大阪府泉佐野市にある1台のたばこ自動販売機が今年度、15億円規模の市町村たばこ税を市にもたらすことが関係者への取材でわかった。1日に20本入りが6万箱以上売れた計算で、実態と大きくかけ離れている。市外で大量にたばこを販売する小売業者が書類上の操作で納税を集中させ、市は見返りに業者へ奨励金を支払っている。
 同じ手法でたばこ税収を増やしている自治体は、朝日新聞の調べで他に大阪府摂津市滋賀県竜王町、同県高月町の少なくとも三つある。消費地に納税されるのが原則の市町村たばこ税を、奨励金制度によって他の自治体から奪っている格好だ。総務省市町村税課の担当者は「法律の趣旨を逸脱していると言わざるを得ない。実態を把握したい」と話した。関係者によると、泉佐野市の問題の自販機は08年秋、大阪府豊中市の小売業者が商店前に設置。客は多くて1日に10人程度という。泉佐野市のたばこ税収は07年度に約7億6千万円だったが、自販機が年度途中に設置された08年度は約14億6千万円に倍増し、09年度は約23億円の見込み。他に大きな変動要因はなく、この自販機だけで年間15億円程度の税収を生んでいる。
 たばこ税は1本あたり8.7円余りで、国に約4.4円、市町村に約3.3円、都道府県に約1.1円が入る。鳩山由紀夫首相は来年度税制改正でたばこ税の増税に前向きな姿勢を示している。地方税法の規定では、小売業者から営業所(店舗や自販機)ごとの商品発注を受けた日本たばこ産業(JT)や関連会社が、発注書類に基づいて各営業所の所在自治体に納税する。このため、複数の自治体に営業所を持つ小売業者が書類上で発注数の配分を操作すれば、特定の自治体に納税を集中させることが可能だ。書類操作をめぐって小売業者を罰する規定はない。
 問題の業者は複数の自治体に営業所を持ち、泉佐野市内では自販機1台だけ。社長の男性は取材に対し、商品の大半をこの自販機の営業所名義で発注し、実際には近畿各地のパチンコ店に販売していることを認めた。
 一方、泉佐野市は企業誘致条例を07年度に改正。一つの税目で3千万円以上の納税効果がある企業に対し、3千万円を超えた分の10%を奨励金として支払う制度を08年度に始めた。問題の業者は自販機を置いた08年度に約6千万円を受け、09年度は約1億5千万円になる見通しだ。市は関西空港の関連事業で多額の借金を抱えている。市商工労働観光課の射手矢(いてや)光雄課長は取材に対し、たばこ税収を増やすため奨励金制度を設けたことを認め、「法的にぎりぎりの範囲で税収確保に努めた」と説明した。
 摂津市も06年度、納税効果1億円以上の企業に対して売り上げの5%の奨励金を出す条例を施行した。全国で大量のたばこを販売する東京都の業者が市役所の売店に自販機1台を置き、税収は6億数千万円から約19億円に急増。08年度の奨励金は3億円だった。竜王町は04年度、高月町は07年度に条例を施行。摂津市と同じ業者が各1台の自販機を置き、08年度の奨励金はそれぞれ6500万円、4530万円だった。(千葉正義)

同記事では,泉佐野市における「1台のたばこ自動販売機」から「15億円規模の市町村たばこ税」が納税される見通しであることを紹介.
同記事において紹介されている同市企業誘致条例に関しては,同市HPを参照*1.「市が課する普通税の1税目で,1課税年度につき3,000万円以上の納税又は同額以上の納税効果があること」「対象期間中に新たに事業所を開設し,継続した事業活動を行うこと」,「市税を納期限内に完納していること」,同条例が定める事業所設置奨励金と産業集積奨励金の「奨励金の対象でないこと」を交付条件として,「上限額2億円」として,「納税又は納税効果があった年度から起算して5年度の間,納税額又は納税効果額から3,000万円を控除した額の10分の1の額」が奨励金として交付される.
2009年10月30日付の日本経済新聞にて報道されているように,国税としてたばこ税については「増税という方向がありうべしかなと思う」*2との見解が示されているなかで,「地方財政にとってもたばこ税が重要な収入源」*3.その収入源を巡る同市の取組は,いわゆる「租税輸出」*4を目的とした,「優遇政策」(201頁)を通じた「租税競争」的な仕組みとも整理ができるのだろうか,よく考えてみたい.

*1:泉佐野市HP(泉佐野市例規集)「泉佐野市企業誘致条例」(平成19年12月25日,泉佐野市条例第32号)及び(生活産業部商工労働観光課企業誘致奨励金制度について)「企業誘致条例(概要)

*2:日本経済新聞(2009年10月30日付)「たばこ増税検討、暫定税率は廃止 10年度首相表明

*3:松沢成文受動喫煙防止条例 日本初,神奈川県発の挑戦』(東信堂,2009年)23頁

受動喫煙防止条例―日本初、神奈川発の挑戦

受動喫煙防止条例―日本初、神奈川発の挑戦

*4:佐藤主光『地方財政論入門』(新世社,2009年)205頁

地方財政論入門 (経済学叢書Introductory)

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