浜松市行財政改革推進審議会(鈴木修会長)は21日、行政区制度をテーマに本年度第7回の公開審議を同市中区で開いた。市側は合併、政令市移行時以来の大方針だった「大きな区役所、小さな市役所」を転換し、「効果的・効率的な区役所」を目指すことを明らかにした。11月に立ち上げた庁内組織で詳細を議論し、2010年度の組織改正に反映させる。
 「大きな区役所」は、12市町村の合併時に都市内分権の実現のため、市民サービスに直結する最前線の区役所業務を充実させる一方、本庁をスリム化する合併推進のキャッチフレーズとして用いられてきた。飯田彰一副市長は「区の数は合併協議会でいろいろな論議があった」などと経緯を説明する一方、「今は身の丈にあった区の在り方、見直しの必要を感じている」と発言した。市側は「『大きな区役所』の定義が、区の権限なのか財源、施設なのか混乱がある」とし、▽サービス低下にならない効果的な区役所像をつくる▽像に沿った具体的な区制方針を策定する―とした対応方針を示した。市によると、来年度は全職員の約25%に相当する1470人を各区職員として配置する計画。鈴木会長は今後予想される厳しい財政問題を指摘し「思い切った改革が必要。今までの延長線上では破たんする」と大胆な制度改革を迫った。

少し古い記事ですが,同記事では,浜松市に設置された行財政改革推進審議会において,行政区制度の業務見直しに関する審議を行ったことを紹介.同記事報道時に審議会資料を拝読しようと,同市同審議会HPを拝見するも未掲載.本日,同HPを確認させて頂くと掲載されていたため,報道時より遅れて紹介.
同市同審議会同回のHPを拝見すると,同市の行政区では「大きな区役所、小さな市役所」の理念の下,「法令の規定により行う市民に身近な事務(法定事務)」(戸籍・住民基本台帳の管理、外国人登録等)と,「法令の規定はないが.法定事務との関連で市の判断により行う事務」(市税の賦課,福祉サービスの申請受付・実施,市民相談等)に加え,「まちづくり機能」として,「地域振興やまちづくりなど現場主義の実践による地域完結型の事務」(区まちづくり事業,身近な道路や河川等の管理,災害復旧,防災,防犯対策等)を担うこととされてきた*1.しかし,「本庁と区役所の役割分担が不明確となっている」「また,職員数に限りがある中,本庁における職員(特に技術職員)の確保ができていない」(24頁)との現状認識に立ち,今年度より,機構の改正(区役所の17部廃止,地域自治センターの小規模課の統廃合,保健所と支所を5か所から2か所に統合,北支所と天竜支所の浜北支所への統合),事務事業の見直し(区役所から本庁への事務を集約(95事務:小規模な公園の管理運営,市道の街路樹の維持管理,狂犬病予防,食品衛生,全市的施設の管理等),本庁から区役所に事務を移管(23事務:予防接種、母子保健など保健事務,鳥獣保護・有害鳥獣に関する相談,雑草の除去に関する事務等),特定の区から各区に事務を割振り(31事務:敬老祝金など福祉関係補助金等の支払い事務,介護認定審査会の運営,在宅介護支援センターの支援事業等)),職員配置の見直し(25〜31頁)を進めている.
同回の別配付資料では,行政区の課題認識も示されており,何れも興味深い*2.これらの現状を拝見すると,一浜松市のみの課題に限られるものではないようにも思われる.例えば,「実務の執行体制が「本庁-中区-他区」の3段階」との現状認識は,さいたま市静岡市新潟市堺市のように,本庁庁舎が所在する区の区役所(区庁舎)が,本庁庁舎内に設置されている場合(いわば,「まだら区役所」又は「まだら市役所」か)には,本庁庁舎内区役所が他の区役所との関係のなかでは,恰も「同輩中の首席」の位置づけになっているように読め,他都市でも共通して観察できそうな特性とも考えられそう.興味深い(これもまた,12月7日付の本備忘録でも夢想してみた「庁舎管理の行政学」のひとつのテーマか).
ただ,2007年4月の同市の政令指定都市移行からすれば,当方個人の感覚的には,同制度の見直し時期としては,やや早期の決断かなあとも思わないでもない.確かに,例えば,10月21日付の本備忘録12月8日付の本備忘録でも取りあげたように,予算編成の仕組みの効率化手法(具体的には,枠配分予算制度)と行政区制度の整合性は,いま一つ判然としない部分も残る(地方分権改革推進委員会が提出された『第2次勧告』にて提案された「地方振興局(仮称)」と「地方工務局(仮称)」*3において,「各府省に対する総合的な調整機能を有する内閣府出先機関として設置」されるものの,「各部門の事務・権限については,内閣府による総合的な調整のもとで,関係各大臣による指揮監督が行われるものとする」(39頁)という,いわば「現住所」と「本籍地」との間での指揮命令関係の複雑性に関する制度設計案とも共通する課題を孕むとも言えそうか).しかしながら,同制度の見直し.これらの機構の整備,個々の事務権限移譲に対する「費用便益分析に基づいた経済的・技術的な要因のみによるだけではなく」*4,同制度見直しへの意思決定に至る多角的な要因もあるのだろうか.要経過観察.

*1:浜松市HP(浜松市行財政改革推進審議会審議会開催情報:第7回20年12月21日(日)開催)「区制について」11頁

*2:浜松市HP(浜松市行財政改革推進審議会審議会開催情報:第7回20年12月21日(日)開催)「区役所から見た区行政の課題について」1〜7頁.具体的には次の通り.(1) 本庁と区役所の関わり:中区は本庁や他の区の業務も行っているため過度な負担となっている,実務の執行体制が「本庁-中区-他区」の3段階となっているため迅速な対応ができない.(2) 区の組織:1.区役所;各区の組織及び機能が統一されていない,効率的な事務執行体制となっていない,所管する事務に対して課名が分かりにくい,身近な行政サービスをワンストップで提供できる体制となっていない.2.地域自治センター:各種手続きが完結できる機能が不足している,旧市町村が実施してきたまちづくり事業の維持が難しい,これ以上職員が減少すると,災害時の対応,地域活力の維持が難しい.?市民サービスセンター:証明書交付等以外の機能が不足している.3. 区の人事,職員配置:本庁と区役所の間の人事交流が不足している,本庁と区役所間で職位が異なる,人事異動が3月から4月の繁忙期に行われている,専門的な職員の配置が不足している,区長の人事権が不足している.(4) 区の予算:区の実情(優先度)が予算に反映されていない,区に関わりのある予算の情報が提供されていない,区長の裁量予算が限られている,道路修繕に関する区の予算が不足している.(5) その他:区役所へのアクセスが不便である,業務の各種マネジメントシステム(ISO14001,行政評価システム等)が負担となっている,組織活性化や職員のモチベーションを上げるための仕組みが構築されていない,実証的な検討のなかで市民に役立つ区の機能を確立する. 

*3:地方分権改革推進委員会HP(委員会の勧告・意見等)『第2次勧告 〜「地方政府」の確立に向けた地方の役割と自主性の拡大〜』(平成20年12月8日)』,38〜40頁

*4:砂原庸介「事業廃止の政治学」日本政治学会編『年報政治学 2008-2政府間ガバナンスの変容』(木鐸社,2008年)254頁

政府間ガバナンスの変容 (年報政治学)

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