東日本大震災津波被害が甚大だった東北の沿岸市町村で、地域自治組織の解散や休止が相次いでいる。震災から間もなく3年。被災地域の人口が流出し、集団移転先など新たなコミュニティーを単位とする組織の設立が本格化した。一方で、従来組織の解散や新団体への移行が円滑に進んでいない地域もある。(報道部・亀山貴裕)
〈「会合開けぬ」〉
 震災前は223団体あった宮城県気仙沼市で1月、4自治会の合同お別れ会があった。市内外から元住民約150人が集まり、仲間との再会と古里を離れる悲しみに涙を流した。市内では同月までに、この4団体を含む7団体が解散した。
 2011年に解散した内の脇2区自治会の最後の会長だった内海勝行さん(69)は「元の土地には家を再建できない。会費集めどころか、会合すら開けない自治会に存在意義はないという結論に至った」と話した。
 河北新報社が岩手、宮城両県の被災27市町村に取材した自治組織の増減は表の通り。自治組織は市町村によって自治会、町内会、契約会などと名称や組織の形状、規模が異なる。陸前高田石巻両市と宮城県亘理町は、任意団体であることを理由に震災前から数を把握していなかった。24市町村のうち9市町は、仮設住宅団地の自治会など一時的な自治組織を除き団体数が減った。宮城県南三陸町は住戸がないため区長を置かなくなった行政区を独自に「事実上の解散・休止」として計算した。減少の理由は「住民がいなくなった」「仮設自治会や移転先のまちづくり協議会の設立が進んだため」など。「過疎化による統廃合」(岩手県洋野町)の回答もあった。

〈休眠状態多く〉
 宮城県名取市閖上地区で6団体が解散したが、宅地分譲が進んだ内陸部で新たに8団体が設立され、2団体増となった。増減に変化がない自治体は14市町村。ただ、内情は事実上の解散・休止状態となっている自治組織が多いようだ。宮城県女川町は「解散はない」と答えたが、担当者は「少なくとも16団体が休止状態にある。将来的には統廃合が進むだろう」とみる。仙台市津波被災地で解散した団体はない。市が自治組織維持に補助金を出している経緯もあり、集団移転の推移をにらみつつ活動を継続する団体が少なくない。宮城野区西原町内会は災害危険区域に入ったのにもかかわらず、月1回の意見交換会や情報紙発行を続ける。町内会長の大和田哲男さん(69)は「解散は集団移転が落ち着く2年後が目安になるが、可能な限りかつてのつながりを保ちたい」と話す。

 集団移転後の暮らしを見据えて新たな地域自治組織の設立を目指す動きが本格化する一方で、従来組織で管理していた共有財産がネックとなり新団体へ移行できないケースも出てきた。宮城県岩沼市沿岸部の被災住民らの動きを追った。
◎移転先に設立
 全戸移転が決まっている相野釜地区の住民が11日、集団移転先に新たな町内会を設立した。実際の移転は今春以降だが、会長の中川勝義さん(75)は「ごみ捨て場の管理など移転後すぐに取り組まなければならない課題は多い。今から議論を深め、より良い生活を目指したい」と話す。新町内会には災害公営住宅への入居者を含む54世帯が参加する。これを機に、個別再建の住民とは別々の道を歩む。市沿岸部では相野釜をはじめ、6集落が集団移転を計画する。計300戸余りが市内唯一の集団移転先として造成される玉浦西地区へ移り住む。新町内会の設立は相野釜が2例目。旧6集落が計四つの新町内会をつくり、新しい街の住民自治を担う予定だ。
◎定まらぬ対応
 同様に集団移転する蒲崎地区は新町内会設立が来年にずれ込む。約10世帯が家屋を修理して現地再建している上、町内会が所有する公会堂など共有財産の処分が済んでいないためだ。
 「公会堂を解体するにしても、現地に残る住民で維持するにしても多額の費用が掛かる」と会長の菊地武さん(71)は説明する。「市に譲渡を申し入れたが断られ、町内会としての対応が定まらない」と悩む。市復興整備課は「宅地と一部農地以外は防災集団移転事業による買収対象ではなく、市単独で買い取る余力もない」と理解を求める。全戸移転の相野釜も共有地の処分は終わっていない。旧町内会の法人格だけ残し、当面は一部住民で管理する考えだ。
 地域コミュニティーに詳しい帝塚山大法学部の中川幾郎教授(地方自治論)は「自治組織の円滑な解散、統合に向け、県や市町村は財源や支援を国に訴えるべきだ。共有林のように分割不可能な不動産の買い取り制度を求めるなど、既存の法体系に縛られずに臨んでほしい」と話す。

本記事では,岩手県宮城県に位置する被災27市町村における地域自治組織の震災前後の状況を紹介.同紙による調査.なお,「陸前高田石巻両市」と「亘理町」は「任意団体であることを理由に震災前から数を把握」されていないため,集計は24市町村となる.
同調査結果からは,被災24市町村のうち,14市町村は震災前後での地域自治組織数に変化はなし.増加は名取市の2組織(140から142組織),減少は第1記事にて報道されているように「9市町」となる.減少数の多寡では,最多の減少数では17組織となる南三陸町(74から57組織),次いで,宮古市の15組織(215から200組織),気仙沼市の7組織(223から216組織),大船渡市の5組織(132から127組織),釜石市の4組織(128から124組織),洋野町(76から73組織)と東松島市(67から64組織)の3組織,大槌町の2組織(19から17組織),山田町の1組織(20から19組織)の順となる.
また,両記事では,変化がない14市町村でも「内情は事実上の解散・休止状態」にある様子や「新団体へ移行」に際しての「共有財産の処分」の現状も報道.後者への「共同管理」*1の困難さが窺える本記事.調査結果と両記事ともに大変参考になる.

*1:高村学人『コモンズからの都市再生』(ミネルヴァ書房,2012年)14頁

コモンズからの都市再生―地域共同管理と法の新たな役割

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