日高郡町村会定例会は13日に日高振興局で開き、県が3月に策定する「分権(権限移譲)計画」について水野敦志・県市町村課長が中間報告を行った。国の地方分権一括法等で県から市町村に権限移譲するメニューや県の支援策などをまとめており、移譲対象法律は農地法都市計画法など市が51件、町村が34件ある。平成21年度に条例改正等を行い、22年4月から実施する。
 計画策定に向け昨年10月から検討を始め、市町村の意見を聞きながら現在、第2次取りまとめ案を市町村に提示中。2月末に最終案を示して3月末に策定・公表する。第2次取りまとめ案で提示した市への移譲51件中、34件は町村と重複。残りの17件は市のみへの移譲となり、この中には福祉分野の根幹を占める介護保険法、社会福祉法、老人福祉法が含まれており、福祉事務所を設置している市に対してより大きな権限を移譲する。3法のうち介護保険法は介護サービス事業者の指定、指導、立ち入り検査、行政処分等の権限を移譲することで「指定事務のスピードアップや権限集約による保険者機能の強化(利用者サービスの質向上)を図ることができる」。児童福祉法は民間保育所の設置認可や立ち入り検査、行政処分等の権限を移譲することで「事前協議の効率化、民間と公立保育所の効率的な保育行政が可能になる」としている。
 市と重複する町村の34件には農地法や農業振興地域の整備に関する法律、都市計画法児童福祉法、中小小売商業振興法、宅地造成等規制法等がある。農地法は自己所有の農地を農地以外に転用する許可(農地面積が2ヘクタール以下)などの権限を移譲し、都市計画法は開発行為や市街化調整区域等における建築に関する許可等を移譲することで「審査のスピードアップ、より地域の実情を反映した審査を行える」としている。
 権限移譲に伴う財源措置について県は「所要の財政措置をとる」としているが、入江勉美浜町長は「行革で職員数をぎりぎりまで減らしている。移譲が実施されれば新たに職員を雇う必要があるが、財源的に厳しい。庁舎も手狭になり、増築も考えないといけない」。笹朝一日高川町長は「分権赤字にならないか心配」と話したように各市町とも移譲に伴う財政負担増に頭を悩ませているのが現状。権限が強化されることで市町村への不当要求等が増えることが予想され、職員が移譲法律を熟知するなど質の向上を図る必要があり、畑中雅央由良町長らは「分野ごとに専門的な職員研修などを実施してほしい」と求めた。水野課長は「移譲したからあとは知らないということは絶対にない。事務を円滑に行うための必要な支援は行う」と述べた。

同記事では,和歌山県における『分権計画』策定に向けて,同県市町村課長から説明が行われたことを紹介.同県における市町村への事務権限移譲の取り組みについては,同県HPを参照*1
同HPに掲載されている資料1頁に,地方自治法第252条の17の2に関する県と市町村との同手続に関するポンチ絵が書かれている.その際,「協議,同意」と記載されているが,言わずもがなこれは「都道府県知事は事務を処理することとなる市町村の長と誠実に協議をする必要があるが,「協議」は市町村の同意までを必要としない」*2とするのが「法定上の標準(de jure standard) 」.ただ,実際には,概ねの都道府県レベルでは,市町村側の意向を解することなく移譲することは困難であり*3,いわば,「(市町村の)同意を要する協議」としての運用となっているのが「事実上の標準(de facto standard) )」.同資料では,同県は「県条例による移譲法律数14法律(全国43位)」との現状にあるためなのだろうか,「全国一斉の権限移譲に向けた準備が必要」ともあり,法定移譲対応としての様相もあるようにも読むことができる.ただ,『市町村への分権に関する計画(仮称)』に関しては,「個々具体の事務について,県・市町村が議論して決定」とも記載されており,まずは,協議と同意の上で着実な実績を積み上げる方針にある模様.
個人的には,同種の分権計画内に記載される範囲と同協議について観察しており,特に,他の都道府県でも策定されている同種の計画内容が,地方分権改革推進委員会による『第一次勧告』*4を受けて,緩やかな「垂直波及」*5として改訂されるのか,または,法定移譲に向けた路線選択を図ろうとしているのか,未観察の状況にある.まずは,同県による今後の同計画内容が公表されることが楽しみ.要経過観察.
なお,同記事にもある「権限が強化されることで市町村への不当要求等が増えることが予想」との報道,「不当要求等」とは具体的にどのような意味なのだろうか.よく分からないが,興味深い指摘.

*1:和歌山県HP(総務部:総務管理局市町村課)「市町村への分権に関する計画策定に向けた取組状況

*2:松本英昭『新版逐条地方自治法第4次改訂版』(学陽書房,2007年)1168頁

新版 逐条地方自治法

新版 逐条地方自治法

*3:松井望「都道府県と市町村の協議と受容圏」『都市政策研究』第2号,2008年,123-124頁

*4:地方分権改革推進委員会第一次勧告 生活者の視点に立つ「地方政府」の確立』(2008年5月28日)23-27頁

*5:伊藤修一郎『自治体政策過程の動態』(慶応義塾大学出版会,2002年)45頁

自治体政策過程の動態―政策イノベーションと波及

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