首長パンチ--最年少市長GABBA奮戦記

首長パンチ--最年少市長GABBA奮戦記

総務庁に勤務する主人公・樋渡啓祐は,「霞が関文学」をめぐる「いがみ合い」(9頁)のなかで,ふと意識が飛び,思わず発した発言から,沖縄開発庁出先機関へと出向となる.沖縄での濃密な体験の後,内閣官房へと「呼び戻される」(43頁)ものの,更に,「市民と直接かかわる最前線で仕事がしたい」という自身の希望により高槻市へと出向.そして,故郷・武雄市での友人結婚式での「スピーチ」が「一大転機」(52頁)となり,当初は,「無投票」(68頁)での当選が見込まれた同市市長選に臨むこととなる.しかし,同市市長選では,予想に反し,現職が出馬し,圧倒的不利ななかで選挙に突入する.当選した樋渡は,「少しばかり有頂天になりはじめていた」(96頁)なかで,新たに直面した市政上の課題は,同市の「市民病院問題」(104頁)であった.
2008年7月24日付の本備忘録にて言及した,荻原浩メリーゴーランド (新潮文庫)』(新潮社,2004年),楡周平プラチナタウン』(祥伝社,2008年),2010年11月27日付の本備忘録にて言及した 菱田信也『再生の町』(TAC出版,2010年)とともに,公立病院対策をテーマとした,「自治体(行政)再建」モノの一種かなあ,とも思いつつ購入.途中まで読み進めた折に,ふと奥付の著者の紹介を拝見すると,2009年5月26日付同年8月19日付2010年6月1日付の各本備忘録でも取り上げた武雄市の現職市長さんの手によることを,遅ればせながら,確認.
下名も,生業から,首長さんによるご自身の回顧録的又は就任期間での市政での成果紹介的な内容を持つ,「市長の本」*1を拝読させて頂く機会も少なからずあるものの,これらの本は,一般的に,それぞれに対峙された様々な課題や取り組まれた政策を極めて整然とそして,淡々に,更には,渋みあふれる筆致で描かれるきらいが少なくはない.一方,本書は,これら「市長の本」とも一線を画し,著者ご自身が,上記の沖縄時代に身に付けた「自分の話を面白おかしく脚色しながら語る」(40頁)スタイルが反映されてか,著者ご自身の視角に基づきつつ,私小説風な物語仕立てで描かれ,読み物としても非常に楽しく拝読できる一冊.
下名個人としては,自治体行政への観察的な関心からは,市長に対して,「あんたバカじゃなかね」(106頁)という企画部長,「市長は甘いって言うんですよ」(123頁)と述べる副市長と,首長を補佐する職が,首長にとっては耳障りの良くないことも直截的に助言される職場の状況には,庁内の課題顕在化の過程を窺うこともできそうでもあり,大変興味深く,拝読.