東京都調布市が今年度の職員採用試験(試験実施は昨年度)で、88人を合格としながら実際の採用は55人にとどまっている。
 自ら辞退した人は11人で、22人が現在も「採用待ち」状態の可能性があるという。この約10年、同市で合格者の不採用は基本的になかったといい、採用待ちの若者から失望の声が出ている。市人事課は「辞退者が想定より少なかった。見込み違いでご迷惑をかけた」と謝罪。専門家からは市の対応を批判する声も出ている。
 採用待ちが出ているのは、大学卒らを対象とした「上級・事務」。市では、昨年7〜10月に計739人が挑んだ試験で4次まで突破した88人に対し、昨年11月に郵送で合格を通知。その際、問い合わせがあれば成績を基にした合格順位も告知しており、この成績順に採用が決まっていく仕組み。今年4月までに52人採用され、新年度が始まって以降も3人が欠員の発生などで採用された。合格しながら今も採用に至っていない20代男性は「通常は合格すれば採用されると予備校の先生から聞いていた。合格後、気が緩んで他の自治体を受ける意欲もなくなった」と残念がる。現在も公務員試験の勉強をしながら採用を待っているという。
 市が多めの合格者を出したのは、毎年、他の自治体などと併願する受験者がおり、辞退者が出るため。昨年度(2009年度、試験は08年度に実施)の場合、43人に合格を出したものの21人が辞退。辞退率は48・8%に及んだ。このため採用試験を追加実施し、最終的に51人を採用した。市では昨年度の辞退率などを参考に今年度の合格者を88人としたものの、今年度の辞退は11人で、辞退率は12・5%にとどまった。しかし、この10年の辞退率は十数%の年が多く、数%や辞退者ゼロの年もあった。
 市の大和田正治・総務部長(57)は「合格者と採用人数に大きな開きが出たことは残念。88人が多すぎたかどうかは検証が必要だが、辞退者数の割合などは毎年流動的で読みにくい。昨年度より辞退者が減ったのは、就職難で学生の公務員人気が高まっているからでは」と話す。退職による欠員も予想より少なかったという。市では、今後も欠員が出れば、採用待ちの人から採用するが、年度が替われば再受験が必要になる。
 総務省によると、「辞退者を見込んで合格者を多めに出すことは制度上認められている」というが、東京都人事委員会では「都の場合、合格すれば基本的に採用している」。地方自治総合研究所の辻山幸宣所長(62)は「不況で学生の安定志向が高まっているのに、それを読み切れず、市の採用計画に甘さがあったのでは」と指摘。その上で「毎年の辞退者数を想定するのは難しいが、不況時の辞退者数をデータベース化するなどして分析し、数字を蓄積しておくことは出来る。採用されていない合格者には誠実に対応し、今後に向け改善に取り組んでほしい」と注文している。

本記事では,調布市における2010年度の新規職員採用の取組を紹介.本記事によると,「88人を合格」されたものの「実際の採用は55人」の状況にあるとのこと.同市における同年度の採用状況に関しては,同市HPを参照*1
2010年度の新規職員採用(上級事務)への「申込者数」は980名であり,「一次試験」の受験者は739名,合格者は314名,「二次試験」の受験者が233名,合格者は202名,「三次試験」の受験者は143名,合格者が134名,「四次試験」(最終試験)の受験者は123名,合格者は88名とされている.
上級事務の各試験毎での合格倍率を算出してみると,一次試験が約2.4倍,二次試験は約1.2倍,3次試験は約1.1倍,四次試験(最終試験)は約1.4倍となる.一方,2009年度の新規採用試験との対比と行ってみると,2010年度と異なり3次にわたる試験で終了しているものの,同じく,上級事務各試験毎の合格倍率を算出してみると,一次試験が約1.6倍(100名中61名合格),二次試験が約1.7倍(59名中35名合格),三次試験(最終試験)が約1.2倍(35名中30名合格)*2とあり,2010年度新規採用試験では,1回分の試験を新たに追加したことを考慮されたためか,二次試験以降の合格倍率は,2009年度に比べても,各試験における選抜は抑制気味(「先送り」*3気味)により最終合格者数が確定された様子も窺うことができる.
「新規採用職員にはどのような人材を求めているのか」「人材スペック」が明確ではない場合,「単なる,需要の数合わせの域を脱しない」*4とも称されることもある採用管理.確かに,本記事でも紹介されているように,辞退者を想定するなかでの合格者数の選択に関しては,いわば,合格数過誤回避を指向する制度では採用数過誤の可能性が高まり,反対に採用数過誤回避を指向する制度においては,採用数過誤の可能性は減らせるものの合格数過誤を招く「ディレンマ」*5も内包されているため,難解な選択となり,「採用予定人員」通りの合格者数を確定されることは,むしろ限定的となる.
一方,採用者数の確定に関する採用数過誤回避を図る上でも,同市のように,「大量合格者数路線」を選択された場合,確かに,採用側には採用過誤回避は可能となるものの,「採用される見込みのないものを合格とする」ことで,結果的には「公務員試験制度の信頼性を低下される」*6と外部性も生じる虞も不可避となる.元来,「一括採用・一括管理としての内部管理型人事」*7路線を選択されるが故の「大量合格者路線」が選択され,その反射光としての「限定採用路線」に至ることで照り返しが厳しい場合には,2008年12月28日付以来の断続的観察課題である自治体人事管理における「半開き(semi-open system)化」としての「中途採用の流れ」*8の機会を設けておき,「人材スペック」に応じた,折々での採用数を確定する路線も一つの方策とも考えられなくもなさそう.
同市の2011年度新規採用に関しては,例えば,上級事務では「採用予定人員」「約20名程度」*9の募集に,1,628根名の応募があり,1次試験では1,189名が受験され259名の合格者が出されている*10.その合格倍率を算出すれば約4.6倍と,前2カ年に比しても厳しい合格倍率にある.本記事にて,報道されているように,2011年度「採用予定人員」とほぼ同数の前年度合格の「有資格者」の未採用者が残置されるなかで,最終的な2011年度新規採用数は,合格数過誤と採用数過誤のディレンマのもと,どのように確定されるのだろうか.今後の同市における試験合格状況は,要経過観察.

*1:調布市HP(市政・まちづくり市役所組織・窓口案内採用案内・人事情報採用案内正規職員採用情報)「採用試験実施状況(平成21年度実施分)

*2:調布市HP(市政・まちづくり市役所組織・窓口案内採用案内・人事情報採用案内正規職員採用情報)「採用試験実施状況(平成20年度実施分)

*3:杉田茂之「バブル崩壊局面における政策ラグとその発生構造」村松岐夫編著『平成バブル先送りの研究』(東洋経済新報社,2005年)79頁

*4:稲継裕昭『プロ公務員を育てる人事戦略』(ぎょうせい,2008年)70〜71頁

プロ公務員を育てる人事戦略―職員採用・人事異動・職員研修・人事評価

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*5:手塚洋輔『戦後行政の構造とディレンマ』(藤原書店,2010年)24頁

戦後行政の構造とディレンマ―予防接種行政の変遷

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*6:真渕勝『行政学』(ぎょうせい,2009年)25頁

行政学

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*7:大森彌『変化に挑戦する自治体』(第一法規,2008年),250頁.

変化に挑戦する自治体―希望の自治体行政学

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*8:前掲注4・稲継裕昭2008年:13頁

*9:調布市HP(市政・まちづくり市役所組織・窓口案内採用案内・人事情報採用案内正規職員採用情報)「【申込終了】平成23年度調布市職員採用試験実施概要・説明会

*10:調布市HP(市政・まちづくり市役所組織・窓口案内採用案内・人事情報採用案内正規職員採用情報)「平成23年度調布市職員採用試験第1次試験結果・第2次試験受験エントリーと辞退