西尾勝先生の『地方分権改革』(東京大学出版会、2007年)には救われたとの思いが強い。
以前、地方分権推進委員会の議事要録を読み進めていた折、実感したのは、同委員会活動における地方六団体の役割の大きさであった。それは、当時一般的に認識されていた、地方六団体が一体であったことで同委員会に及ぼした「正の面」の状況はもちろんであったが、情報源であった地方六団体からの意見に左右される同委員会の「負の面」の状況であった。何となく触れてはいけない部分を読み取った感もあり、調べた内容の公刊は躊躇った。その結果は、レポートとして事実関係を中心にまとめ、小さな会で紹介する機会もあったが、どうも一般的には理解され難いようであった。そのため、同レポートは、当方のPCのなかで、2年間、眠らせたままであった。
その後、追憶と希望の書ともいえる同書が出版され、次のような文章に出会い、安心をした。そこで、公刊する決心もでき、昨年、学内の研究紀要に提出した。

「第一次分権改革の成果の範囲は、まず地方六団体の総意に依存したところで大きく限界づけられ、次いで関係省庁が同意した範囲内に限界づけられたということになる」*1

本日読んだ、『地方自治』2008年1月号の西尾論文では、分権改革において地方六団体が一体であることに限界があるとの主張がより鮮明となっている。確かに、地方分権推進委員会と比べても今日の分権改革の課題は、「「地方六団体の総意」に固執し続けていては意味のある改革を実現することはむずかしくなってきている」(同誌9頁)からだろう。そのため、地方六団体の一体であることの強みとともに、個々の団体であることの強みを強化することが重要である*2
また、『地方自治』掲載の西尾論文では、地方分権論議を「所掌事務の拡大路線」と「自由度の拡大路線」との整理を行う。しかし、恋してやまない「条例による事務処理特例制度」は、当方は予てより「自由度の拡大路線」のツールとして理解している(運用上もそれに近くなっていると観察している)ものの、西尾先生は「所掌事務の拡大路線」とされている模様。要検討。

*1:西尾勝地方分権改革』(東京大学出版会、2007年)56頁

地方分権改革 (行政学叢書)

地方分権改革 (行政学叢書)

*2:以上の点からいえば、木寺元先生の下記論文は、公刊が待たれる。木寺元「機関委任事務の「廃止」と地方六団体」『公共政策研究 第7号 2007』