リアル公務員

リアル公務員

恐らく,下名にとっての最大の関心事は,煎じ詰めていえば,自治体組織内の文化を知りたい,ということに尽きる.自治体の職場という組織で,いかに物事は決められ,そして,進められ,その時々に,その職場働かれている職員の方々はどのように考えるか.つまり,自治体組織という「社会ユニットの内部者(ネイティブ)なら当然と思っている発想法や行動様式,それを背後で支える規範や価値,使用される文物」*1にこそ,最大の関心があり,国とは異なる一定の論理もあるのではないかとも思いつつ,観察の課題とさせて頂いている.
しかしながら,「公務員の現場は不思議がいっぱい」(5頁)ともされる文化へ観察は,一外部者にとっては困難である.そのため,それらが描かれる当事者によって描かれた,硬軟問わず類書を拝読させて頂く機会も多い.しかしながら,それらの類書では,やや平板な概括的な記述に留まるか,または,厳しいまでの批判的な論調が徹底されているか,あるいは,拝読する側からは窺い知ることもできない怨恨が含まれた筆致によるものか,上記のような関心から拝読をさせて頂く側としては,情報量の乏しさからの不満足感や,論調への疲労感を読了後に感じる少なからずある.
「公務員以外のには理解にでき」にくい「公務員の思想と行動」(20頁)について描かれた本書は,そのような不満足感や疲労感も払拭してくれる一冊.組織文化の描き方では,「内部者になりきると」「当たり前だと思うようになってしまった文化を読み解くのは難しくなる」*2とは解されるものの,本書の著者は,「市役所の公務員になって10年以上」を経過されつつも「既に7つの部署を経験し,そのうち3つは市役所以外への出向」(19頁)されていることが反映されてか,あたかも組織文化への一観察者(組織エスノグラファー)の如く,ほどよい距離間で,自治体組織・職場の文化を描かれる(下名個人的には,「ルール・伝統・様式美」(69頁)における「印鑑の押し方」は,非常に楽しく,拝読).徹頭徹尾「「分かりやすく伝える」こと」(19頁)の基調で貫かれた,本書では,分かりやすさにより失いがちが情報量に関しても,非常に豊かであり,しかも,楽しく,加えて,最終的には「公務員という立場」について深く考えさせて頂く機会となる,良書.

*1:金井壽宏「導入 組織エスノグラフィーとは何か」金井壽宏, 佐藤郁哉, ギデオン・クンダ, ジョン・ヴァン-マーネン『組織エスノグラフィー』(有斐閣,2010年)16頁

組織エスノグラフィー

組織エスノグラフィー

*2:前掲注1・金井壽宏2010年:14頁