栃木市は10月、県内で初めて、談合情報対応マニュアルについて、談合の疑いが払拭出来ない“グレー”な状況の入札を無効にすることもできる新たな基準を設けた。当事者が否定し落札金額が合致しなくとも、一定の誤差範囲を設け裁断を下すもので、佐野市でも見直しを進めている。ほかの県内自治体の多くは談合情報が少ないとし追随する動きはないが、識者は「談合を見逃さない実効性のある対応策が必要だ」と指摘している。(石川千佳)
■事情聴取の限界
 県内自治体のマニュアルの多くは、工事名や落札予定業者名、金額などの情報が寄せられた場合、入札参加業者への事情聴取を行うことになっている。業者名や金額が情報と一致した場合に入札が無効になるのが一般的だ。全業者が「談合していない」と回答すると、開札が再開されるが、ある自治体の担当者は、「捜査権のない行政機関では事情聴取が限界だが、素直に談合を告白する業者がいるとは考えにくい」と話す。
■マニュアル改訂
 栃木市は、開札で落札業者名や金額が情報と完全に一致した場合に加えて、情報と実際の落札価格との差がプラスマイナス0・5%以内のときは、入札を無効にすることもできるよう10月にマニュアルを改訂した。同市によると、談合には、落札金額を詳細に決めたり、何万円以上というように、曖昧に決めたりとさまざま。情報提供者が必ずしも、金額を一致できない可能性もあるという。同市は、「市民目線では談合情報が寄せられた段階で、疑いがある“グレー”な入札」とした上で、「基準を持たないままでは、落札予定金額など当事者しか知り得ない信ぴょう性の高い情報を持ちながら、談合を見落とす懸念がある」と話す。今年4月に落札業者名だけの談合情報が寄せられた佐野市でもマニュアルに基準を導入するかどうか見直しの検討を進めている。
■実効性
 一方で、「わざと基準値から0・1%でもずれるように落札額を設定して、網の目をくぐり抜ける業者が出てくるのでは」と心配する声もある。6年前から談合情報と落札金額との差額について、一定の幅を基準として盛り込んだマニュアルを運用する和歌山県は、基準値以内の誤差で情報と落札金額が一致し、入札を無効にした事例があり、自治体によって工夫を凝らす対応をとっているところもある。
 地方自治に詳しい宇都宮大学の中村祐司教授は、「談合防止の手続きを形骸化させないため、一定の線引きは必要になる。また、いたちごっこにならないため、基準を公開するかどうかの検討も必要だ」と指摘している。

本記事では,栃木市における「談合情報対応マニュアル」の改訂の取組を紹介.2011年10月1日付で制度改正された同市の「入札・契約制度」*1.同市では「建設工事に係る入札談合情報及び処理概要」*2は公表されてはいるものの,本記事で紹介されている同マニュアルは,同市HPでは現在のところ確認ができず(公表はされないのだろうか).
そのため,本記事を拝読させて頂くと,「捜査権のない行政機関では事情聴取が限界」,「素直に談合を告白する業者がいるとは考えにくい」現状から,同マニュアルを改訂.同マニュアルでは,「開札で落札業者名や金額が情報と完全に一致した場合」に加えて,「情報と実際の落札価格との差がプラスマイナス0.5%以内のとき」には「“グレー”な入札」として「入札を無効」とされる模様.勿論,入札者・応札者の間で,「機会としての談合」が行われたという,まずもって「調整をしたという物的証拠」*3がある場合は無効とされるとしても,本記事の通り「事情聴取」の「限界」ゆえの「受動的情報資源調達」*4を通じて「寄せられた」「工事名や落札予定業者名,金額などの情報」と落札額を勘案された結果,いわば,「結果としての談合」もその対象とされる模様.方や,結果としての談合では,談合が行われたという証拠は,「状況証拠は,あくまで状況証拠」*5と解される虞も想定されなくもない.
談合防止の実効性の確保とともに,その事後的な検証も難儀を要しそうではあるものの,同マニュアルの実際の運用状況は,要経過観察.

*1:栃木市HP(各課の情報契約検査課・各総合支所地域まちづくり課)「平成23年度の入札・契約制度について

*2:栃木市HP(各課の情報契約検査課・各総合支所地域まちづくり課)「建設工事に係る入札談合情報及び処理概要について

*3:池井戸潤『鉄の骨』(講談社,2011年)489頁

鉄の骨 (講談社文庫)

鉄の骨 (講談社文庫)

*4:城山英明「情報活動」森田朗編『行政学の基礎』(岩波書店,1998年)274頁

行政学の基礎

行政学の基礎

*5:前掲注3・池井戸潤2011年:495頁