NPO法人への寄付を促進するための条例制定に向け、県の外部検討委員会(跡田直澄委員長)は9日、住民税の優遇措置を受けられる法人の指定基準などを定めた報告書をまとめ、黒岩祐治知事に提出した。具体的な制度設計に踏み込んだ提案は全国初といい、県は年内にも独自の新基準を示し、早期の条例制定を目指す考えだ。
 新しい公共の担い手として社会的役割が高まっているNPO法人。県内では2974法人(3月末現在)が国や県などの認証を受けているが、全体の約6割が活動資金不足に悩んでいるという。国税庁の認定を受けたNPO法人への寄付金は所得税の優遇措置を受けられるものの、認定要件が厳しいため、県内では15法人にとどまっている。
 検討委は、税制優遇が受けられる法人を指定する際の要件について「国基準とは異なり、地域の実情を踏まえた独自基準で仕組みを考える必要がある」と指摘。指定の適否は「公益性」と「運営面」で判断し、公益性の高さは「無償ボランティア実績」などを重視するべきとしている。審査に関しては「地域の実情に明るく幅広い見地から適切な判断ができる者が望ましい」と、有識者による第三者機関設置の必要性を強調。各法人の活動内容や寄付の使途に関し積極的な情報公開も求めている。県は「神奈川発の先駆的モデルにしたい」と、提案に基づいた基準や手続きを定めていく方針。年明けには対象法人の選定作業に着手するという。
 ◆NPO法人への寄付金に関する税制措置 今年6月に地方税法が一部改正され、県や市町村が条例で個別に指定した法人への寄付金については、住民税の寄付金税額控除が受けられる仕組みが導入された。県の条例適用で県民税の4%、市町村の条例適用で市町村民税の6%がそれぞれ控除される。

本記事では,神奈川県におけるNPO法人への寄付促進に関する条例制定に向けた検討結果を紹介.同検討は,同県に2010年12月に設置され,同年8月までに6回開催された「NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する検討委員会」*1にて検討.本記事で紹介されている,同委員会が同県知事へ提された報告書に関しては,同県HPを参照*2
同報告書でも記載されているように同県では2010年に「ボランタリー団体等と県との協働の推進に関する条例」を施行しており,同条例第7条第1項第2号にて「ボランタリー団体等が行うボランタリー活動に関する税制度等の環境整備に努めること税制度等の環境整備に努めること」*3との規定されており,「国に対し」「市民公益税制の抜本改革に向けた緊急提言等」の「寄附税制改革の実現を働きかける」*4とともに,同県においても同委員会を設置され検討.同委員会では,20111年6月に成立した国による「税制関連法」*5により緩和された「国税に対する優遇措置である認定NPO法人の要件」である「PST要件」は,「国レベルの基準(ナショナルスタンダード)」であり「全国における標準的,画一的な基準として設定された要件」のため「地方にそのまま活用することはそぐわない」との認識に基づき,「地域の実情を踏まえた地方レベルの独自の基準」*6を設けることの必要性を示されている.
同現状及び問題認識から,同報告書では,「個人住民税の寄附控除の効果果を最大限に発揮するため」にも「県と市町村が対象となるNPO法人を指定」したうえで「県民税控除と市町村民税控除を同時に受けやすい仕組み」*7を提案されている.具体的には,「NPO法人の事務所の所在地に拘らず,県内で活動しているNPO法人を対象」*8に「公益要件と運営要件の二つの側面」から対象となる法人を「判断」*9する.同判断の「審査」手続では,「審査の効率化・客観化を図る」ためにも「審査委員会(諮問委員会)形式」を採用し,その際,「審査に長期間を要したり,寄附促進の効果や控除される税額に比べ行政コストが大幅に発生するおそれ」からも「できる限り組織をスリム化」し,「独立行政委員会のような調査権限を付与せずに諮問答申機関に特化」*10した委員会案の設置を提示されている.なるほど.
勿論,同報告書自体が述べられているものの「行政が税控除の制度を整備したことで,即ち寄附が増大するものではない」*11ものの,同制度の整備により,巷間流布する「公共の部分を,公だけが担うのではなく,市民も担う,NPOも担う,そして企業も担うという「新しい公共」の考え方」*12が,早晩,いわば「古い「新しい公共」の考え方」となるように寄附の促進に結びつくことになるのだろうか.同県の取組状況は要経過観察.

*1:神奈川県HP(組織でさがす県民局県民活動部NPO協働推進課ボランタリー活動の推進に向けた税制度等の環境整備)「NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する検討委員会の概要

*2:神奈川県HP(神奈川県記者発表資料記者発表資料 県政記者クラブ2011年度の一覧9月NPO法人への寄附を促進するための「神奈川独自の税制優遇の仕組みづくり)「NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書」(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する検討委員会,平成23年9月)

*3:神奈川県HP(組織でさがす県民局県民活動部NPO協働推進課ボランタリー団体等と県との協働の推進に関する条例」)「ボランタリー団体等と県との協働の推進に関する条例」(平成22年3月26日,条例第1号)

*4:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)(はじめに)

*5:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)3頁

*6:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)5頁

*7:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)5頁

*8:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)7頁

*9:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)9頁

*10:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)24頁

*11:前掲注2・神奈川県(NPO法人に対する寄附促進の仕組みづくりに関する報告書)36頁

*12:稲継裕昭『地方自治入門』(有斐閣,2011年)198頁

地方自治入門 (有斐閣コンパクト)

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