横浜市大都市制度検討委員会(委員長・小林重敬武蔵工業大学教授)は30日、政令指定都市制度に代わる新たな「大都市制度」の創設に向けた提案書を中田宏市長に提出した。横浜市のように人口密集度が高く経済規模が大きい都市には、都道府県と同等の事務権限を与えて自主税財源が拡充した「大都市自治体」とすることを求めている。市は4月にも国に要望する。
 提案書では、政令市は都道府県と同じような事務を担いながら、他の市町村と同一の枠組みに位置づけられ「大都市特有のニーズに対応できないなどの弊害がある」と指摘。このため、横浜・名古屋・大阪などの一定規模以上の政令市は都道府県から独立した形で、市町村と都道府県の両方の権限を併せて持たせたうえで、財政需要に応じて税源を移譲することを提言した。
 さらに、住民自治を促進するため、区に議会機能を持った区民代表機関を設置し、区の予算や事業について同意権や監査請求権を付与することなどを提言している。新たな大都市制度では、市内河川の管理を一元化でき、教育課程の自由度が拡大するなど、市民生活の利便性や柔軟性の向上が期待できるという。【野口由紀】

同記事では,横浜市において設置された大都市制度検討委員会において,新たな大都市制度の創設にむけた提案書を取りまとめたことを紹介.詳細については,同市HPを参照*1
同提案では,新たな大都市制度を,「「補完性」「多様性」「総合性」「広域性」「先端性」の5つの視点を持って設計」(9頁)されており,幾つか特徴的な提言が含まれている.
例えば,まずは,大都市の権限についてである.権限については「包括的」であるとして「現在ある大都市と国や府県との非効率で不合理な重複関係は解消していくべき」との基本的な論調は,これまでの各種大都市制度論議とも共通した考えた方が示されているものの,より具体的な権限としては「交通規制や生活安全(防犯)など,これまで議論がされてこなかった警察事務の分権化を含め,大都市が広範で包括的な事務権限」(10頁)とあり,警察権限の移譲要請を明示したことは同提案の一つの特徴といえる.2008年5月7日付の本備忘録でも言及した「警察権限の分権論」を組み入れた提案といえるが,実際に交通規制・生活安全(防犯)を行う主体については,具体的にはどのような執行体制を想定されているのだろうか.興味深い.
また,権限のなかでは,事務事業の執行権限のみならず,企画段階での権限移譲を求めている.つまり,「大都市の政策・制度選択の自由度を一層拡大するため」として,「対象を執行権限だけに限定せず立法権限の移譲にまで拡げていくことが重要」との考え方が示されている.そして,「国の法令は枠組みなどの基本的事項のみを規定し,それぞれの細則は条例で制定できるなど,地方の条例制定権を拡大していく方向での見直しが必要」(11頁)と,現行の国による立法に対する自治体側からの「縛り」の考え方が示されている.ただ,この点は,地方自治法制を越えた部分での制度設計・運営論議が必要となるようにも考えられる.
更に,大都市制度論議において,必ず指摘される広域的課題に関しては,既に同市における実績をもとに,「大都市の市域を越える広域的課題の解決に主体的に関わって取り組むべき」(11頁)とあり,その際には,「広域的な行政の枠組みとしては,都市間の水平的・対等な連携による共同処理や広域自治体との連携、圏域の中心都市への広域調整権の付与,行政能力の高い近隣自治体が受託するなど様々な手法が考えられるが,補完性の原理から,都市間の水平的・対等な連携による共同処理を基本」(12頁)との考え方が示されている.
大都市制度論議として「都市内分権」に関する言及があることも特徴的である.つまり,「平均して約20万人の区単位の地域運営では,市内各地域の多様な状況に十分に対応することには限界がある」と,現行の区制度では「地域運営」という観点からは「限界」があるとの認識をまずは示されており,そのため「区よりもさらに市民に身近な地域(地区)単位において,市民力の発揮により,地域課題を自主的に解決するための実効性のある協働の仕組みをつくっていくべきである」(14頁)と,「地域(地区)単位」での仕組みを重視している.そして,同仕組みでは,「地域レベルにつくる仕組みは,総合的な行政を行うための機関ではなく,市民の主体性を重視し,地域の多様性を許容できるよう,市民自らの選択により課題解決のための活動が行える仕組み」とあり,地域レベルにおける「総合性」*2確保については予期していない模様.ただ,行政区については,同報告書でも取り上げられている同市の「市民主体の地域運営(エリア・マネジメント)のモデル事業」(16頁)にように,現行制度においても,各政令指定都市における運用レベルでの自由度が許容されている部分も一定程度はあるようにも考えられる.「制度改正」としての提案としては,よく分からない部分も残るように思われるが,どうなのだろうか.
税財源については,いわゆる「大都市財政需要」として,「社会資本整備,公共交通,廃棄物処理,住宅供給など様々な行政サービスを提供」「都市型災害,交通渋滞,ホームレス問題など特有の都市問題」,「最近では,少子高齢化児童虐待ニート・フリーター,食の安全,都市インフラの老朽化,地球温暖化等への対策」などが例示されている.戦前の特別市運動時に示されてきた,大都市特有の「財政需要」論とは異なり,現在では,各種「財政需要」が,他自治体レベルとの間で,その一般性・共通性を感じなくもないが,「大都市にはそれらへの積極的・先駆的な対応も求められている」と,上記の視点の内,「先端性」から大都市における税財源の拡充,具体的には「都市的税目の拡充強化」の案が示されている.
ただ,新しい大都市制度改革を実現するにあたり「国全体としての地方自治制度」についても改正することが必要として,その「前提となる制度改革」のなかでは,「画一的な地方自治制度の抜本的な見直し」(20頁)が示されている.ここでは,「地方自治体の持つそれぞれの性格に応じて,基礎自治体(市町村),広域自治体(府県又は道州など),そして大都市自治体(大都市)に種別し,それぞれに合わせた固有の枠組みを設けるよう抜本的に見直し,新たな地方自治法体系を整備」とある.同箇所の読み方によっては,1947年に地方自治法が制定される以前での,個別「地方制度」法制の体系に準じた,個別「地方自治」法制の整備を提案しているようにも読めなくもない.同箇所は,それとも,現行のような統一的な地方自治法内での規定を想定されているのだろうか.そして,大都市制度に関しては,「現行の指定都市制度のように政令により指定されるものではなく,大都市市民の要請があり,横浜や大阪,名古屋などわが国を牽引する代表的な大都市の規模や中枢性などを主要な基準とした法定要件を満たした大都市であれば適用される制度」(21頁)ともあり,「要件」を満たすことで「自動移行型」となる手続を提案.となると,「わが国を牽引する代表的な大都市の規模や中枢性などを主要な基準とした法定要件」の具体的な要件を規定することが今後は課題ともいえそう.
そして,同報告書で示された新しい大都市制度としては,「大都市は,現行の都道府県制度や道州制など,どのような制度下にあっても,広域自治体に包括されない,独立性の高い位置づけ」(33頁)とある.要するに,これらの大都市においては,市町村機能を有した「広域自治体」となるとの提案ともいえそう.そのため,都区制度との相違点が判然とはしないようにも思われる.これは,「大都市内部の自治構造」(25頁)における提案において,「区に公選を中心とした議会的な区民の代表機関を設置し,区政を民主的にチェックする仕組みを設ける」とあることからも,同様の印象を受ける.どうなのだろう.「大都市税制」では,「大都市に市域内地方税のすべてを配分」と,現行の広域自治体税の大都市自治体税への一元化を提言されている.ただ,「過去において特別市運動が挫折した経緯をふまえると,大都市が府県から独立する際には,当該府県内の他の市町村との関係も考える必要」(28頁)ともあり,財政調整の仕組みの可能性をも想定されているようにも窺うことができる.ただ,上述のとおり,「広域自治体に包括されない,独立性の高い位置づけ」となると,旧同一都道府県内であり,独立後は他広域自治体内に位置する市町村に対して,財政調整を図ることは,同大都市自治体内の納税者への説明を如何に図ることになるのだろうか.考えてみると難しい,
本備忘録でも幾度も言及してきたところではありますが,政令指定都市制度に対する観察者の一人(といいますか,お二人目にはなかなかお会いできずにおりますが)として,興味深い提案.