認知症の高齢者に市民が声をかけて保護する「徘徊(はいかい)SOSネットワーク模擬訓練」(大牟田市主催)が21日、同市内であり、約千人の市民が参加した。行政や福祉、医療関係者が7年前から訓練を行っているが、初めて世界アルツハイマーデー(21日)に併せて実施した。「安心して徘徊できる街」を掲げる大牟田市は来年以降も、この日に訓練を行う方針。
 訓練は午後1時から、大牟田市船津町の男性(72)が「柳川市の娘の家に行く」と言って家を出たまま行方不明になったとの想定で始まった。男性の顔写真や身長、体重、服装などを記した資料が、大牟田署から市役所を通じて市内39カ所の公民館などに流れると、民生委員や社会福祉協議会の職員たちが一斉に捜索を開始。男性の情報は携帯電話にもメールで配信され、情報を入手した市民も捜索に加わった。3時間半の訓練では、制限時間内に男性を保護することはできなかったが、3人の市民がこの男性を見つけ出し、声掛けをしていた。
 訓練には、九州各県をはじめ、関東や北海道など17自治体の職員や福祉関係者ら約120人が見学に訪れ、官民一体による大牟田市の高齢者支援策の説明に熱心に聞き入った。鳥取県琴浦町の民生委員、中本一平さん(72)は「大牟田市の情報ネットワークはさまざまな組織が加わり、きめ細かい。認知症の人を地域全体で支える目的がしっかりとうかがえ、とても参考になった」と話していた。

本記事では,大牟田市における徘徊模擬訓練の取組を紹介.同取組の概要は同市HPを参照*1
同取組は,「2004年度より年に1回」開催され,本年度で第8回目.第5回の2008年度は訓練参加者の合計が825名,第6回の2009年度は1326名,第7回の2010年度は1241名*2が参加.本年度の参加者は,現在のところ,正確な人数は判然とはしないものの,本記事によると「1000人」とも報道(勿論,徘徊には平日も祭日もありませんが,訓練は平日の開催のためでしょうか,参加者がやや漸減傾向にもあるとも窺えそう).
同市では,「行方不明になった認知症の人を捜すためのネットワーク」を整備.具体的には,家族等から警察署へ捜索願いが提出された後,同市への長寿社会推進課へとファクシミリが送信.その後,同課では,「生活支援ネットワーク」と「地域支援ネットワーク」へとファクシミリ又はメールによりその旨をそれぞれ配信.
前者の「生活支援ネットワーク」は地域包括支援センター,介護予防・相談センター,介護支援専門員連絡協議会,介護サービス事業者協議会,薬剤師会,民生委員・児童委員協議会校区会長から構成.後者の「地域支援ネットワーク」は,校区実行委員会事務局と町内公民館長・福祉委員,民生委員・児童委員,老人クラブ,いきいきクラブ,商店,学校,PTA,交番からなる「校区内ネットワーク」から構成.
両ネットワーク間への情報提供は,同課からの一元的系統による情報配信にとどまらず,「生活支援ネットワーク」のうち民生委員・児童委員協議会校区会長から「地域支援ネットワーク」内の「校区内ネットワーク」へも情報が伝達されており,「複数のアクセス・ポイントの提供を通じた政策の実効性の確保」*3されている.なるほど,徘徊に留まらず「現在実施されている制度」に関する「情報提供」のための「つながり」*4としても有効そうな取組.興味深い.

*1:大牟田市HP(くらしの情報高齢者の保健・福祉認知症関連)「第8回徘徊SOSネットワーク模擬訓練

*2:大牟田市HP(くらしの情報高齢者の保健・福祉認知症関連第8回徘徊SOSネットワーク模擬訓練)「第7回徘徊SOSネットワーク模擬訓練

*3:伊藤正次「行政における「冗長性」・再考 重複行政の実証分析に向けて」『季刊行政管理研究』No.134 ,2011年9月号,■頁

*4:西垣千春『老後の生活破綻』(中央公論新社,2011年)158頁

老後の生活破綻 - 身近に潜むリスクと解決策 (中公新書)

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