政府の地方制度調査会専門小委員会は7日、地方議会改革について議論し、女性ら幅広い層に議会活動に参加してもらうため、公務員が退職しないと公職選挙に立候補できない現行制度の改正を求める意見が相次いだ。
 また地方自治法で人口に応じて決められている議員定数の上限については、自治体の財政難から上限より少ない議員数に改める動きが相次いでいることを踏まえ、廃止も視野に検討していくことで一致した。公務員の兼職禁止は地方自治法公選法で規定。小幡純子委員(上智大教授)は「自治体の女性職員には優秀な人材も多い。自治体職員の立候補を認めれば、女性議員の増加にもつながる」と指摘。他の委員からは、平日は議員活動への参加が難しいサラリーマンの立候補について「(落選後などに)復職の道があればチャンスが広がる」との意見があった。法定得票数に満たなければ供託金が没収される制度については、大山礼子委員(駒沢大教授)が「立候補の乱立を防ぐ趣旨はあるが、立候補のハードルになっている」と見直しを求めた。

同記事では,2008年10月7日に開催された地方制度調査会の第16回専門小委員会において,公務員の兼職禁止規定を改定し,自治体職員の身分のままであっても立候補を可能とすることを審議したことを紹介.議事録は未だ公開されておらず,配付資料のみが現在の所,同委員会HPにて公開.
同記事だけを読むと,正直なところ,女性の議員増加と兼職の禁止規定緩和との間の相互関係がよく分からない.同記事では,当日配付資料のうち,「資料2 議会制度のあり方に係る論点」*1内の,「第3 幅広い層が議員活動できるための環境整備」の「2 勤労者や主婦等の立候補や議員活動を容易にするための環境整備」として課題設定された「【検討の視点】」において提示されている,「○ 地方公務員の立候補、議員との兼職禁止の制限について,どのように考えるのか.地方公務員の職務の公正な執行の問題や職務専念義務との関係について,どう考えるか」と「○ 女性の議員をさらに増やすための方策について,どのように考えるのか.積極的改善措置を一般的制度として採用することについて,どう考えるのか.また,有権者の意識や候補者を擁立する政党等の姿勢についても課題はないか」の2つの視点に対する発言を紹介されている模様.
ただ,2つの視点は混同させた制度決着とすることが適当なのだろうかとも疑問も残る.確かに,地方自治法第92条による,議会の議員が常勤職員等との兼職することを禁止規定を緩和することで,常勤職員等から議会の議員となる蓋然性は高まることになる.しかし,同規定の緩和により,女性の議員増加に結びつくとは必ずしも論理一貫性を有する提案ではないようにも思われる.同記事でもはその発言内容がご紹介されている,小幡純子先生による同テーマに関する御高論を拝読すると「地方議会議員の女性割合を高めるためには,まず,女性の立候補者を増大させていくことが必要であるが,市町村合併により議員数が減少していく中で,困難な状況となっていくことも想定されるため,より積極的な取組みが要請されるところであろう」*2とやや一般的な記載ではあるが,積極的改善措置をも念頭に置かれた言及をなされている.同記事の発言については,2つの視点に関する事項が織り交ぜられているようにも考えられるが,実際の所はどうなのだろう.議事録公開時に要確認.
積極的改善措置に関しては,例えば,クォータ制であれば,国際比較上,法定化による強制型以外にも,政党による自発的な制度もあると分類されている.そして,前者に関しては,「日本の最高裁判所選挙制度について広範な立法裁量論を採用して違憲判断に消極的であることからすれば,仮にクォータ制が導入された場合でも,最高裁違憲と判断される可能性は低いと思われる」*3との見解もある.ただ,自治体であれば法定化を待たずとも,特に,自治制度の「自由度の拡大路線」*4からすれば,議員定数条例の改定や更には議会基本条例等によって規定し,自治体自らで議員構成を確定することが適当とも思わなくもない.ただ,実際には,同種の条例制定を試みる議会も限られることも想定され,同課題は国レベルでの制度で回収するしかないのだろうか.
なお,兼職禁止に関しては,これはこれで興味深い論点.別途,考えてみたい.
更に,蛇足.産経新聞が2008年9月21日〜23日の間で取り上げた「私たちが政治を変える!美人議員、大いに語る(1)〜(3)」*5と題された鼎談記事は,地方議会への優れた参与観察の記録とも読むことでき,楽しい記事.地方制度調査会の第14回専門小委員会で執行三団体の代表からの意見聴取を行った際に*6,同委員会の副委員長曰わく「現状維持」*7の意見が聞かれたともされるが,議員構成に関する議論を行う上では,同記事での鼎談された女性議員に限らずとも(同委員会への関心喚起のためには,むしろ参入障壁の実感度等の把握のためにも,政党間バランスを見据えた上で,新人女性議員に限っても良いのかとも思うが),女性の地方議員を実際に同委員会の場にお呼びし,地方議会の実状等を踏まえた,積極的改善措置等の制度検討されると良いのではないかと思ったりもするが,どうだろうか.

*1:内閣府HP・第29次地方制度調査会第16回専門小委員会(2008年10月7日開催)資料2議会制度のあり方に係る論点

*2:小幡純子「行政法学からみたジェンダー」川人貞史・山元一『政治参画とジェンダー』(東北大学出版会,2007年)140頁

政治参画とジェンダー (ジェンダー法・政策研究叢書)

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*3:辻村みよ子「政治・行政とポジティブ・アクション田村哲樹・金子篤子編『ポジティブ・アクションの可能性』(ナカニシヤ出版,2007年)135頁

ポジティブ・アクションの可能性―男女共同参画社会の制度デザインのために

ポジティブ・アクションの可能性―男女共同参画社会の制度デザインのために

*4:西尾勝「四分五裂する地方分権改革の渦中にあって考える」『分権改革の新展開』(ぎょうせい,2008年)3頁.

年報行政研究43 分権改革の新展開

年報行政研究43 分権改革の新展開

*5:産経新聞(2008年9月21日付)「私たちが政治を変える!美人議員、大いに語る(1)「アニメ声なので低い声を練習」」,産経新聞(2008年9月22日付)「私たちが政治を変える!美人議員、大いに語る(2)「結婚はします…よね?」」,産経新聞(2008年9月23日付)「私たちが政治を変える!美人議員、大いに語る(3)ズバリ!国政を狙う?」

*6:内閣府HP・第29次地方制度調査会第14回専門小委員会(2008年9月5日開催)

*7:千葉茂明「議会の権限強化に慎重論相次ぐ」『ガバナンス』No.90,2008年10月号,85頁

ガバナンス2008年10月号

ガバナンス2008年10月号