赤松広隆農相は5日の記者会見で、国内林業活性化のため、学校や自治体の庁舎など公共建築での木材利用を促進する法案を通常国会で提出する方針を明らかにした。
 赤松氏は「罰則があるかどうかは別として(公共建築物での木材利用に)事実上縛りを掛けることになる」と説明。「10年後の国産材自給率50%以上」とする政府の目標達成を後押しする考えだ。赤松氏は「せっかく戦後、植林した良い木があっても、輸入材に頼っている。本当にそれで良いのか」と強調。「役場や学校で法的に造ってもらうようにすればよい。受け皿がないのに木を切り出しても成り立たない」として、主に低層の公共建築物を対象に、木材利用の受け皿とする考えを示した。
 赤松氏は「子どもたちがコンクリートの冷たいところではなく、木の暖かいところで育つのでは違う」とも述べた。

本記事では,農林水産省において,公共建築において木材利用を推進する法案を通常国会に提出する方針を紹介.本記事で紹介されている国産材自給率に関する目標設定に関しては,林野庁が2009年12月25日に取りまとめた『森林・林業再生プラン』を参照*1
同プランでは,「10年後の木材自給率50%以上」*2と定められており,「木材の確実な利用拡大」を目標として,「公共建築物などにおける木材利用の義務化や石炭火力発電所における石炭と木質燃料の混合利用に向けた枠組みについて関係省庁と連携しつつ検討」*3が検討課題として示されている.同プランを踏まえての農水相による記者会見を紹介する本記事.同会見の詳細は,同省HPを参照*4.法案名は,「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律案」(略称,「公共建築物木材利用促進法」)*5.「コンクリートから人へ」*6との「基本方針」は,「コンクリートから木材へ」という理解の可能性を有しそうな法案.2008年12月7日付の本備忘録にて項目立てを試みた,本備忘録における妄想的・断続的観察課題の「庁舎管理の行政学」の観点(本年も,断続的に,「庁舎」関連の報道も取りあげてみます.本記事の場合,「第1章:建築と維持のポリティク」でしょうか)からも,興味深い
2009年12月28日付の時事通信による配信記事では,「国の建築物への国産木材使用を関係省庁などに義務付ける新法を制定する方針」と報道されていた一方で,自治体に関しては「地域産木材の利用を増やすよう努力義務を課す方向で検討」*7と紹介されていた同方針.2009年1月7日付の本備忘録でも触れた,「できるだけ近くの山林で収穫され加工された木材」を「建築その他の用途に使おう」という「地産地消林業*8を推奨する取組との整理が可能と思いつつ,しかしながら実際には自治体の利用をどのように促す方策を採用されるのか,また,木造建築となると具体的にはどのような庁舎・校舎を同省(同庁)では想起されているのだろうと考えていたところでの,上記記事.
まず,後者の事項に関しては,同記者会見を拝読すると「僕らが言っているのは,じゃあ,役所はどうなんだと,学校はどうなんだと,みんな,学校だって,小学校や中学校は,そんな7階建て,8階建てのビルを建てるわけじゃないんで,ほとんどが,せいぜい2階,3階ぐらいで終わるわけですから,そういうところ,あるいは,役所でも,東京都庁はともかくとしても,小さな田舎に行けば,役場なんていうのは木造で十分できると思うし,そういうところを,やっぱり,むしろ,法的にそういうことを決めて,そして作ってもらうようにすればいいじゃないか」*9と会見.同会見からは,2から3階建の低層の庁舎等を同省(同庁)では想定されたうえでの,同法案が検討されている様子が窺える.ただ,同会見で言及されている「小さな田舎」が示す基準は,「東京都庁はともかくとしても」の「ともかく」に該当する例外規定の対象以外での,同法案における具体的かつ標準的な対象となる蓋然性もまた想定されなくもなく,実際には,どの程度規模等の自治体が想定されているのだろうか.
また,前者の事項に関しては,本記事でも紹介されているように,同法案では,「事実上縛り」の方針が想定されている模様.同方針に関して,同記者会見を拝読しみると,「今の法案ですけれども、要するに,公共施設に関しては,木材利用を、ある程度義務付けるということでよろしいのですか」という記者からの質問に対して,同相からは,「罰則があるかないかとか,そういうことは別として,公共建築物その他の建築物における木材の利用の促進に関する基本的な方針を明らかにして,ということで,事実上,そういうことで縛りをかけるということになると思います」*10と言及.
「縛り」を履行するための手法としては,罰則を有するStick*11ではないものの,「事実上」の「縛り」とのこと.同「縛り」,「縛り」への対応としては,実際に,今後各自治体における庁舎・学校の新築建設計画次第ではあるもの,仮に,実際に建築予定がある自治体には,庁舎等の設計への「義務・枠」化の可能性も想定されそうか.地方分権改革推進委員会の『第2次勧告』において示された,「義務付け・枠付けの存置を許容する場合等のメルクマール」の共有程度次第ではあるものの,同メルクマールからすれば,同「縛り」はいずれのメルクマールに該当すると理解することが適当なのだろうか(敢えて考えてみると,「酛 広域的な被害のまん延を防止するための事務であって,全国的に統一して定めることが必要とされる場合」*12でしょうか).今後の同法案の具体化に関しては,要経過確認.

*1:林野庁HP(報道発表資料平成21年12月分)「「森林・林業再生プラン」の作成について

*2:前掲注1・林野庁(森林・林業再生プラン)3頁

*3:前掲注1・林野庁(森林・林業再生プラン)6頁

*4:農林水産省HP(報道・広報大臣等記者会見)「赤松農林水産大臣記者会見概要(開催日時:平成22年1月5日)

*5:前掲注4・農林水産省(赤松農林水産大臣記者会見概要(開催日時:平成22年1月5日))

*6:首相官邸HP「第173回国会における鳩山内閣総理大臣所信表明演説」(平成21年10月26日)

*7:時事通信(2009年12月28日付)国産材使用、公共建築物で義務付け=森林整備へ新法制定−林野庁

*8:西尾隆「制度改革・地域再編下の日本の森林と林業」西尾隆編『分権・共生社会の森林ガバナンス』(風行社,2008年)78頁

分権・共生社会の森林ガバナンス―地産地消のすすめ (ICU21世紀COEシリーズ)

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*9:前掲注4・農林水産省(赤松農林水産大臣記者会見概要(開催日時:平成22年1月5日))

*10:前掲注4・農林水産省(赤松農林水産大臣記者会見概要(開催日時:平成22年1月5日))

*11:Marie-Louise Bemelmans-Videc, Ray C. Rist, Evert Vedung.(1999)Carrots, Sticks, and Sermons: Policy Instruments and Their Evaluation,Transaction Pub:250-257

Carrots, Sticks, and Sermons: Policy Instruments and Their Evaluation (Comparative Policy Analysis Series)

Carrots, Sticks, and Sermons: Policy Instruments and Their Evaluation (Comparative Policy Analysis Series)

*12:地方分権改革推進委員会HP(委員会の勧告・意見等)『第2次勧告 〜「地方政府」の確立に向けた地方の役割と自主性の拡大〜』(平成20年12月8日)』8頁