袖ケ浦市議会が、市提案の人事案件に対して不同意を突きつける異例の事態に発展している。十三日開かれた本議会では副市長、監査委員の選任について、いずれも反対多数で不同意。昨年の十二月議会でも教育長人事を不同意とするなど、事態は“泥仕合”の様相を呈している。市長選でのしこりや議会への根回し不足が原因として指摘される中、今後、混乱する議会のあり方が問われるのは必至だ。
 同市は昨年七月に伊藤彰正前副市長が辞職して以来、十一月に出口清市長が就任してからも副市長が不在。ようやく今議会で、副市長に元県総務部長で社団法人県経済協議会専務理事の飯田洋氏(64)を選任する議案を提案した。副市長人事について十三日の本議会討論では「副市長不在は行政運営にとって不適切」「官民を経験しており適任」と賛成の声がある一方、「『県から人は呼ばない』という以前の答弁と矛盾している」「県の天下り人事ではないか」など批判が噴出。採決の結果、監査委員の選任とともに反対多数で不同意となった。異例の事態を受け、出口市長は「残念。市民にとってこれ以上ない最適の人物だった」とがくぜんとした様子でコメント。今後の人事見通しについては「分からない」と声を落とした。既に同市では教育長人事をめぐって、十二月議会では不同意、翌三月議会では同意―という混乱が起きている。度重なる人事案件の不同意について、昨年の市長選をめぐる議会内のしこりを指摘する声も。また、ある市幹部や議員からは出口市長の議会への根回し不足を疑問視する声も聞かれる。今後、副市長不在が続けば市政運営への影響が懸念される。ある議員が「人事が否決されるなんて聞いたことがない。話にならない」と嘆くように、市民不在で内輪もめに近い“泥仕合”を続ける議会のあり方が問われるのは避けられない。

同記事では,袖ヶ浦市において,上程されてきた議会同意人事案が悉く「不同意」とされていることを紹介.
4月20日付の本備忘録でも取りあげたこともあるが,副市町村長就任に際しての議会による「同意」の制度化は,地方自治法の制定当初の議論(当時は,助役)では「市町村会と無関係に助役を選任することは,一見市町村長及び助役の地位を有利なら占めるようであるが,市町村会との交渉が極めて多いことを考えると実際は却って助役の地位を弱体化し,行政運営の上に於いても円滑を欠く結果となる」*1ことを根拠に,制度化されている.つまり,副市町村長が「市政レベルでの政官の結節点」又は「政官の交錯点」*2であるがゆえに,その職就任後の議会との調整の多さを想定してか,いわゆる「事前統制」の仕組みともいえる,議会による同意が制度化されたのである.
ただ,同制度,市長・区長の意向としては,改革の対象とは考えていないようである.例えば,前職場の頃に行った郵送質問紙調査の結果では,7割の市長・区長は,議会の同意制度については「現状維持・継続」との意見が大半であった*3.この結果は,田村秀先生による調査結果でもほぼ共有された結果*4が示されており,大半の市長は制度改正を好んでいないともいえる.ただ,先の郵送質問紙調査のなかで,制度改革を指向する首長の回答を,その任期と就任年との間でクロス分析を行ってみた.その結果,第1期の市長・区長が4割を占めており,また,就任年では3期目の初年度を除くと,各期の最初年度の市長・区長からの改革意向が高いという結果にもなっていた(126頁).同意人事は,首長が第1期目,又は,各期初年度には必ず心悩む,自治体歳時記の一つなのだろう.
個人的には,同記事にも記載されているような各職に関する人事権は,執行機関としての長の判断の範囲に帰属するものではないかと思う部分もある.また,不同意との結果に至る,実質的な「身体検査」*5が議会側でどの程度行われているか,住民の側からは分かりにくいとも思うこともある(更には,当該人物が「適・不適」かなどは,実際その職に就いてみないと分からない部分もあるかと思う).この論点については,全国都道府県議会議長会に設置されていた「都道府県議会制度研究会」の報告書では「一定の方向を見出すまでには至らなかった」*6とあり,全国市町村議会議長会に設置されていた「第2次地方(町村)議会活性化研究会」の『最終報告』では,そもそも論点への方向性としての言及がなされていないようである.論じても益なきということなのだろうか.
余り論じられないなかで,敢えて議論を考えてみると,執行部の人事権の乱用を抑止するためには,議会による何らかの人事統制の仕組みが必要との意見も想定されうる.その場合,現行の「事前統制」を継続するよりも,その職に就いた方々への業績をもとに,「事後的な統制」として,地方自治法81条を改正し,当該条文の規定を「長,副知事若しくは副市町村長,選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会の委員」と改めて,いわば「議会による」解職請求等の仕組みを整備した方が,少なくとも住民の視点から見れば,理に適うとも思う(もちろん,議員も又「住民」であるので,地方自治法第13条による「主要公務員の解職請求権」で対応できるともいえそうだが,実質的であるかという疑問もある).これもまた,執行部・議会双方にとっても余り望まれない仕組みなのだろう.

*1:内務省『改正地方制度資料第1部』(1947年)1284頁

*2:金井利之「はじめに」『倉敷の町並み保存と助役・室山貴義』(公人社,2008年)酛頁

倉敷の町並み保存と助役・室山貴義―自治に人あり〈1〉 (自治総研ブックレット)

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*3:松井望「自治体組織の現状 3 制度改革構想の行方−長・議会制度の改革動向−」『自治体組織の多様化』(財団法人日本都市センター,2004年)126〜128頁

自治体組織の多様化―長・議会・補助機関の現状と課題

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*4:田村秀『自治体ナンバー2の役割』(第一法規,2006年)118〜119頁

自治体ナンバー2の役割―日米英の比較から

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*5:上杉隆『官邸崩壊』(新潮社,2007年)88〜89頁)

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

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*6:都道府県議会制度研究会『改革・地方議会』(2006年3月29日)49〜50頁