「普通の公務員に戻ります」―。テレビなどで「あさぎり町ヨン様」として観光PRをしてきた町総務課職員の中神啓介さん(37)=写真=が、来月一日を最後にメディアへの出演をやめる。そっくりさんの活動開始から一年がたつのを機に「本来の仕事に集中したい」と決意した。
 昨年五月、本紙が「韓流スターのペ・ヨンジュンさんに似た町職員がいる」と取り上げたのをきっかけに、メディアの取材が殺到。東京でのイベントに招かれ物産品を販売するなど、町の知名度アップに貢献してきた。ただ、代償も大きかった。女性に人気のあるヨン様のそっくりさんとあって、多くの人に顔が知れ渡った。熊本市内などに出掛けたプライベートの時間にも、声を掛けられたり、サインを頼まれたり。できる限り応じてはいたが、内心は困惑していたという。 こうした日常を続けるうちに「公務員としてこれでいいのか」との思いが強まり、“引退”を決意。愛甲一典町長にも伝えた。町長は「町の名前を広めてもらった活躍に感謝しており、今後は本来業務の面で期待している。これからは町の特産品を作り“本物”の商品で勝負したい」と一年間の労をねぎらっている。来月一日は、同町深田西の天子の水公園である「花菖蒲(しょうぶ)まつり」で人力車を引くなどして観光客をもてなした後、イメージチェンジのため髪を切る「断髪式」をする予定。その後はテレビなどへの出演はしないという。中神さんは「町や人吉球磨地域について勉強するきっかけになった。アドバイスや励ましの言葉もたくさんもらい、『住民あっての職員』と実感した。今後は裏方として、町発展に貢献したい」と話している。(山口尚久)

同記事では,「あさぎり町ヨン様」として,あさぎり町の広報活動を担当されてきた同町総務課政策推進班勤務の中神啓介さんが,6月1日をもって「ヨン様」からの引退を表明されたとのこと.活躍の様子は,同町HPにも一部掲載*1.単に似ているという理由で,同町の広報業務を御担当されてきたことは,大変なご苦労も多かったかと思う.
中神さんのような「そっくりさん」による広報活動のみならなず,いわゆる「ゆるキャラ*2や「ご当地キャラ」等の比較的「ソフト」な広報活動は自治体において広く活用されている.同種のキャラクターでは,警視庁の「ピーポ君」*3が他のキャラクター達の群を抜いてはいるものの,国民全てが共有されているよう圧倒的なキャラクターは未だ存在しないかと思う.最近では,平城遷都1300年祭のキャラである「せんとくん」の例のように*4,そのキャラクター選定を通じて,当該地域との適合性をめぐる各種論争を生み,結果として,キャラクターの認知度や当該地域への注目を集めることもある.
「行政体が外部環境とのかかわりにおいて存続し,活動していくための不可避的な手段である」*5とされる広報.近年では外交レベルで「政府間で行われる伝統的外交や,市民間で行われる民間交流とは異なり,政府から相手国の市民や民間組織に働きかけることで,特定の政策目標を達成しようとする活動」*6として「パブリック・ディプロマシー」への注目が高まっている.「パブリック・ディプロマシー」を展開する際には,各国の「ソフト・パワーの活用」が有効とも考えられる.自治体における広報という外交において,「各種キャラ」もまた,各自治体のソフト・パワーの一つなのであろうか.興味深い.
なお,引退日である6月1日は,奇しくも「『太王四神記』プレミアムイベント2008 in JAPAN」にて本家・ペ・ヨンジュンさんが来日の日.この国には,今でも随所に多くの「ヨン様」が生息されているのかもしれないが,中神さんは本家にバトンを戻すこととなる.

*1:あさぎり町HP(新着情報)「1万5千人で賑わったあさぎり夢まつり

*2:詳細は,次の文献を参照.みうらじゅんゆるキャラの本 (扶桑社サブカルPB)』(扶桑社,2006年)

ゆるキャラの本 (扶桑社サブカルPB)

ゆるキャラの本 (扶桑社サブカルPB)

*3:警視庁HP「ピーポくんTOWN

*4:読売新聞(2008年5月25日付)「1300年祭キャラ 公募候補30点どれに決まる?

*5:井出嘉憲『行政広報論』(勁草書房,1967年)

*6:渡辺靖アメリカン・センター』(岩波書店,2008年)

アメリカン・センター―アメリカの国際文化戦略

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