金沢市の山野之義市長は4日から、月1回の定例記者会見を始める。これまでの市政や県政にはなかった取り組みで、情報発信に力を入れる山野市長の主要公約の一つだ。ただ、山野市長には、当選直後の会見で示した副市長人事の方針を撤回し、議会の批判を浴びた経緯がある。政策との整合性を図りつつ、どこまで積極的に発言できるか、その手腕が問われている。(多可政史、小寺以作)
 首長の定例会見には、議会閉会中でも市政情報を市民に伝える役目がある。読売新聞が全国の道府県庁所在地に問い合わせたところ、42市で月1回以上の定例会見を実施。福島、水戸、高知の3市では議会開会前に年4回の会見を行っており、定例会見が存在しないのは、唯一、金沢市だけだった。都道府県レベルでも、月1回以上の定例会見を開いていないのは、石川県だけ。全国メディアは、「住民や全国への情報発信が不十分」と定例会見の開催を要望してきたが、山出保前市長も谷本知事も「定例会見はないが、取材には適宜応じている」と反論。自らの発言が地元紙に頻繁に取り上げられることもあってか、金沢市と石川県は“定例会見嫌い”として知られてきた。
 放送大学の楠根重和客員教授(元金沢大教授、メディア論)は、定例会見を開かない理由の一つに多選の存在を挙げる。山出前市長は5期務め、谷本知事も現在5期目。楠根客員教授は、「権力を長く維持すると周囲が意見を言わなくなり、首長が政策を説明・発信する意義を見いだせなくなるのでは」と分析する。
 こうした定例会見軽視の風土に風穴を開けたのが、山野市長だ。定例会見を「トップが思いを伝え、市のベクトルの一端を伝える機会」と位置づけ、4日の会見では、記者から自由に質問を受け付け、会見要旨は数日後に市のホームページに掲載する方針だ。市民や、1、2期目の若手市議の間からは、歓迎の声が上がっているが、情報発信の機会が増えれば、発言とその後の政策の整合性も問われることになる。山野市長は昨年11月の市長選当選後の会見では、官僚出身の副市長を民間人に切り替える意向を示したが、議会への根回しが不十分だったため、今年度は見送りを余儀なくされた。3月議会では、市議から「姿勢がぶれている」と指摘され、陳謝する一幕もあった。前言撤回を頻発すれば、政治家としての言葉が軽くなり、有権者の政治不信を招きかねない。ただ、批判を恐れて当たり障りのない発言に終始すれば、定例会見の意味をなさない。楠根客員教授は「積極的に情報発信する以上、多少の方針変更はやむを得ない。間違いは認めた上で建設的な議論につなげることが大事」と話す。山野市長には、絶妙なバランスが求められる。

本記事では,金沢市における市長記者会見制度の取組を紹介.2010年12月10日に開催された,同市長の「就任記者会見要旨」を拝読させて頂くと,これまでは前市長期には「マスコミをはじめ各種団体や多くの市民とも良好な人間関係があり,そういう場を通して思いを伝えてきた」ものの,「民間から議員を経て市長」になられたこともあり,そのような場を設けることがないことから,「市長がどう考えているかを伝えることは大切」*1との認識に基づき,定例記者会見を整備され,2011年4月4日から開始される模様.
本記事では,あわせて,同紙が「全国の道府県庁所在地」の市に対して行った,各市長の定例記者会見の実施状況に関する「問い合わせ」結果も紹介.「42市で月1回以上の定例会見を実施」,その他4市のうち,「福島,水戸,高知の3市では議会開会前に年4回の会見」となり,残された1市である同市は「定例会見が存在しない」状況にあった,という(そもそもないものなのかと,素直に驚き).
行政体が外部環境とのかかわりにおいて存続し,活動していくための不可避的な手段である」*2とされる広報.その広報において,首長が決して後方に立つことなく,首長「自らが報道の先頭に立」*3つことには,2011年2月3日付の本備忘録でも記録したように,首長による定例記者会見という制度は,当該自治体や当該首長の政策の捉え方を伝達し,観察できる貴重な資料になるとも考えられなくもない.
ただ,もちろん,本記事後段でも紹介されているように,会見の進め方やその応答内容次第では,首長への「イメージ」*4が特定化する虞も生じることもある.また,記者会見では過度な専門性を有する内容がある場合や機微に触れる事項がある場合には,その発言を通じた「作為過誤」を「回避」しようという姿勢も生むことも想定されなくもなく,これにより「不作為過誤の可能性が高ま」り,聴き手側の眼差しは厳しくもなりうる.そのため,「不作為過誤回避を指向する制度においては,不作為過誤の可能性は減らせるものの作為過誤を招く」*5という「ディレンマ」もまた生じうる定例記者会見という制度.上記のような関心からも,首長による定例記者会見制度に関しても,少し整理してみたいなあと,以前から考えてはいるものの,まずは,新設される同市における同制度の運用を,要経過観察.

*1:金沢市HP(ようこそ市長室へ山野市長就任記者会見要旨

*2:井出嘉憲『行政広報論』(勁草書房,1967年)

*3:佐々木信夫『都知事』(中央公論新社,2011年)56頁

都知事―権力と都政 (中公新書)

都知事―権力と都政 (中公新書)

*4:前掲注3・佐々木信夫2011年:56頁

*5:手塚洋輔『戦後行政の構造とディレンマ』(藤原書店,2010年)24頁

戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷

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