イノシシなど深刻化する農作物への鳥獣害を防ぎ、里山保全していく担い手「地域鳥獣管理士」の養成講座が、宇都宮大で先月から始まった。同大と県が創設した資格で、全国初の取り組み。定員の二倍を超える受講者が集まる盛況ぶりで、同大の担当者は「予想以上のニーズで驚いている。修了後は自治体や農家と連携し、里山再生に貢献していただきたい」と手応えを感じている。 (小倉貞俊) 
 「里山は長い歴史の中で人間と自然が共存してきた場所。その生態系を守ることが必要です」。同大の教室で開かれた高橋俊守特任准教授(42)の講義に、受講生が真剣な表情で聞き入る。講義後はいつも“質問攻め”といい、高橋さんは「皆さん、非常に熱心。毎回が本気勝負ですね」。養成講座は文部科学省補助金を受け、県と共同で十月からスタート。農家の高齢化とともに離農の要因となっているイノシシやシカ、ハクビシンなど野生動物の被害を防ぎ、里山での営農を維持していくのが狙いだ。地域の鳥獣害対策を立案する「プランナー」と、現場指導にあたる「専門員」の二コースで、受講は無料。学識者や自治体の鳥獣害対策担当者、猟友会などが講師を務める。里山の現状や防護柵の設置方法などを学ぶ。二年間で百二十時間を履修すると資格が得られる仕組みだ。
 最大の特色は、講座の半分を、鳥獣害に遭った県内各地での実習に費やす「徹底した現場主義」(高橋さん)だという。同大は当初、二〇一三年度までに六十人の管理士養成を想定し、九月に第一期生十五人を募集。四十人もの応募があり、全員の受講を決めた。二十〜七十代の受講生は、自治体職員や大学院生のほか、「衰退する郷里の里山に少しでも役立ちたい」といった会社員など一般の社会人も半数近くに上っている。
 受講生の一人で、鹿沼市林政課係長の仲田晴夫さん(51)は「市内のイノシシ被害が増えたため、解決策を得ようと受講した。今後の実務に生かしたい」と力を込めた。

同記事では,栃木県と宇都宮大学において「地域鳥獣管理士」の養成の取組が開始されたことを紹介.同資格に関しては,同大学HPを参照*1
同プログラムでは,「地域の情報収集,問題点の解明,解決策の提案と実施計画の策定を総合的に行うことのできる「地域鳥獣管理プランナー」」と「地域ぐるみで行う総合的な防除対策を現場で指導することのできる「地域鳥獣管理専門員」を養成する」ために,以上「二つのコースが設置」.同コースの「修了審査に合格した方」には,「宇都宮大学からプログラム修了証が発行」され,「修了生には「地域鳥獣管理士」の資格が授与」される仕組み.
「実猟の経験に基づかなければ獲得できない知識」*2に依拠する部分が多い「順応的管理」(59頁)としての「ワイルドライフ・マネジメント」(57頁).「専門家が有効に地域に入る余地がなくなる」*3なかで,「専門家のスタンス」(195頁)として期待される役割として,「解決力向上モード」(196頁)が指摘されるなかで,やはり「専門知への自負心と,ローカルナレッジへの謙虚さの両立は,文字で書くほど容易いものではな」く「専門家側の熱意や信念の強さが問われる」(同頁)とも考えられる.同取組を通じて,「現場知」*4や「存来知(indigenous knowledge)」*5をもつ方々と「専門知」とが「融合」(前掲・打越2009:214頁)に至る機会ともなると,興味深い.
なお,蛇足.下名,以前より,「士業」(サムライ業)という資格認定制度を通じた専門性の確保と業務独占に関して,行政観察ができないかとも妄想しているものの(いわば,「士業の行政学」でしょうか),叶わず仕舞い.

*1:宇都宮大学HP「里山野生鳥獣管理技術者養成プログラム

*2:坂田宏志「イノシシ 人の餌付けが悲劇を生む」河合雅雄林良博編著『動物たちの反乱』(PHP研究所,2009年)175頁

動物たちの反乱 (PHPサイエンス・ワールド新書)

動物たちの反乱 (PHPサイエンス・ワールド新書)

*3:打越綾子「地域社会における専門知識発揮の条件」久米郁男・編『専門知と政治』(早稲田大学出版会,2009年)191頁

専門知と政治 (早稲田大学現代政治経済研究所研究叢書 34)

専門知と政治 (早稲田大学現代政治経済研究所研究叢書 34)

*4:河野勝「政策・政治システムと「専門知」前掲注3.17頁

*5:林良博「倫理面からみたワイルドライフ・マネジメント」前掲注2・328頁