横浜市の林文子市長は28日、大都市制度の創設などを盛り込んだ提案・要望書を片山善博総務相に提出した。
 要望の中で、重複行政の解消へ広域自治体から独立した大都市制度創設の必要性を強調。具体的な検討に着手することや、総合的、一元的なサービス提供のため、指定都市への権限委譲の一層の推進を求めた。このほか、総合特区制度による国際競争力の強化、低炭素型の都市づくりを進めるため「スマートシティ」構築の加速化、都心臨海部への拠点整備など要望した。

本記事では,横浜市長により総務相に対して提案書・要望書が提出されたことを紹介.同書内では,「大都市制度の創設」等が記載されている模様.ただし,同書,現在のところ,同市,指定都市市長会,そして,総務省のウェッブサイトでは同書を確認できない.残念,公表後,要確認.
本記事を拝読させて頂く限りでは,「指定都市への権限委譲の一層の推進」という現行制度を前提とした要請と,「広域自治体から独立した大都市制度創設の必要性」の提案の二段構えとなっているようでもあり,「動的均衡」*1路線を維持しつつ,「政令指定都市制度の希釈化」*2ならぬ,「政令指定都市制度の濃縮化」をも要請されている模様.
下名個人的には,2010年10月17日付の本備忘録でも記録した,同市に設置された「新たな大都市制度における広域連携・財政調整に関する研究会」が,2011年3月に整理された,大都市と広域連携それぞれに関して次のように「論点整理」*3と同書との補完関係が関心のあるところ.

‐広域連携
○大都市が広域自治体から独立しても,圏域の中心都市として周辺自治体の行政サービスに支障が生じないよう,積極的に水平的・対等な広域連携を推進していくべき
○ 広域連携については,①環境政策や警察事務のように広域的な対応が必要な事務に関する県との連携,②消防,ごみ処理のように基礎自治体が担うべき事務に関する周辺市町村との連携について検討することが必要
○ 小規模自治体との連携については,都市計画や土木のように大都市の専門性を生かせる分野や大都市としてのスケールメリットを生かすことができる分野を中心に検討を行うべき
○ 周辺の基礎自治体との広域連携に際しては,各基礎自治体の財政力,行政サービス水準,各自治体の広域連携のニーズを考慮した上で進めていくことが必要
○ 広域連携の手法として,広域連合や一部事務組合といった地方自治法上に基づく共同処理が必要かどうかについては、広域連携を行う事務の性質などによって判断

‐財政調整
○ 大都市が府県から独立する場合は,地方交付税制度をはじめとした地方税財政制度全体に影響を与えることになる。仮に全国的な制度に影響を与えない前提で財政調整を議論するのであれば,それは神奈川県や県内市町村における財政的影響への対応のあり方を検討することになる
横浜市が県から独立し,市域内の県税を徴収する場合に,神奈川県の税収や県内市町村への県税交付金にどのくらい影響を与えるか等について検討することが必要
横浜市が県から独立する際に,神奈川県がこれまでに発行した地方債の実態についても精査することが必要
○ 神奈川県の財政の研究を詳細に行うべき

同研究会による論点整理では,財政調整に関しては,同市が現在も位置する神奈川県,同県内に位置する他の市町村への「影響」の更なる分析の必要性を指摘される一方で,「積極的に」という文言が記述されているように,広域連携に関しては積極的な見解を提示されている.ただ,これらの広域連携の推進に関する提案は,現行の制度内での同市が取り組む,いわば運用論としての姿勢の提示であるのか,「相対的に独立性の高い」とも評されることもある「広域機能」*4を,政令指定都市制度へと移譲することを含めての新たな制度論としての提案であるのか,同整理では,現在のところ判然とはせず,こちらもまた今後の更なる審議の内容が興味深そう.
今回の同書が,上記「論点整理」を踏まえた,同市の「一つの声」であるのか,はたまた,政令指定都市全ての見解を「一つの声としてまとまり」*5をつけた内容であるのか,同書と同論点整理との間もまた,要確認.

*1:大杉覚「大都市制度をめぐる制度論議の課題と展望」『地方自治』第761号,2011年4月号,14頁

地方自治 2011年 04月号 [雑誌]

地方自治 2011年 04月号 [雑誌]

*2:金井利之『自治制度』(東京大学出版会、2007年)178頁

自治制度 (行政学叢書)

自治制度 (行政学叢書)

*3:横浜市HP(政策局大都市制度推進室大都市制度推進課広域連携・財政調整に関する研究会)「新たな大都市制度における広域連携・財政調整のあり方論点整理」(横浜市 新たな大都市制度における広域連携・財政調整に関する研究会,平成23年3月)7〜8頁

*4:市川喜崇「都道府県の性格と機能」新川達郎編著『公的ガバナンスの動態研究』(ミネルヴァ書房,2011年)207頁

*5:真渕勝『行政学』(有斐閣,2009年)388頁

行政学

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