自転車の危険運転や路上の放置対策として、有識者や利用者らでつくる東京都の「自転車対策懇談会」(座長・森地茂政策研究大学院大学特別教授)は十日、ナンバープレート装着と購入時のデポジット(預け金)制度の導入を提言した。都は条例化に向けて検討を進める。ナンバープレートやデポジット制度が実現すれば、全国唯一となる。
 ナンバープレート制度は、自転車の後部に登録ナンバーを装着する。デポジット制度は、購入時に販売店を通じて一定金額を預け、適切に廃棄した場合に受け取る。提言は、ナンバープレート制度の利点について「利用者の責任感を醸成し、ルール厳守やマナーの向上を図る」と指摘。デポジット制度については「自転車を大切にする意識を高める。放置自転車が減少し、撤去された自転車の返還率が大幅に向上する」とした。一方、問題点として(1)厳格な登録制度が必要(2)自転車の手軽な利便さを損なう(3)手続きや経済的な負担が増える−などを挙げたが、「自転車対策の切り札となる可能性がある。決して先送りすることなく、近隣県にも同じ制度を広めるほどの意気込みで検討すべきだ」と結論付けた。森地座長は都の樋口真人青少年・治安対策本部長に提言書を渡し、「自転車を使って便利さを感じる人より、自転車から迷惑を受ける人の方が多い。問題の解決を目指し、本年度中に条例制定に向けた一歩を踏み出してほしい」と話した。

本記事では,東京都における自転車対策の検討結果を紹介.同検討結果に関しては,同都が設置された自転車対策懇談会により,2012年9月10日に提出された提言書を参照*1
本記事では,「ナンバープレート装着と購入時のデポジット(預け金)制度の導入」に焦点を当てて紹介.ただし,同提案書では,これら二つの提案が主たる内容ではなく,「自転車の安全利用の推進 安全教育の機会の確保と受講の促進」,「放置自転車の減少駐輪場の整備,案内の充実」,「安全で快適な利用環境の整備」「走行空間の整備及びネットワーク化」という3つの「解決すべき課題」に対して,「悪質な違反の取締り等」,「自転車の車体の安全性の向上」「損害賠償責任保険の普及」,「ヘルメット着用の促進」,「自転車利用者の意識・行動の改革」,「自転車利用者にわかりやすい表示」の対策の必要性とその着実な実施をまずを課題と置かれたうえで,「ナンバープレート制度の導入」と「デポジット制度の導入」*2を提案されている.
ただやはり「ナンバープレート制度の導入」と「デポジット制度の導入」は興味深い提案.同提案書内でのそれぞれの提案を拝読させて頂くと,まず「ナンバープレート制度の導入」は,「そもその,自転車利用者が「自転車は車両であり自らは車両の運転者である」という自覚と責任を持つことが重要」との認識から「自転車利用者の責任感を醸成し、ルールの遵守やマナーの向上を図ること」を目的とされている.ただし,あわせて課題も整理されており「都内の自転車利用者全員が確実に参加するための厳格な登録制度が必要」であること,「プレートの形状や取付け位置」が「視認性と安全性の担保が必要」であること,「厳格な登録制度を運用するためには,住所変更等の各種手続が必要となり自転車利用者の負担が増加」すること,「大掛かりな制度を導入・運用することによる社会的コストが発生」すること,「意図的にナンバープレートを装着しない者への制裁を確実に行える仕組みが必要」であるという.特に,現行の「自転車法に基づく防犯登録制度」との「二重登録」により「自転車利用者の過度の負担や社会的な無駄」*3の解消も課題とされている.
デポジット制度の導入」では,「区市町村が撤去した放置自転車を返還する際の利用者負担金が3千円程度」である一方で,「新車の価格が1万円を切るような自転車が多く存在する」現状が「自転車の安易な放置・放棄が助長されている」として,また,このことが「撤去された放置自転車の約4割が所有者に引き取られないまま処分」されることとにもなり,いわば「自転車が使い捨てのようになっている」現状認識からの提案である.デポジット制度により「駐輪場の整備等の既存の放置自転車対策を進める』ことに加えて,「自転車の価値を高めて,経済的な誘引によってそもそも自転車を大切に利用する意識を高めることが効果的」とも考えられている.ただし,同制度もまたあわせて課題も整理されている.具体的には,「制度の設計次第」では「放置自転車が減少し,撤去自転車の返還率が大幅に向上するなどの効果が見込まれる」ものの,「他方,預け金の額」は「自転車利用者の金銭的負担の重さと,制度として機能するに足りる額とのバランスを考慮する必要がある」こと,「全ての自転車利用者が必ず預け金を預け,自転車の処分時に確実に預け金が返還されるが,路上に放置するなど不適切に廃棄した者には返還しないといった厳格な制度設計をする必要がある」*4ともされている.
いずれの提案も,まさに「自転車対策の切り札」*5としてその効果(期待)が明記されている一方で,上記の通り制度設計上の課題も言及される二つの提案.まずは,二つ以外の上記の対策の実効度次第ではあるものの,「自治体の場合」「利益団体の影響力は必ずしも大きくない」*6とは解されるなか,具体的な制度設計は,上記提案書を取りまとめられた自転車対策懇談会に加わる「その他自転車利用に関する関係者」*7との間での更なる意見や意向との調整がやはり課題とも考えられそう.今後の具体化の過程は,要経過観察.

*1:東京都HP(各局のページ青少年・治安対策本部交通安全対策自転車総合対策:「東京都自転車対策懇談会」から都への提言について自転車問題の解決に向けて」(東京都自転車対策懇談会,平成24年9月)

*2:前掲注1・東京都(自転車問題の解決に向けて)3頁

*3:前掲注1・東京都(自転車問題の解決に向けて)10頁

*4:前掲注1・東京都(自転車問題の解決に向けて)10頁

*5:前掲注1・東京都(自転車問題の解決に向けて)11頁

*6:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『改訂版 ホーンブック地方自治』(北樹出版,2011年)96頁

ホーンブック 地方自治

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*7:前掲注1・東京都(自転車問題の解決に向けて)12頁