島根県川本町議会は19日、悪質な町税滞納者の名前公表などを可能にする条例案を賛成多数で可決した。同様の条例は中国地方の自治体では初めてで、来年4月に施行する。地方税法に定める守秘義務や人権の観点から慎重な運用を求める意見もあり、町は「公表ありきではない」としている。
 条例や町によると、財産を差し押さえ、弁明機会を与えた上で、町個人情報保護審査会が妥当と認めた場合、広報誌などに名前や住所を公表できる。町有財産の使用など行政サービスの制限も町長判断で可能。来年度の滞納分から適用する。

同記事では,川本町において,町税の滞納者に対して,氏名の公表等を規定する条例が成立したことを紹介.同町HPや同条例案の議会への上程を報じた,他日の中国新聞を見てみても,総務省職員の見解が付記されているものの,条例自体の詳細(特に,公表までの手続等)までは把握できず*1,残念.
氏名公表については,小田原市の「小田原市市税の滞納に対する特別措置に関する条例」*2が代表例.同条例制提時も評価はわかれ,例えば,地方税法第22条の公務員の守秘義務,違反者へのプライバシーに配慮すべきとの意見も根強い.
ただ,公表制度の設置の目的は,公表自体が目的ではないはず.例えば,小田原市の取り組みをまとめた鈴木潔先生によると,「公表すること自体が目的ではなく,滞納解消が目的である」*3とも同市では想定しているという.そのため,悪質とされる滞納者と間での(広い意味での)「事情聴取」の機会を設けることが,滞納整理には「それなりの効果がある」*4ともされる.つまり,「氏名公表に関する適正手続規定」*5が整備されることで,本来的な目的ともいえる滞納整理に結びつく,いわば,「徴収のための聴取の場」の配置及び機能次第となる.
同記事では,公表に至るまでの手続きとしては,「弁明機会を与えた上で、町個人情報保護審査会が妥当と認めた場合」とある.同記事から想定すると,まずは「弁明機会」,次いで,「個人情報審査会への諮問」,最後に「公表・非公表の決定」という手順となる模様.小田原市島田市*6における「市税滞納審査会」における「滞納者からの事情聴取」がまずはある.そして,上記のように何よりも滞納整理を期待してのことだろうか,次いで,同審査会での意見を受けて,市長が「氏名等の公表が必要であると認める」とした後,「措置の内容を滞納者に通知し」「弁明機会」を配しているとも読める.そうなれば,弁明機会で示された「弁明」内容の扱い方次第では,いわば,二審制を採用しているともいえる.同町ではどうなのだろうか.要観察.

*1:中国新聞(2008年9月13日付)「「町税滞納者の公表条例制定へ

*2:小田原市HP(納税)「小田原市市税の滞納に対する特別措置に関する条例

*3:鈴木潔「小田原市における市税滞納者に対する特別措置」『行政上の義務履行確保等に関する調査研究報告書』(財団法人日本都市センター,2006年)149頁

行政上の義務履行確保等に関する調査研究報告書

行政上の義務履行確保等に関する調査研究報告書

*4:阿部泰隆『続・政策法学講座 やわらか頭の法戦略』(第一法規,2006年)49〜50頁

やわらか頭の法戦略―政策法学講座 続

やわらか頭の法戦略―政策法学講座 続

*5:大橋洋一行政法 第2版』(有斐閣,2006年)399頁

行政法―現代行政過程論

行政法―現代行政過程論

*6:島田市HP「島田市税の滞納に対する特別措置に関する条例