鳥取県人事委員会は六日、県職員の給与を平均3・2%、ボーナスも年〇・〇三カ月分それぞれ引き下げるよう平井伸治知事に勧告した。官民格差の解消を求めた内容で、給与の引き下げ率は過去最大。ボーナスのみ減額だった昨年を含め、十年連続の引き下げ勧告となる。
 県人事委は、五十人以上の事務・技術職が勤務する民間企業百四十三社の今年四月分の給与を調査。県職員と比較した結果、民間が県職員を3・24%下回った。二〇〇七年八月から〇八年七月のボーナスも民間が平均〇・〇三カ月分低かった。これまで最大の給与引き下げ率は、〇二年の1・88%。勧告を実施した場合、平均給与(平均年齢四二・四歳)は一万千四百五円下がって三十四万五千二百九十三円。対象者一万三百七十五人分の人件費二十三億二千八百万円が減額となる。勧告では、ほかに管理職手当の3・5%減や、現行の労働時間一日八時間を七時間四十五分に短縮することなども盛り込んだ。県は勧告に基づき給与条例の改正案を十二月定例県議会に提案。来年一月からの実施を目指す。県人事委の曽我紀厚委員長は「国人事院は据え置き方針だが、地域の実情に合わせて引き下げを勧告した」と説明。平井知事は「思い切った勧告であり最大限に尊重したい」と答えた。これに対して、県職員連合労働組合の片山武彦委員長は「地方公務員法は国と他県、民間の給与を考慮するよう定めている。民間だけに合わせるのは納得できない」と話している。

同記事では,鳥取県の人事委員会勧告において,給与引き上げの内容を提示したことを紹介.国の人事院では,「本年は,このような公務員給与と民間給与との比較の結果を踏まえ,月例給及び特別給について水準改定を行わないこととした」*1との勧告が示されているなかで,「官公均衡」*2の原則からすれば,同県においても水準改定を行わないことも想定されるものの,むしろ「公民均衡」原則に基づき,同記事のように,同県では引き下げを勧告.比較的多くの他の道府県では「据え置き」の勧告が示されるなかでの勧告*3.勧告内容は,同県人事委員会HPを参照*4
まさに西村美香先生が『日本の公務員給与政策』にてご指摘されていたように,「「官公均衡」が徐々に拘束力を弱め,あるいは廃止されていく可能性は高い」(290頁)のだろうか.興味深い勧告.旧来,各都道府県の人事委員会は,「独自の調査機能を果たせず,機械的に全国調査である人事院勧告の官民較差率を援用している」として,「人事委員会の勧告機能の不十分性は明らか」*5との分析もある.山本正憲先生は,そこで,人事委員会の調査研究機能を充実するためにも「道府県県都市(又は政令指定都市)は合同し,新たな県市合同人事委員会を形成し,当該地域の給与等の綿密な調査研究機能を行うこと」(203頁)との提案もある.同県の勧告は,人事委員会勧告の実質化としては,興味深い事例.
なお,蛇足.8月13日付の本備忘録でも触れた同県教育委員会の判断然り,同記事然り,新聞報道の観察からだけでの感想ではあるが,同県では行政委員会が活発と思うのは気のせいなのだろうか.要経過観察.

*1:人事院HP『平成20年人事院勧告:別紙第1 職員の給与等に関する報告』(2008年8月)8頁

*2:西村美香『日本の公務員給与政策』(東京大学出版会,1999年)3頁[rakuten:book:10748614:detail]

*3:例えば,次の通り.北海道新聞(2008年10月3日付)「給与3年連続据え置き 道人事委勧告 医師は引き上げへ」,信濃毎日新聞(2008年10月6日付)「県職員給与、2年ぶり据え置き 県人事委が報告」,中国新聞(2008年10月7日付)「医師確保へ初任手当増 広島県人事委勧告」,毎日新聞(2008年10月3日付)「県人事委:職員給与ボーナス、水準改定は見送り /福岡」,毎日新聞(2008年10月4日付)「県人事委:県職員給与、勧告見送り/熊本」.なお,引き上げもある.河北新報(2008年10月7日付)「医師手当引き上げを 福島県人事委」,毎日新聞(2008年10月7日付)「県人事委:県職員手当、引き上げへ 民間との格差理由に−−報告 /広島」」.そのため,鳥取県の人事委員会勧告で言及されている「他の地方公共団体の職員の給与の状況」として,「既に勧告を行った団体については,引き上げることとした団体,据え置くこととした団体,引き下げることとした団体と,地域の実情に応じた勧告内容となっており,人事院勧告に準じる団体は少ない」との言及は,当たらずとも遠からず,ともいえそう

*4:鳥取県人事委委員会HP「平成20年 職員の給与等に関する報告及び勧告並びに人事管理に関する報告

*5:山本正憲『日本の地方公務員の人件費研究』(ブイツーソリューション,2008年)150頁

日本の地方公務員の人件費研究

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