◇「民主主義の学校」再生したい
 町議を町の幹部職員に任用し、政治家チームで町政を仕切る−−。国の構造改革特区制度を活用して、新たな自治の形を目指そうとする一色町の都築譲町長に話を聞いた。
−−アイデアのきっかけは。
「行政事務が複雑、多様化し、情報量も膨大になる中、首長1人で的確に行政を運営するのは困難だ。一方、議員も年4回の定例会程度で立法(政策立案)と行政監視の役割を果たしていけるのか。対立の構図より、選挙で選ばれた首長と議員の何人かがチームを組んで行政全体を運営していくことが、民意を反映する上で適切じゃないかと考えた」
◇相乗効果に期待
−−ただ議員には職員以上の専門知識はありません。何も変わらないのでは。
「最初はね。でも常勤という形で決裁とか情報伝達とか、そういう中に座ってもらえばだんだん精通していく。職員も国や県の指導に従うのに精いっぱいの状況から、もっと住民の方を向いた仕事ぶりになると思う」
−−提案は、首長と議会の緊張関係を前提とした二元代表制の根幹に触れます。
「二元代表制は結構だけれども、民意を反映し、効率的な行政事務で住民福祉の向上を図るのが地方自治法の精神。孤独な首長と情報に疎い議員、これで地方自治なんて言ってること自体が漫才、笑い話です」
−−でも、議員の兼職は議会の骨抜きになりかねません。
「要は、首長と議員選出幹部との関係をどう作っていくかということ。リーダーシップは首長が取るべきだと思うけど、上司と部下という関係より、僕が言ってるのはチームとして動く形。(兼職議員が関与した)議決案件が本会議にかかる場合には投票を辞退する方式も考えられる」
◇コンビニ自治では
−−統治の根幹にかかわることを特区でやるのは妥当ですか。
「政党のリーダーであれば法改正を提案できるけど、町長の立場では手立てはそれしかない」
−−ところで、日本も自治システムをもう少し柔軟にすべきだとの意見もありますね。
自治システムと言うけど、コンビニと同じだと思う時がある。店長は地元の人でいい、ただ商品の種類や並べ方は(国や県が)全部教えますと。他人(国)が決めたものを請け負わされ、(議会で行われる)議論も国の政策の当否。地方自治体こそ民主主義の学校だと言われるけど、これで民主主義かという話だよね」
−−無力感の中で、あえて前例のない試みをやってみようというわけですね。
「無力感どころか、機能しなくなっている『民主主義の学校』を何とかしないと。特区で穴を開けられるならやってみようということです」【聞き手・三岡昭博】
◇引き抜きは議会に影響−−議長
一色町の高須一弘議長は、都築譲町長の提案について「(議員は)町民から選ばれたのだから、住民本位の行政ができると言っているが、にわか職員よりベテラン職員の方が(行政に精通し)優秀に決まっている。議員が4人引き抜かれれば、議会としてゆゆしき事態となる」と話している。【三岡昭博】

同記事では,一色町において,第14次の構造改革特区の提案として,「町議会議員をその身分を保ったまま地方公共団体の職員(常勤の一般事務職)に任用する」を求める申請を行ったことを紹介(下名へのサンタさんからのクリスマス・プレゼント記事は,特区ネタでした).ここ数日間,風邪ひきでぼーっとした頭のままで,何故だか,構造改革特別区域推進本部関連の諸資料を読み続けていたこともあり,同記事に目に止まる.同申請概要に関しては,構造改革特別区域推進本部HPを参照.*1.恰も,参事会制度の復権かと思える提案ではあり,見方によっては,1990年代以降のヨーロッパ各国における自治統治機構改革の「一元代表制から二元代表制に転換する試み」*2とは,まさに真逆の路線が提案されており,比較自治統治機構改革としても興味深い提案.
同提案に関しては,11月29日付の朝日新聞*3においても,その背景等とともに報道.朝日新聞の報道によると「都築町長は4月に,2人目の副町長として町議会副議長だった徳倉正美氏を起用」.その際に「副議長のまま副町長に就かせようと検討した」ものの「地方自治法の「議員の兼職禁止規定」に」抵触したため,「徳倉氏が議員辞職した」ことを受けての申請となったとのこと.「却下された場合は常勤の職員ではなく,非常勤職員の形での兼職ということもある」との意向も示されているとのこと.
同提案,地方自治法第92条第2項(議員の兼職の禁止),地方公務員法第36条第1項及び第2項 (政治的行為の制限),公職選挙法第89条第1項(公務員の立候補制限)の3法にわたる事項.同提案に対する総務省の見解としては,「現行地方自治制度上,議会と長はそれぞれ独立の立場において相互に牽制し,均衡と調和の関係を保持することが予定されている」として,「議事機関である議会の議員が,その身分を有したまま長の指揮監督を受ける職員となることについては,議会と長の関係という制度の根幹に関わる事項であり,慎重な検討を要するものである」*4と,一般的な理由を論拠に回答.基本的には,首長と議会との関係から,首長の政治的任用の範囲を拡大する提案趣旨ともいえそう.同種の提案については,少しその形態は異なるものの,第9次提案の際に逗子市より提案された「首長裁量による常勤特別職の設置(猟官制)」*5もある.いずれも,提案の趣旨だけを実現しようとするのであれば,現行制度内でも趣旨については対応可能な部分もありそうかなあと思わないでもないが,個人的にも,自治体の頂上部分(at the apex*6 )での政治任用制度の拡大がいかなる影響をもたらすものなのか*7,その観察をしてみたい気もする.

*1:首相官邸HP(構造改革特別区域推進本部構造改革特区の提案募集について第14次提案募集関係「特区、規制改革、公共サービス改革集中受付」に係る提案・要望・意見の受付状況について(平成20年11月14日))「資料1構造改革特区の提案受付状況について」「【参考資料1】「構造改革特区(第14次)提案募集における提案事項の概要」」11頁

*2:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治』(北樹出版,2007年)86頁

ホーンブック 地方自治

ホーンブック 地方自治

*3:朝日新聞(2008年11月29日付)「「町議を部長級職員に任用」 愛知・一色町が特区提案

*4:首相官邸HP(構造改革特別区域推進本部構造改革特区の提案募集について第14次提案募集関係構造改革特区に関する再検討要請の実施について(お知らせ)(平成20年12月17日))「総務省」2頁

*5:首相官邸HP(構造改革特別区域推進本部構造改革特区の提案募集について第9次提案募集関係構造改革特区の第9次提案及び地域再生(非予算)の第4次提案に関する当室と各府省庁のやりとり)「04 総務省 非予算(特区・地域再生 再々検討要請回答)」2頁

*6:Poul Erik Mouritzen, James H. Svara,Leadership at the Apex:Politicians and Administrators in Western Local Governments,Univ of Pittsburgh Press,2002,7

Leadership at the Apex: Politicians and Administrators in Western Local Governments

Leadership at the Apex: Politicians and Administrators in Western Local Governments

*7:David E. Lewis,The Politics of Presidential Appointments: Political Control and Bureaucratic Performance, Princeton UP,2008,202.

The Politics of Presidential Appointments: Political Control and Bureaucratic Performance

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