全国知事会行政改革プロジェクトチーム(PT)は5日、中間報告をまとめた。天下りについて「ほとんどの都道府県で職員が外郭団体に再就職したケースがある」と実態を認めた上で、早期勧奨退職の段階的解消など見直しの必要性を指摘。公安委員会などの行政委員が非常勤の割に高額の月額報酬をもらっているとの批判を受け、原則として会議や出張など委員としての活動に応じた日額支給に改めるべきだと提言した。
 行政刷新会議事業仕分けで国の歳出削減が注目される中、地方としても行革に取り組んできた姿勢をアピールする狙いがある。15日から和歌山市で開かれる全国知事会議で正式決定し、年内に最終報告をまとめる。中間報告は、都道府県職員の天下りについて「再就職先の報酬は在職時の半額程度」などとキャリア官僚との違いを強調するとともに、住民の納得や信頼が必要と指摘。やむを得ず再就職する場合は、相手先に報酬を適切な額とし、退職金を支給しないよう強く要請すべきだとした。

本記事では,全国知事会に設置された「行政改革プロジェクトチーム会議」における都道府県職員の退職管理に関する取組方針の検討内容を紹介.同会議の検討内容については,全国知事会HPを参照*1
同会議において「協議」が行われた『都道府県の行政改革(今後の行政改革の方向性)(案)』を拝読させていただくと,同報告では,同会議が「行政改革の取組をさらに進めるため,都道府県に共通する14の個別のテーマを取り上げ」られ「各テーマの担当府県を中心に中長期的な観点から調査・検討を進め」られてきたなかでの「9テーマ(相互に関連が強いテーマを一つのテーマとして検討したため実質7テーマ)について」,「「これまでの経緯と現状」を把握した上」で「課題」等を明らか」にし,「課題等の分析をもと」に「行政改革の先進的な取組を参考として,都道府県における行政改革の取組をさらに進めるための指針あるいは参考となる「改革の方向性」を示」*2した内容.具体的には,「公務員制度改革」として,「天下りの全廃〈秋田県〉」と「再任用制度の見直し〈秋田県〉」,「国関係法人への支出の総点検〈香川県〉」,「職員採用試験問題(自治体独自の問題作成)〈香川県〉」,「随意契約に係る情報公開のあり方〈栃木県〉」,「行政委員会の報酬見直し〈神奈川県〉」,「事業評価制度〈神奈川県〉」,「事務共同化の可能性に係る研究〈熊本県〉」,「機関や施設等の共同利用に係る研究〈熊本県〉」がその項目.ただし,これらのうち,「国関係法人への支出の総点検」,「職員採用試験問題(自治体独自の問題作成)」,「事務共同化の可能性に係る研究」,「機関や施設等の共同利用に係る研究」に関しては,「相互に関連が強いテーマであるため1つのテーマとして検討」*3されている.
本記事後段部分で紹介されている,都道府県職員の「再就職」に関しては,「再就職先を退職後に,別の外郭団体に再就職する事例や外郭団体の同一ポストに歴代の都道府県職員OBが就いている事例も少なからず見られ」として,「外見的には都道府県の職員にも天下りが存在するとの認識を持たれることにもやむを得ない」*4るとの現状認識を示しつつも,「国の官僚の天下りとの違い」を同会議として,具体的には,5項目に整理.
まずは,「そのほとんどが定年退職である」ことであり,「都道府県における再就職」が「定年退職後に都道府県の職員として培った能力,知識,経験を地域社会に還元するという要素が強く」,一方で,国レベルでは「定年までかなりの年数を残して退職し,再就職する」ため「国のキャリア官僚とは大きく異なっている」*5との認識が示されている.いわゆる「一括採用・一括管理としての内部管理型人事」*6運営は,退職管理においても貫徹されており,必ずしも,都道府県職員の業務により「ロック・イン(lock in)」*7された取組ではないことを,その相違点とされている.自治体における「天下り成果主義の要素が強い」*8との見立てが示されることがあるものの,同会議としては,同見立てを棄却されている,と理解することが適当なのだろうか.考えてみたい.
第2点目は,都道府県レベルでは「外郭団体の要請又は需要に基づいて単に外郭団体との橋渡しを行うにとどまり」,「都道府県としての優位な立場や地位を利用して外郭団体に再就職を押しつけているものではない」*9こととされる.第3点目は,「再就職先での報酬」に関して「都道府県の約65%が何らかの制限を設けている」*10ことにあるという.第4点目は,「再就職先を退職する際の退職金等の一時金」に関しては「都道府県の9割以上が支給しない」*11こととされる.第5点目は,「再就職先を退職し,更に別の外郭団体に就職する「わたり」」に関しては,都道府県レベルでも「約3分の1でその存在が確認されている」ものの,「再就職先での報酬に一定の制限がある」ことに加えて,「その退職時に退職金その他の一時金が支給されていない」として,国レベルでの「高額の退職金を得ている国のキャリア官僚とは同一視できない」*12との認識が示されている.
主に,「国の官僚の天下りとの違い」に関する比較言及は第1点目と第5点目に限定されおり,加えてその場合でも,いわゆる「キャリア官僚」に限定されていることの理由は判然とはしないものの(ここで言及されている「キャリア官僚」とは,「入りの部分」での「キャリア官僚」ということなのでしょうか,又は,「出の部分」での「キャリア官僚」も含めてでしょうか),以上の5点をもって「都道府県の職員の再就職は,国の官僚の天下りとは大きくその内容が異なってはいる」*13とする.ただ,各都道府県では「再就職の実績を積極的に公開」しつつも,「その実態が住民に正しく理解されているとは言い難い状況」ことから,「都道府県の再就職の意義や実情」に関して「住民に正しく理解される必要」があるとして,「これまで以上に再就職に関する情報の公開を徹底」のうえ「公平性や透明性を確保」することを「改革の方向性」として位置付けている.2010年7月6日付の朝日新聞の報道にもあるように,選択肢としては,国土交通省のように「天下り先,解散」*14という選択肢も想定されなくもないものの,「雇用と社会保障をむすびつける」「生活保障」*15が加味されてか(正確には「仕切られた生活保障」(前掲注15・宮本太郎2009年:22頁)でしょうか),「まなざし」による規律付けの強化が提案されている.
下名個人的には,2009年1月23日付の本備忘録にて取り上げた,行政委員会委員報酬の「月額制」に関する違憲判決を受けて,同年2月12日付同年8月23日付同年11月25日付2010年2月20日付2010年3月21日付の各本備忘録で言及した報酬制度の「見直し」に向けた各自治体における検討に関して,同報告では,「地方自治法の趣旨から,月額支給とすることができる特別な事情がある場合を除き,原則日額支給とすべき」ことを「自主的に見直しを進めていくこと」を「改革の方向性」*16として示されていることを,興味深く,拝読.同報告が契機となり,「横並び競争」*17となるか,はたまた「同調性」*18バイアスが生じるかは,要経過観察.

*1:全国知事会HP(全国知事会の活動全国知事会議・委員会・会議)「行政改革プロジェクトチーム会議」の開催について(2010年7月5日)

*2:全国知事会HP(全国知事会の活動全国知事会議・委員会・会議:「行政改革プロジェクトチーム会議」の開催について(2010年7月5日))『資料1 都道府県の行政改革(今後の行政改革の方向性)(案)〜その歩みを止めません。さらなる行政改革に取り組みます〜−中間報告−』(平成22年7月5日,全国知事会行政改革プロジェクトチーム)1頁

*3:前掲注2・全国知事会2010年:1頁

*4:前掲注2・全国知事会2010年:6頁

*5:前掲注2・全国知事会2010年:6頁

*6:大森彌『変化に挑戦する自治体』(第一法規,2008年),250頁.

変化に挑戦する自治体―希望の自治体行政学

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*7:梶井厚志『戦略的思考の技術』(中央公論新社,2002年)124〜127頁

戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)

戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する (中公新書)

*8:中野雅至『天下りの研究』(明石書店,2009年)82頁

天下りの研究

天下りの研究

*9:前掲注2・全国知事会2010年:6〜7頁

*10:前掲注2・全国知事会2010年:7頁

*11:前掲注2・全国知事会2010年:7頁

*12:前掲注2・全国知事会2010年:8頁

*13:前掲注2・全国知事会2010年:8頁

*14:朝日新聞(2010年7月6日付)「国交省の最大級天下り先、解散へ 3800人に転職促す

*15:宮本太郎『生活保障』(岩波書店,2009年)鄽頁

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

*16:前掲注2・全国知事会2010年:24頁

*17:村松岐夫地方自治』(東京大学出版会,1988年)73頁

地方自治 (現代政治学叢書 15)

地方自治 (現代政治学叢書 15)

*18:リチャード・セイラー,キャス・サンスティーン『実践行動経済学』(日経BP社,2009年)95頁

実践 行動経済学

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