農用地区域約14ヘクタールを指定から外した市の計画を県が不同意としたのは不服として、千葉県我孫子市は23日、自治紛争処理委員による審査を総務相に申し出ることを明らかにした。総務省によると、市町村が都道府県との紛争で審査を申し出るのは初めて。
 我孫子市によると、農用地区域は用途が規制されるため、不満に思った地元地権者が指定除外を求める請願書を市議会に提出。市は2月、「農業振興地域の整備に関する法律」に基づき除外の同意を求めたが、県は同区域の一部に土地改良事業が実施された個所があることを理由に不同意とした。我孫子市は「法律の施行規則には適用除外規定もある」と主張。県は「市が審査を申し出た場合には、県の判断理由を説明していく」としている。
 同市によると、審査の申し出を受けると、総務相は90日以内に自治紛争処理委員を任命、判断を出さなければならない。

我孫子市の星野順一郎市長が23日の定例記者会見で明らかにした農業振興地域整備計画見直しに関する「自治紛争処理委員の審査」への申し出。農用地区域指定をめぐり、一部地域の指定除外を求める市側と、これまでに行った「土地改良事業による受益」を踏まえ、除外に不同意と回答した県側。星野市長は「県の回答は納得できない」と述べたが、事業受益に対する県、市の見解には溝があるとみられる。
 市西部の「根戸新田地区」(約15ヘクタール)の農用地区域指定を除外するための同整備計画見直しで、市は「事前協議の協議書と回答」「事前協議で不同意とされた案件への照会と回答」「本協議の協議書と回答」など関係書類を公表した。
 市側は同地区で土地改良基盤整備事業が行われていないことなどから、同区域の除外は妥当と判断。一方、県側は同地区の農用地区域除外部分の一部が国営手賀沼干拓土地改良事業の施行区域内にあるとして、「法律で規定する農用地区域に設定すべき土地に該当する」と指摘した。

両記事では,我孫子市における自治紛争処理委員による審査へ申し出とその経緯を紹介.2009年5月13日付の本備忘録にて言及した「自治紛争処理委員」制度.
「紛争は即病理ではない」*1としても,その紛争を管理するための制度としては,「間口の狭い縦列型の係争処理制度」*2として,「使われるための制度」としてよりも「“使わせるための制度”として創設」*3された嫌いもなくはないとも解されることもある,我が国における係争処理制度.
2009年5月13日付の本備忘録にて取り上げた深浦町と鰺ケ沢町という「普通地方公共団体相互」における紛争調停に関しては報道がなされてはいたものの(ただ,両町が位置する青森県の同HPでは,同委員に関する情報が把握できずにおり,同事件に関しては,実際に,申し出と審査はなされたのでしょうか.要確認),本記事で紹介されている同市からの申し出は,「市町村が都道府県との紛争で審査を申し出るのは初めて」となる模様.「使われるための制度」へと移行していくのだろうか.
本記事の場合,農業振興地域の整備に関する法律第8条第4項に基づき,「市町村は,第1項の規定により農業振興地域整備計画を定めようとするときは,都道府県知事に協議しなければならない」とあるものの,同市が位置する千葉県の「県知事は,根戸新田地区の農用地区域除外部分の一部が国営手賀沼干拓土地改良事業の施行区域内にあり,農振法で規定する農用地区域に設定すべき土地に該当するとして不同意」*4との見解を示されたことを受けての申出.今後は,「普通地方公共団体に対する」「都道府県の関与」(地方自治法第251条第1項)として,「総務大臣が任命する」ため「特別の機関」*5として「今後,速やかに自治紛争処理委員を任命し,申出に係る事件をその審査に付す予定」*6とのこと.今後の,同制度設置及び審査過程は,要経過観察.
ただ,同法の同規定に関しては,地方分権改革推進委員会の『第2次勧告』において示された「義務付け・枠付けの存置を許容する場合等のメルクマール」では,「非該当」*7との見解が示されていたことを踏まえると,現在までのところ,その勧告内容の「延長線」が断線状況にあることから,結果としての「延長戦」*8とも整理できそうか.

*1:今村都南雄『官庁セクショナリズム』(東京大学出版会,2006年)218

官庁セクショナリズム (行政学叢書)

官庁セクショナリズム (行政学叢書)

*2:李相鎮・島村健「比較の中の国地方係争処理制度」森田朗・田口一博・金井利之『分権改革の動態』(東京大学出版会,2008年)74頁

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

分権改革の動態 (政治空間の変容と政策革新)

*3:前掲注2・李相鎮・島村健2008年:76頁,77頁

*4:我孫子市HP(行政情報施政方針・一般報告施政方針 (第1回定例会))「2010(平成22)年第1回市議会定例会(3月議会)施政方針〔前半〕

*5:松本英昭『新版 逐条地方自治法第5次改訂版』(学陽書房,2009年)549頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*6:総務省HP(広報・報道報道資料一覧2010年2月)「自治紛争処理委員の審査に付することを求める旨の申出について

*7:地方分権改革推進委員会HP(委員会の勧告・意見等:『第2次勧告 〜「地方政府」の確立に向けた地方の役割と自主性の拡大〜』(平成20年12月8日)』「(別紙1) 義務付け・枠付け条項、及びそのメルクマール該当・非該当の判断」)「12農業」19頁

*8:金井利之「第三・五次分権改革の課題」『月刊自治フォーラム』vol.605,2010年2月号,12頁