大阪市は14日、昨年3月に閉館した文化交流施設「ふれあい港館」(住之江区)のワインミュージアムに眠っていた高級ワイン157本の一般競争入札を行った。市が60万円で購入したロマネ・コンティ(1921年)が、最高額の150万円で落札されるなど、155本が、市の購入額(555万円)の倍以上の総額1210万円で競り落とされた。

 会場には、市の購入額を参考価格として示したワインがずらりと並べられ、個人や法人、酒販事業者ら31者が、入札に参加した。市内の酒店経営者(42)は「参考価格は破格の安さで品質も良い」と満足げ。「この日を待ちわびていた」というワイン愛好家は、ビンテージワインを入念に品定めしていた。市民から「宝の持ち腐れ」と批判された、シャトー・ペトリュス(49年)は98万円、シャトー・マルゴー(1900年)は82万円と、いずれも購入額の倍額で落札され、市の担当者は安堵の表情。売却益は市の港営事業会計の収入となり、埋め立て事業に活用されるという。

同記事では,大阪市における「ふれあい港館」の休館に伴い,同館が所有していたワインの入札状況について紹介.同売却については,同市HPを参照*1
入札物品は,「112セット・全157本」.1994年購入段階の賞味期限のため,「「売払ワインリスト(法人又は満20歳以上の個人向け)」に掲載しているワイン」に関しては「品質表示があるもののうち,通常市場で売られている賞味期限の範囲内のもの」とあり,加えて,「古いワインのため,熟成がすすんでいる可能性もあり,飲用を保障するものではありません」とも,その歴史を表す「酒の老班」ともいえる澱への留意も示されている.入札物品のなかで,同市の購入当時の最高額は,「売払ワイン番号81」の「ロマネコンティ1921」の「602,706円」*2.2009年10月16日付の東京新聞による報道では,「恐らく二百万円ぐらい」*3との見立ても示されてはいたものの,結果的には,同記事にもあるように「150万円」.ただ,157本中155本が落札され,「市の購入額(555万円)の倍以上の総額1210万円」になったという.
「いずれにしても瓶につめられてレッテルを貼られるまではこの酒は生地にあったにちがいないし,それまでは豊作か不作かを問わず,これ以上ない保護を与えられていたものと思う.けれど冷暗で静謐な酒倉を出たときから,おそらく災厄がはじまったのではあるまいか.田舎から港へ.港から船へ.船で海をわたり,波止場に上陸し,そこから酒商人の倉庫へはこばれる.それからあと,その倉庫で眠りつつけたか,小売商の棚で眠りつづけたか,それとも誰かに買いとられてアパートかお屋敷かへはびこまれて,そこで眠りつづけたのか.あるいは,長旅でゆさぶられつづけて上下に傷つけられたり,左右に傷つけられたりしたのに,そこからまた転々と手から手へと旅をして今日ここにたどりついたのか.もともと感じやすくて,若いうちに美質を円熟させるようにと生まれつき,そのように育てられていたこの酒は,フランスの田舎の厚くて,深くて,冷暗な石室のすみでじっとよこたわったきりでいるしかないのに,旅をしすぎたのだ.それが過ちだったのだ.ゆさぶられ,かきたてられ,厚熟で蒸され,積みあげられ,照らされ,さらされ,放置されるうちに早老で衰退してしまったのではあるまいか.ヨーロッパの戦争をアメリカで避けることができたのはヨカッタケレド,旅がこの酒には暴力だったのではあるまいか.老いて衰退したというよりは凌辱されて二度と回復できないまま老いてしまったのではあるまいかと,想像される.早熟だけど肉がゆたかで,謙虚なのに目のすみにときどきいきいきとした奔放が輝くこともあった.爽快そして生一本であった娘は,旅をさせられるうちにあるとき崩れ,それからは緑いろの闇のなかでひたすら肉を落しつづけ,以後の旅はただゆさぶられるまま体をゆだねてきた」*4
V.S.O.P(very superior old pale)であるとともに,「政治的意見に関係なく古い(Vieux Sans Opinion Politique)」(165頁),1921年産の米寿を迎える「虚無に捧げる供物」(同頁)自体は,また「旅」をして,眠りつづけることになれども,歴史が積み重ねたその値は,決して「虚無」とはならない.なるほど.