47都道府県これマジ!?条例集 (幻冬舎新書)

47都道府県これマジ!?条例集 (幻冬舎新書)

下名の自治体行政の観察においては,自治体行政の「制度」への観察が始まりであり,その終着点でもあるとも考えている.そのため,各自治体HPに掲載されている「例規集」は,自治体行政観察の教科書の一冊でもあり,行政の形態と動態を考えるうえでの問題集ともなっている.
同書は,そのような各自治体がもつ「例規集」に対して,著者が「ひとつずつ確認」(13頁)した結果,「変化のない条例の海を泳ぎ続けているうちに,まれに,(良くも悪しくも)キラリと光る珍しいローカル・ルール」(14頁),「この国のあちこちで異彩を放ち,気骨のある豊穣な条例たち」,「ちょっと持ち味が強めのローカル・ルールを掻き集め,北海道から順」に「案内」(21頁)された一冊.まじめさにはいつもいささかのユーモアが含まれることが多いものの,そのユーモアな部分を,個別自治体の「ルール」の名称(一部文言も抜粋)と短評とともに紹介.
本書の題目を見て購入する方(下名も又然りでしたが)にとっては,純然たる「条例集」を想定して本書を開いてみると,その内容は必ずしも条例に限定されてはいない.本書でいう「ローカル・ルール」とは,本書の題目にもある「条例」(14頁)は勿論,「規則」「要綱・要領・規程」「決議・宣言」(20頁)と位置づけて,幅広く掲載されている.そのことが,本書に掲載されている「ルール」のユーモアの度合を助長しており,その多様性を寧ろ楽める.本書で,取り上げられている「ルール」には,舞鶴町の「美の条例」(78頁),矢祭町の「市町村合併をしない矢祭町宣言」(48頁),上勝町の「ごみゼロ宣言」(172〜173頁)等のメジャー級の「ルール」もある一方で,著者独自の観点から取りあげた「豊穣な」「ルール」や,また,上記の一部内容を紹介されている「ルール」(条例28本,規則1本,要綱2本,規程1本,宣言15本)のうち,茅野市の「パートナーシップのまちづくり基本条例」(104〜105頁)のように,題目だけを一見すると広く整備されていそうな「ルール」ではありながらも,その「前文」の切り出し方の独自性に魅了される「ルール」の紹介もあり,一つ一つの「ルール」が楽しい一冊.
また,上記の通り「ひとつずつ確認」(13頁)された著者であるからこその推論ともいえる,本書でいう「珍ルール」の「分布には,地域的な偏りが大きい」,そして,「東北地方を中心に,東日本で個性ある条例の濃度が高い」「一方で,四国や紀伊半島を中心として,西日本は比較的低調」(14頁)との分析は興味深く,そのため,「キラリと光る」「気骨ある」の基準として,その「観察可能な含意」*1を洗練することで,更なる推論も可能そう(下名,「制度」ではなく,その運用実態又は行政実態としては,西日本の自治体で興味深い取組が多いと日々観察しておりますが,この経験的観察結果との相異からも興味深い分析).
下名自身は,本書でいう「技術的な条例」(19頁)である「首長・議会・役所の組織関連」(同頁)の条例を,日々拝読し,その機微のような規定に惑溺し,「時間が経つのを忘れ,ときおり脳からアルファ波が出ているような感覚にすら襲わ」(13頁)た状態にあるものの,そろそろその「アルファ波」に満たされてばかりではなく,その感覚の具現化への作業をしなければ,と自省.

*1:G.キング, R.O.コヘイン, S.ヴァーバ, 『社会科学のリサーチ・デザイン』(勁草書房,2004年)22頁

社会科学のリサーチ・デザイン―定性的研究における科学的推論

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