和歌山県田辺市は、各課の職員間で業務の報告や確認をする夕礼を始めた。2011年度に設けた、職員が市長に事務改善策を提案できる制度で採用した。真砂充敏市長は「トップダウンではなく職員提案という初の試みで実行できたところに意義がある。今後も良い提案を受けたい」と話している。
 市の新制度「職員提案制度」は業務の見直しや新たな政策事業について職員が市長に提案できる。職務に対する自発性やプレゼンテーション能力の向上につなげる狙い。昨年4月から6月にかけて職員に提案を募集したところ、12の個人やグループから28件の応募があった。その後、提案した職員が直接、市長を前に企画内容を説明する機会を設けて選考した。その結果、応募28件のうち、5件が「採用」、11件が「条件付き採用」、12件が「不採用」となった。
 採用になった夕礼は35歳男性職員が提案した。ある企業がコミュニケーション不足を補うため夕礼を始めたところ残業が減るなどさまざまな効果が出たという雑誌記事を見て提案したという。やり方は各課自由で、強制ではない。総務課によると市役所ではこれまで朝礼や夕礼について取り決めはない。同課は週1回程度朝礼を行っていたが終業時の夕礼に切り替えた。企画広報課は朝礼をしていたが終業時にも簡単なミーティングを係ごとに開くことにした。同課の松川靖弘課長は「業務の確認、報告、情報共有に役立てている」と話す。夕礼のほか、職員提案で採用された案件は、各職員が担当している業務をマニュアル化し、職員の休暇や異動の際に別の職員がすぐに対応できるようにすることや、日直の職員が市民からの問い合わせに対応できるように各種業務の資料検索システムを導入すること、各所管施設で備品などを調達する際の入札事務の一括化などがあった。条件付き採用では、会議などでのお茶代の節約や廃止、災害時のための井戸の活用、市の魅力を発信する写真公開などがあった。担当する企画広報課では、来年度も職員提案を募集する予定。

本記事では,田辺市における職員提案制度の取組を紹介.
2011年3月31日に改定された「田辺市職員提案規程」*1.同市の同規程に基づく同制度では,「員自身の創意に基づく建設的なもの」「行政全般に対する政策的又は事務改善的なもの」がその対象とされており,「市民サービスの向上に寄与する事項」,「事務効率の向上に寄与する事項」,「経費節減や収入増加に寄与する事項」,「職場の活性化や職員の意識改革に寄与する事項」,「地域活性化に寄与する事項」,そして,「前各号に掲げるもののほか,公益上有効であると認められる事項」の6つの「いずれかの要件を具備することが見込まれるもの」(同規程第2条)がその対象となる.提案に対しては「創意・独創性」「研究・努力性」「実現性」「効果・効率性」「経済性」の5つの「審査指標」(同規程別紙)に基づき,「委員長は市長,副委員長は副市長の職にある者」,そして,「委員は職員のうちから市長が任命」する方から構成される「田辺市職員提案審査委員会」(同規程第4条)が審査される.
同市の同制度では,これら提案手続に留まらず,同規程第8条により,提案の採用後の扱いに関しても規定されており,興味深い.具体的には,「市長は,採用された提案の実施について関係部等の長に対して必要な指示を与えるもの」(同規程第8条第1項)とすること,そして,「採用された提案を実施した部等の長」に関しても「速やかにその結果について事務局を経由して市長に報告しなければならない」(同規程第8条第2項)と,市長から職員への指示,職員から市長への報告が手続化されており,その実効性が確保されている模様.2011年度の「応募」は「28件」があり,「5件が「採用」」され,「11件が「条件付き採用」となり,本記事にて紹介されている「夕礼」の取組も,その一つとのこと.
同制度では,「個人」のみならず「共同」(同規程第3条)でも提案が可能.共同提案の場合には,その提案に至るまでの「学習」を通じて,結果的には「内省支援」*2を堅固にすることも考えられなくもな.同職員提案により整備された「夕礼」では,日々の「業務支援」*3も制度化に資すると興味深そう.

*1:田辺市HP(田辺市例規集)「田辺市職員提案規程」(平成23年3月31日,規程第3号)

*2:中原淳『職場学習論―仕事の学びを科学する』(東京大学出版会,2010年)142頁

職場学習論―仕事の学びを科学する

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*3:前傾注2・中原淳2010年:142頁