東京都渋谷区議会議長が区長の要請を受け、区議に情報公開請求を控えるよう申し入れをしていたことが分かった。しかし、区情報公開条例は区民は誰でも請求権があると定めており、区議からは「行政のチェックを妨げる」と反発の声が上がっている。【日下部聡】
 毎日新聞が情報公開請求で入手した8月29日の渋谷区議会各会派の幹事長会議事録によると、区長与党である自民党の前田和茂議長は「8月11日に区長から要請があった」として、各会派の幹事長に対し「調査すべき事項がある時は、議会としての権限の中で動くことを確認したい」と述べ、情報公開制度の利用を控えるよう申し入れた。
 これに対し、区長野党の民主・共産両党の幹事長から「(誰でも請求できるという)条例の大原則を崩すのは賛同できない」「そういう確認自体がおかしい」などの批判があり、議長が重ねて申し入れる形で議論は終わった。
 毎日新聞の取材に対し、前田議長は、議会事務局を通じて「議事録に書かれている通り」とのみ答えた。桑原敏武区長は取材に対し、「かつて区議の大量請求で職員が苦労したことがあった。議員を請求者から除外する条例改正は難しかったので、議会内で考えてほしいとお願いしてきた。4月に新しい議員が入り、また大量請求が出てきたので、改めてお願いした」と説明した。また、「重箱の隅をつつくのではなく、新しい街づくりという観点から提言してほしい」と議員に求め、批判については「意見の違いはやむを得ない。議会全体としてはご理解いただいたと考えている」と述べた。
 一方、市民団体「渋谷オンブズマン」出身で、4月の区議選で初当選した堀切稔仁区議(無所属)は「情報公開制度を多用する私へのけん制ではないか。区議個人に特別な調査権はなく、区政のチェックに情報公開請求は必要不可欠」と話す。全国の地方議員有志による「開かれた議会をめざす会」運営委員で、栃木県矢板市議(無所属)を5期務めた宮沢昭夫氏は「議会が自ら情報収集の権利を狭くするのはおかしい」と指摘。「少数会派の議員が議会を通じて情報開示を求めても、議長に許可されないことがある。そういう時に情報公開請求は有効な手段」と話している。同区議会では02年にも、情報公開請求の自粛を申し合わせようとして問題化し、見送られた経緯がある。
 新藤宗幸・東京市政調査会常務理事(行政学)の話 議員であろうと区民としての請求権はある。議会としての調査権があるのだから、まずそれをきちんと行使しなければならないが、こんな議論が起きること自体、渋谷区議会が行政のチェック機能を果たしていないとの疑念を招く。

本記事では,渋谷区における情報公開制度の運用に関する取組を紹介.同区長から同区議会議長への「情報公開制度の利用を控えるよう申し入れ」,「各会派の幹事長」にその旨を「申し入れた」とのこと.同紙が行った「区議会各会派の幹事長会議事録」の「情報公開請求」により「入手」された文書等に基づく記事.メディア,議会にとっても,同制度が活用されている様子を窺えるものの,同制度の運用に関して考えさせれる記事.
同区の情報公開条例を拝読させて頂くと,同条例第4条にて「この条例の規定により公文書の公開を請求しようとするもの(以下「公開請求者」という。)は,公文書の公開を請求する権利を濫用することなく,この条例の目的に即し,適正な請求に努めるとともに,公文書の公開を受けたときは,これによって得た情報を適正に使用しなければならない」*1と適正請求の努力義務規定は整備されている.
一方で,その範囲の認定は見解が分かれそうではあるものの,いわゆる「開示請求権の濫用」「濫用的大量請求」が生じた場合でのその対処に関しては,2010年1月19日付の本備忘録にて記録した横浜市のように,濫用禁止規定は設けることもある.仮に,「制度には濫用はつきもの」として,「濫用」に相当する場合には「権利濫用の一般法理で対処」*2されるか,又は,同種の規定を置くよう,条例の改正を図ることも考えられなくもない.「公開事務にかかるコスト」*3と,仮に,規定が整備された場合でも,むしろ「濫用規定は濫用される」*4という「正統な請求を抑制してしまう恐れ」*5との間での,制度運用のディレンマを考えさせられそう.

*1:渋谷区HP(区政情報情報公開・個人情報保護制度)「渋谷区情報公開条例」(平成元年九月二五日,条例第三九号)

*2:藤原静雄「情報共有の政策法務」北村喜宣・山口道昭・出石稔・礒崎初仁『自治政策法務』(有斐閣,2011年)492頁

自治体政策法務 -- 地域特性に適合した法環境の創造

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*3:中原茂樹「説明責任を果たすための文書管理」村松岐夫・稲継裕昭・財団法人日本都市センター編著『分権改革は都市行政機構を変えたか』(第一法規,2009年)202頁

分権改革は都市行政機構を変えたか

分権改革は都市行政機構を変えたか

*4:前掲注2・藤原静雄2011年:492頁

*5:前掲注3・中原茂樹2009年:203頁