給に関する法律における外国人に係る事務の取扱いについて』において,「少なくとも1年に2回以上子どもと面会が行われており,子どもの生活について通常必要とされる監督,保護の実質が備わっているもの」*10とも規定されている.
ためにする議論」という,相対的な観念としてではなく,仮に,同規定を「文字通り実行に移す」*11には,2010年4月25日付の産経新聞による解説では「あいまいな」*12とも評されるなかで,「確認を厳格化」が企図され,実存としての申請者からの「問い合わせ殺到」*13に直面せざるをえない自治体.悩ましい.

*1:フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生』(みすず書房,1980年)34頁

〈子供〉の誕生―アンシァン・レジーム期の子供と家族生活

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*2:厚生労働省HP(子ども・子育て)「平成22年度における子ども手当の支給に関する法律

*3:国立国会図書館HP(国会議会会議録検索システム)「第174回国会(常会)参議院総務委員会」 (開会日付平成22年03月19日,5号)(関口昌一発言)

*4:国立国会図書館HP(国会議会会議録検索システム)「第174回国会(常会)参議院総務委員会」 (開会日付平成22年03月19日,5号)(伊岐典子発言)

*5:厚生労働省HP(子ども・子育て)「子ども手当について一問一答

*6:共同通信(2010年4月6日付)「養子50人の外国人は不支給 子ども手当で厚労省

*7:前掲注6・厚生労働省子ども手当について 一問一答)醞頁

*8:内田貴民法Ⅳ』(東京大学出版会,2002年)210頁

民法〈4〉親族・相続

民法〈4〉親族・相続

*9:厚生労働省HP(子ども・子育て)「平成22年度における子ども手当の支給に関する法律等の施行について(厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)」(厚児発0331第17号)3頁

*10:厚生労働省HP(子ども・子育て)「平成22年度における子ども手当の支給に関する法律における外国人に係る事務の取扱いについて(厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)」(雇児発0331第21号)3頁

*11:畠山弘文『官僚制支配の日常構造』(三一書房,1989年)341頁

*12:産経新聞(2010年4月25日付)「大量申請の懸念現実に 審査厳格化では限界も 外国人の子ども手当

*13:毎日新聞(2010年4月24日付)「子ども手当:認定請求書の難解用語、問い合わせ殺到 三田市に電話300件/兵庫