名古屋市の2010年4月の嘱託職員採用試験で、元市部長ら3人が、市議の口利きで不正採用した問題で、弁護士6人による調査チームが22日、最終報告書を河村たかし市長に提出した。原因分析と再発防止への提言が中心で、国会議員や自治体の首長を含む公職者からの要望を適正・不正を問わず全て記録として残す制度の導入や、調査権限を持つ第三者機関の設置を盛り込んだ政治倫理条例の制定などを求めた。
 調査チームは今年4月の中間報告で、当時の市生活福祉部長ら職員3人が、合格基準に達していない男性の解答用紙を改ざんするなどして不正に合格させ、自民党市議の要請が背景にあったと認定した。最終報告書は一部を訂正したが、認定した事実は大筋で変えなかった。不正が起きた原因は▽議員の要請で職員が裁量権を行使している可能性を否定できない▽要望への対応が懲戒処分に該当するとの規範意識が希薄だった−−などと分析。市議らからの不正な要望を職員が通報して記録を公開する「市適正職務サポート制度」など従来の不正防止策の不備を指摘し、新たな改善策の導入を提案した。河村市長は「具体的な口利きがあったら(適正・不正を問わず)全部書くのはいい」と新たな再発防止策に前向きな姿勢を示した。また真相解明のため市議会に地方自治法に基づく調査特別委員会(百条委)を設けるよう改めて主張した。この問題では、愛知県警が虚偽有印公文書作成などの疑いで職員3人を書類送検したが、名古屋地検は5月に不起訴処分とした。市は当時の部長ら2人を免職にするなど3人を懲戒処分にした。【井上直樹、高橋昌紀】
 調査チームは記者会見で、3人が処分された今回の不正採用問題以外にも、市職員採用にまつわる不正に関して約20件の情報が寄せられ、調査したことを明らかにした。いずれも不正な事実を認定するには至らなかったが調査に当たった弁護士は「何らかの不透明感がある」と指摘した。最終報告書では寄せられた情報のうち「ある程度具体的な情報提供」として、市の施設の臨時職員などの採用試験を巡り、市議など第三者からの口利きや推薦があったとする九つの情報を記した。いずれも不正は認定できなかったが、チームは「多くが嘱託員や臨時職員の採用に関するもので、合否の判断は各担当部局に委ねられている」と指摘。外部からの監視の目がない面接で合否が判断されることから「裁量の逸脱や乱用」がある可能性を否定しなかった。調査チームの北條政郎弁護士は「調査の限界で(事実を)追いかけれられないこともある。できる範囲で調査し、検討した」と説明した。【井上直樹

本記事では,名古屋市における「嘱託職員不正採用問題」に関する専門調査委員による最終報告書の内容を紹介.同問題の「概要」は,2013年2月12日付の同市記者会見*1及び2013年6月18日付の報道発表資料*2で公表されている.
同公表資料別紙を確認してみると,「平成22年4月24日に実施された国民健康保険料に係る滞納整理嘱託員の採用選考試験」の際に「上司から部下に対して,特定の受験者の採用に関し不適正な指示」が行なわれ「解答用紙が改ざん」.当該改ざん行為の結果,「受験者が採用選考試験に合格に至る」までの「事実関係」*3は以下のように整理されている.

(1)生活福祉部長(当時)から保険年金課長(当時)に対する不適正な指示
・特定の受験者二人の採用について「なんとかしてくれ」等と指示
・採用選考試験の面接試験において,二人の面接は,保険年金課長が担当するよう指示
・一人の配置区を特定の区にするよう指示
(2)保険年金課長(当時)から保険料係長(当時)に対する不適正な指示及び保険年金課長(当時)が自ら行った不適正な行為
・特定の受験者二人の採用について「どうしても合格させないかん」等と指示
・採用選考試験の面接試験において,二人の面接は,自分が担当するよう指示
・採用選考試験の面接試験において,同じ面接班の課長に対し、特定の受験者二人を暗に合格させたい意向を示し,また,一人について推薦する
ような話をした
・一人の配置区について、部長の指示を受けて、配置案を変更
(3)保険年金課保険料係長(当時)の不適正な行為
・特定の受験者一人の解答用紙を改ざん
・この行為は,上司の指示に対し再三拒否したものの,強い指示に抗しきれずに行ったもの

同市では2013年6月18日付で「健康福祉局生活福祉部長」及び「健康福祉局保険年金課長」は免職,「健康福祉局保険年金課保険料係長」は「停職6月」の処分.「管理監督責任」として,市長には「減給10 分の5・3 月分」,副市長は「10 分の3・1 月分」を「自主返納」,また,既に退職された当時の副市長も「10分の3・2 月分相当額」,健康福祉局長は「10分の1・3 月分相当額」,健康福祉局副局長は「10分の1・1 月分相当額」*4の自主返納を要請している.
同処分に先立ち,同市では「専門調査委員の設置に関する規則」を整備し,「職員の採用に係る法令の違反その他の不適正な行為に関する事項」の「調査を行い」「その結果を市長に報告する」*5 ため「法律に関し学識経験を有する者のうちから市長が選任」(同規則第1条)した同委員を配置し,2013年4月3日には「専門調査委員による中間報告書」*6が提出.本記事は,同専門調査委員会による最終報告の内容を紹介.現在のところ,同市HP内では同報告書は確認できない模様.公表後,要確認.本記事では「市議らからの不正な要望を職員が通報して記録を公開」する制度の整備を提案された模様.口利きという名の「ネポティズム*7を回避するためには,では「不正な要望」とされる場合の「不正」性をどのように認定されるのか,その判断を回避するためにも全ての口利きを公開の対象とされるのか,具体的な制度整備の過程も要経過観察.