大阪府橋下徹知事と大阪市平松邦夫市長が22日朝、大阪市公館(都島区)で公開討論会を開き、橋下知事が来春の統一地方選の争点として掲げる府と市の再編について意見を戦わせた。平松市長は知事に「理想論だけでは何も進まない」と反論し、激しい論戦となった。討論の後、2人は互いの間の溝が深いことを認め、4月にも再び公開で議論することにした。
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 まずは平松市長が口火を切った。西成区のあいりん地域での失業者と生活保護受給者の増加に対する府の支援、府が政令指定都市にだけ教育や子育ての分野で補助金を払わない「差等補助」の解消など四つの要求を突きつけた。
 しかし、橋下知事はマイクを握ると、いきなり「大阪の起死回生のためには、府と市を解体して広域行政と基礎自治体(の仕事)を整理することだ」と、持論の府市再編を早口でまくし立てた。「広域行政体が権限、財源を持てば(差等補助などの)問題は起きない」と言い返した。
 知事の発言が終わると、今度は市長が反撃を始めた。「今できることをやりませんか。理想論だけ掲げても何も進まない」「知事の話に欠けているのは、歴史的経過や文化的土壌(への認識)。地域主権と言うからには、細分化でなく、今ある地域の力をどう生かすのかが大事だ」
 大阪市の人口が昼間は100万人以上増えることを引き合いに、知事が「大都市の税収は衛星都市から働きに来ている人が支えている。市の税収は市だけのものではない」と主張すると、市長は「そんなことは一言も言っていない」と気色ばんだ。
 午前8時に始まった討論は予定の1時間を過ぎても収まらない。「指揮官(広域行政の責任者)が1人になったら(府市の懸案の)淀川左岸線の道路延伸はすぐやるのか。3千億円ですよ」と問う市長に、「やりますよ」と知事は叫んだ。市長がやおら立ち上がり、市の24区の区割りを描いた白地図をかざして「知事はどう分けたいのか」と、大阪市特別区に分割する知事の考え方を説明するよう迫ると、知事は「これからの話ですから」とかわした。
 「どっちが正しいか、市長選や知事選で府民に問いましょう」と語る知事に、市長も「上から大阪市を切り刻む議論は違う」と応戦。「時間です」と止めようとする職員の声も聞かず議論を続けた。
 討論の後、2人はそろって記者団の前に立った。市長は「こんな溝があるということがわかった」と述べ、知事も「視点が違うとはっきりわかった」と溝を認めた。ただ、この場で知事が再編の具体像を示した後の4月にも再び議論することには双方が合意。「まず広域行政体、基礎自治体の仕事の整理が先」と、互いの役割の仕分けを知事が提案すると、市長も「やりましょう」と応じた。

本記事では,大阪市長大阪府知事との意見交換会の様子を紹介.同会の開催に関しては,同市HPを参照*1.「一般の方の傍聴はでき」ないなかでの,「対面的かかわり」*2的な公開意見交換.2010年「2月22日」の「午前8:00〜9:00」*3予定で開催されたものの,2010年2月22日付の読売新聞による報道にもあるように「当初予定の2倍近い約2時間」「議論」*4された模様.
道府県の観点からは,政令指定都市制度を中心に,以下のような見解*5も示されることもあり,2010年2月12日付の産経新聞において「府市合わせは不幸せ?」*6と評される大阪市大阪府間における事務配分を端緒とした,自治制度のあり方を巡る議論.

「非常にやりにくいでしょう,知事さんとしては.ああいう制度(政令指定都市)というのは,基本的にこれから見直されてくるんじゃないのかしら.特に,隣の神奈川県なんて,川崎と横浜があって,今度相模原までが政令指定都市となると,知事の権限一体どういうふうにどこに及ぶかということになったら,なかなか大変だと思います.幸いにして,東京は,23区という特別区の制度で,そういうことなく済んでますけど.もし,23区が独立するようなことになったら,政令指定都市の資格持っている,人口の上で.そういう都市がたくさんできてきちゃうんで,これ,また,ゆゆしき問題だけど.その兆候はありませんが.
大阪,なかなか大変だと思うんです.とにかく,日本の両輪であるべき大阪という,大阪圏が,行政の力が存分に発揮し切れない,知事と首相の比較をするつもりは毛頭ないけども,役人出身じゃないんで,橋下さんみたいな、非常にプロミネントな(卓越した),行動力のある政治家が出てきても,いろんなバリア(障壁)が行政区分であって,大変だなと思います.はい」

同見解内にもあるように,2010年2月15日に開催された第2回地方行財政検討会議*7において新たに設置された第一分科会では,4つの検討項目を審議予定とされ,そのうち,「1.自治体の基本構造のあり方」の内には,「基礎自治体の区分の見直し・大都市制度のあり方」もまた検討項目と位置付けられている(他の項目の中との審議における比重は,どの程度置かれるのだろうか).
「同じく大都市といっても方向性が反対」*8とも整理されることもある政令指定都市制度と都区制度.ただ,大阪市大阪府の「合わせ」を通じて,2010年2月22日付の共同通信による配信記事では,「府と市の業務を見直して基礎自治体,広域行政体がそれぞれ担うべき仕事を仕分けする作業を府市ですることで合意」*9とも報道されているように,恐らくはその到着点としては,「仕分け」を通じた大阪市大阪府間での「事務配分」の「分離型」*10への指向性には一定の共通性を見出せそうではあるものの,その具体的な形態に関しては,既存の自治制度を踏まえた再編・一元化又は連携の何れかに至るか,または,「基本的にこれから見直されてくる」なかでの制度選択に至るかは,要経過確認.

*1:大阪市HP(報道発表資料一覧政策企画室報道発表資料(2010年2月))「大阪府知事と大阪市長との意見交換会を開催します

*2:アーヴィン・ゴッフマン『集りの構造』(誠信書房,1980年)99頁

集まりの構造―新しい日常行動論を求めて (ゴッフマンの社会学 4)

集まりの構造―新しい日常行動論を求めて (ゴッフマンの社会学 4)

*3:前掲注1・大阪市(政策企画室)

*4:読売新聞(2010年2月22日付)「橋下知事vs平松市長、予定の2倍2時間激論

*5:東京都HP(知事の部屋石原知事記者会見:過去放送分:平成22年)「石原知事定例記者会見録平成22(2010)年2月5日(金)

*6:産経新聞(2010年2月12日付)「府市合わせは不幸せ?橋下知事に市長逆襲「大都市圏州めざす」

*7:総務省HP(組織案内研究会等地方行財政検討会議第2回(開催日平成22年2月15日))「資料2地方行財政検討会議の分科会について(案)

*8:真渕勝『行政学案内』(慈学社,2009年)127頁

行政学案内

行政学案内

*9:共同通信(2010年2月22日付)「橋下大阪知事と視点の違い鮮明に 平松市長、仕分けは合意

*10:村松岐夫『日本の行政』(中央公論新社,1994年)184頁

日本の行政―活動型官僚制の変貌 (中公新書)

日本の行政―活動型官僚制の変貌 (中公新書)