堺市は21日、市政の透明性を高めるため、幹部職員が重要施策を審議する庁議の内容を、市のホームページで公開する方針を明らかにした。
 庁議は毎週火曜日に開催。市の将来構想、行政運営の基本方針、予算編成の方針、新規事業、重要施策の見直し、行政組織、条例案などを話し合う。庁議の翌日にも、案件名、資料、議事要旨を公開する。また、竹山修身市長は記者会見で、臨時市議会を11月12日に招集すると発表した。竹山市長の所信表明があり、3人の副市長の選任案を提案する。副市長の人選について、竹山市長は「1人は民間人、1人は市政に精通した人、もう1人は府などの行政を経験した人にお願いしたい」と語った。【山田英之】

同記事では,堺市において庁議の内容を同市HPを通じて公開する方針であることを紹介.なお,同市の庁議の内容については,公開済み.詳細については,同市HPを参照*1
実は(というほどではありませんが),下名が,ここ数年間で,最も関心を持ち観察してきた対象が,庁議制度.自治業界以外の方々からは,「何ですか,それ」と存在自体へのご質問を受け,自治業界内部の方々からは「それ,何でですか」と,既に質問者が認識している同制度の存在意義との対比からのご質問(疑問)を頂きつつも,下名は関心をもって止まない同制度(本備忘録でも取り上げようにも,なかなか一般的には報道されず,本備忘録で,2008年8月10日付2009年4月28日付同年6月26日付の3つの備忘録とやや限定的).下名の観察関心からは,自治体機構内での調整機構として,首長による実質・形式のいずれの決定に先立つ「「総合調整」としての「総合調整」」*2の特性を把握すべく,同制度の観察を続けてはいるものの,その広がりと深みがどこまである対象なのか,正直なところ探り探りの状態(昨日開催されました,毎月恒例の研究会では,下名,当該テーマでお話をさせていただき,参加された皆さんより,当方の報告自体は兎も角,同制度への研究アプローチの可能性や意味についてご指摘を多く頂き,大変勉強になりました.ありがとうございました).如何せん観察事例が乏しいことが現状であり,2190食2190飯(6年間),大変お世話になった前職場での媒体を通じて,その成果を公刊させていただく*3ものの,既に行った結果を踏まえつつ*4,より個別自治体の観察事例が増やしつつ,更に体系的観察をしてみたい.
本備忘録でお馴染みの,財団法人日本都市センターによる,全国の市区に対する2007年度(2007年11月〜2008年1月)に実施したアンケート調査(回収率74.0%)の結果からは「庁議等における発言者・内容等を公開」する市区は12.0%とあり,依然として限定的*5ともいえる状況での,同市の取組.興味深い.既に公開されている,2回分の議事要旨を拝読すると,その議論からは同制度を巡る「ドクトリン」(上掲・牧原2009:20)と「政策」との間を見ることができそうか.大変勉強になる.例えば,2009年10月14日開催分*6でかされた応答では,総務部長からの「庁議は意思決定の場か,議論の場か」の問いに対して,市長公室長からの「議論の場とする.必ずしも決定されるとは限らない.この場で,決定する場合もあるし,庁議での議論を反映して再度付議する案件もある」との発言(特に,後段部分)は,当方の観察結果とも一致する趣旨とも言え,興味深い,同制度の把握.
いわば,「奥の院」(前掲・松井2009:62頁)とも整理した庁議制度が,その公開を通じて運用面において,どのような変化をもたらすものなのかは,大きな興味.例えば,公開により「密室での闇取引はできなくなったが,反面,外部を気にするために,内部における議論の空洞化が生じる可能性」や「外部からの圧力と外部に対する説明責任が,現実には,対立を激化させ,柔軟な交渉と必要な譲歩を困難にしかねない」*7可能性等が,「総合性」*8に重きを置くともされる自治体機構内でも把握される現象となるのか,要観察.
「普遍的なシステム」*9とも現在では認識される同制度.ただ,一方でその生成・起源は判然としていない.いつの時代においても,「何らかの行政内部の会議体は存在していたと考えられる」ものの,例えば,「戦前地方自治制度における参事会は,戦後地方自治制度における庁議とは制度的にはまったく異なるが,議院内閣制における内閣制度に類似する面も有していたと思われ,庁議との機能的な異同及び連続・不連続は,興味深い論点である」*10との指摘もある.この点は,「特定の人物の出会いや人生経験が,いかに一つの状況から離れて他の状況へ移っていくための制度設計の原則を作り出してきたか,そしてその原則が新しい状況の中へいかに融合していったのか,を辿る」とされる「行政史」*11として深めてみたい点ではあるものの,内部機構の観察に伴う史・資料的制約から,難航もしそう.まだまだ,取り組まねばらなないことが尽きない観察課題.

*1:堺市HP「庁議

*2:牧原出『行政改革と調整のシステム』(東京大学出版会,2009年)248頁

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

行政改革と調整のシステム (行政学叢書)

*3:松井望「庁議制度と調整機構」村松岐夫・稲継裕昭・財団法人日本都市センター編著『分権改革は都市行政機構を変えたか』(第一法規規,2009年),松井望「首長と事務機構−首長の意思決定機構を支える仕組みとしての庁議制度−」『都市とガバナンス』Vol.12,2009年9月

分権改革は都市行政機構を変えたか

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都市とガバナンス 第12号

都市とガバナンス 第12号

*4:例えば,次の拙稿.松井望「自治体における中核的機構の管理と統御に関する観察ノート」『都市政策研究』(首都大学東京都市政策コース発行),Vol.3,2009年

*5:財団法人日本都市センター『分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究』(2008年3月)92頁

分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究-市役所事務機構アンケート調査結果報告-

分権型社会の都市行政と組織改革に関する調査研究-市役所事務機構アンケート調査結果報告-

*6:堺市HP(庁議)「庁議議事要旨 平成21年10月14日(水)午後4時

*7:森田朗『会議の政治学』(慈学社,2007年)174頁

会議の政治学 (慈学選書)

会議の政治学 (慈学選書)

*8:金井利之『自治制度』(東京大学出版会,2007年)45頁

自治制度 (行政学叢書)

自治制度 (行政学叢書)

*9:金井利之「トップマネジメントとその補佐機能」日本都市センター編『分権型社会の都市行政と組織改革』(日本都市センター,1999年)132頁

分権型社会の都市行政と組織改革―第4次市役所事務機構研究委員会最終報告書

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*10:進藤兵「都庁におけるトップ・マネジメント」御厨貴編『都庁のしくみ』(都市出版,1995年)122頁

都庁のしくみ (シリーズ東京を考える)

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*11:クリストファー・フッド『行政活動の理論』(岩波書店,2000年)176頁

行政活動の理論 (岩波テキストブックス)

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