仙台圏の多賀城、塩釜、名取3市と富谷、利府二町の課長以上の幹部職員(外局職員を除く)計180人のうち、35.6%の64人が勤め先の役所と別の市町村に住んでいる。他市町村の居住率が高いのは多賀城、塩釜、名取の3市で、「実家が他市町村にある」という理由が多い。市民は「居住の自由がある」と理解を示すが、一部の市民は「市民から市税を徴収する役所の職員が自分の市に納税していないのは住民感情として釈然としない」と話している。
 多賀城市の幹部は36人で、47.2%に相当する17人が他市町村に住み、うち6人が仙台市に居住している。塩釜市は59人で、40.7%の24人が市外に住まいを持ち、うち7人が仙台市で暮らしている。名取市の幹部は27人。37.0%の10人が市外在住者で、うち7人が仙台の自宅から通う。利府、富谷両町幹部で他市町村居住者は22.5%、22.2%にとどまる。仙台市に住む塩釜市の男性課長(53)は「若林区に実家がある。塩釜で暮らすのが理想だが、家は手放せない」と語る。多賀城市は「職員の実家が市外にあったり、市外で同居する親を介護したりするため」と説明する。名取市は「名取の郡部に住むより、名取寄りの仙台に居住した方が非常時に便利」と語る。3市は市民税と固定資産税などの納付を市民に義務付けている。市民税は定額3000円と所得に応じた所得割、固定資産税などは不動産評価額の1.7%を徴収している。市幹部がこれらの税金を居住地の市町村に納め、結果として自分の市に納税されないことについて、本人らは「特に考えたことはない」「居住先の市町村に納付すれば問題ない」と述べる。「ふるさと納税で勤務先の市に納めている」と言う塩釜市幹部もいる。多賀城、塩釜両市は「有能な人材を確保するため、他市町村からも採用した結果、市外居住者が一定割合になった。被採用者の居住地を限定すべきでないとする国の指針にも倣った」とする。名取市も似た見解を示す。幹部の他市町村居住率が低い利府町は「町民に限って採用した、かつての基準の名残」と話す。市幹部の最高で4割以上を市外居住者が占めることについて、多賀城市の会社役員男性(66)は「職員を地元住民に限ると、縁故採用が増える。採用の公平性や居住の自由から、市外居住者を積極的に採るべきだ」と支持する。
 塩釜市の無職男性(72)も「どこに住んでもやるべきことをやってくれればいい」と言う。
 一方、塩釜市の主婦(67)は「少ない年金から市税を払っている。市職員が市に納税していないのは納税者としていい気持ちがしない」と述べる。

同記事では,多賀城市塩釜市名取市,富谷町,利府町の課長級以上180名のうち64人(35.6%)が勤務自治体内に居住していることを紹介.同内容が記事になること自体は興味深い.
(本備忘録では,毎度おなじみの参照文献ですが),財団法人日本都市センターが全国の都市自治体に対して,2007年11月〜2008年1月に掛けて実施した郵送質問紙調査でも,各市区役所に勤務する職員のうち,市区内居住者の割合を尋ねている.その結果,市長部局職員では74.3%,全職員では74.1%との状況にあり,これは「人口規模による差はあまりない」との結果にある*1.そのため,同記事で紹介された何れの自治体においても,課長職以上だけのデータではあるが,概ね「全国的標準」の職員居住割合ともいえなくもない.
居住・移転の自由の観点からは,自治体職員といえども職場近くに居住することを拘束されることはなく,少なくとも,災害対策要員として,初動体制の確保に必要とされる要員が一定数居住されていればよいのかとも思う.どうだろうか.ただ,自治体職員は,勤務する自治体に居住するもの,という「慣行」があり,西尾隆先生が分析されるように,実際の「制度運用の実態が法規以上に慣行に規定されている」*2のだろうか.その一方で,金井利之先生がご指摘されるように,「職員一人いれば,その倍数の地域住民の居住が可能になるわけであるが,その喪失は限界集落の拡大を促進するかもしれない」*3こともまた事実.9月7日付の本備忘録でも見たように,日本の中心地域である新宿区においても「限界集落化」が進んでいる.上記の日本都市センターの調査では,「特別区だけは31.8%と,他よりも低い割合となっている」(232頁)ともあり,金井利之先生の分析を,側面からではあるが,証明しているような結果となっている.

*1:財団法人日本都市センター『分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究』(財団法人日本都市センター,2008年)232頁

分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究-市役所事務機構アンケート調査結果報告-

分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究-市役所事務機構アンケート調査結果報告-

*2:西尾隆「国家公務員制度改革基本法」『ジュリスト』2008.9.15号,No.1363,44頁

Jurist(ジュリスト)1363

Jurist(ジュリスト)1363

*3:金井利之「地方自治のミ・ラ・イ第6回「職員リストラ」のミ・ラ・イ」『ガバナンス』2008年9月,83頁

ガバナンス 2008年 09月号 [雑誌]

ガバナンス 2008年 09月号 [雑誌]