2020年東京五輪パラリンピックに向け、東京都が受動喫煙防止対策として、飲食店やホテルを対象に今年度導入した補助金の申し込みが低調だ。分煙施設整備を目的に10億円の予算を計上したものの、申請は想定の1割程度。スペースから分煙エリアを確保できない店舗が多い上、医療関係者は「そもそも分煙では受動喫煙を防げない」と指摘し、制度自体が疑問視されている。
 今年度スタートさせた分煙環境整備補助金は、都内の宿泊施設や中小の飲食店(資本金5000万円以下か従業員50人以下の事業者)が排気設備や火災報知機などを備えた喫煙室分煙エリアを設ける際に、工事費など経費の5分の4(1施設当たり上限300万円)を補助する。
 都は初年度の申し込みを300件程度と想定し、制度周知の事務的経費などを含めて今年度予算に10億円を計上して、7月下旬から受け付けを開始した。工事終了後は店側が、禁煙エリアにたばこの煙が漏れないかどうか検査を受ける必要があるため、来年2月末までに工事を終えることが条件。申請から補助金交付決定までの審査期間は1カ月程度とされており、12月末までに申し込まないと手続きが間に合わない可能性もある。
 ところが都によると、申請は11日現在で28件にとどまり、想定を大きく下回る状況となっている。申請が少ない理由について、中小の飲食店約1万店が加盟する「東京都飲食業生活衛生同業組合」の宇都野(うつの)知之常務理事は「(組合員は)10坪(約33平方メートル)ぐらいの店が多く、分煙のためのスペースがない」と説明する。初年度は申し込みの期間も短く「予算はあっても使い切れないのではないか」と話す。
 一方、東京都医師会の尾崎治夫会長は「たばこの煙の粒子は非常に小さく、隙間(すきま)から禁煙席に入るので、分煙では受動喫煙は防げないというのが世界的な常識。従業員が喫煙エリアに入らざるを得ないという問題もある。10億円もの税金をつぎ込むのは無駄」と指摘している。【武本光政、稲田佳代】
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 近年の五輪開催都市では飲食店など屋内施設を禁煙とする罰則付きの法令が整備され、国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)が「たばこのない五輪」を目指す協定を締結している。2016年大会開催地のリオデジャネイロも公共施設などを禁煙とする罰則付きの州法を制定した。
 こうした中で東京都は昨秋、受動喫煙防止対策を話し合う検討会を設け、各種団体から意見を聞いた。都医師会が「屋内空間の全面禁煙化」を求めたのに対し、都飲食業生活衛生同業組合は「売り上げが減り経営に大きく影響する」と異論を唱えた。検討会は今春、「18年までに条例化について検討する」との提言を公表し、事実上結論を先送りした。政府は11月に閣議決定した20年大会の基本方針に「競技会場及び公共の場における受動喫煙防止対策を強化」を盛り込んだが、他の開催都市のような法整備に向けた道筋は見えない。基本方針を受け、舛添要一都知事は「徹底的な分煙をやる。今後更に対策を進めたい」と強調した。ただ、都内には飲食店が約8万軒、ホテルは約3000軒ある。補助金活用の低調ぶりは「完全分煙」に向けたハードルの高さも浮かび上がらせている。【武本光政】

本記事では,東京都における受動喫煙防止対策の実施状況を紹介.
東京都が2015年7月27日から開始した「宿泊・飲食施設の分煙環境整備補助金*1の応募.「ホームページ,メニュー等の外国語による表記」等の「多言語対応」に「取り組」む,「または取り組もうとしており」「外国人旅行者受入れに積極的な宿泊・飲食施設のうち」,「東京都内の宿泊施設」又は「東京都内の飲食店で」「中小企業者に該当する者」*2を対象とした同補助金.「補助率・限度額」は「補助対象経費の5分の4以内」で「1施設につき300万円」が「限度」*3となる.「補助対象経費」は「喫煙室の設置」「エリア分煙」「フロア分煙」の「措置に必要な設備・備品購入費」「改修整備費等」*4とされている.本記事では,2015年12月11日段階での同補助金への応募状況を紹介.応募事業者による「利用者の受動喫煙防止」とともに「労働者の受動喫煙防止」*5の整備状況は,要確認.

*1:東京都HP(これまでの報道発表2015年7月)「平成27年度新規事業宿泊・飲食施設の分煙化を支援します! 外国人旅行者の受入れに向けた宿泊・飲食施設の分煙環境整備補助金」(平成27年7月17日 産業労働局)

*2:前掲注1・東京都(平成27年度新規事業宿泊・飲食施設の分煙化を支援します! 外国人旅行者の受入れに向けた宿泊・飲食施設の分煙環境整備補助金

*3:前掲注1・東京都(平成27年度新規事業宿泊・飲食施設の分煙化を支援します! 外国人旅行者の受入れに向けた宿泊・飲食施設の分煙環境整備補助金

*4:前掲注1・東京都(平成27年度新規事業宿泊・飲食施設の分煙化を支援します! 外国人旅行者の受入れに向けた宿泊・飲食施設の分煙環境整備補助金

*5:田中謙『タバコ規制をめぐる法と政策』(日本評論社,2014年)249頁

タバコ規制をめぐる法と政策

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