何人もサルに餌を与えてはならない――。奥日光で野生サルが観光客にかみついたり、土産物店を荒らしたりする被害が相次いだのを受け、2000年4月に施行された日光市の「サル餌付け禁止条例」。10年が経過して餌を与える人はほとんど見られなくなり、サルによる人への危害も大幅に減り、条例の効果が出ている。ただ、土産物店での被害は続いており、サルとの戦いの終わりは見えていない。(阿部優樹)
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 「時々サルが出てくるけれど、餌付けする観光客はいないね。条例の効果かな」
 華厳の滝の近くで土産物店を営む植栗英雄さん(69)によると、観光客のマナーは随分と向上したという。奥日光でサルの被害が出始めたのは1980年頃。いろは坂などに出没したサルに観光客らが餌付けをし始めたことで、次第に人を恐れなくなり、餌を奪おうと女性や子どもにかみつくなどの被害が相次ぐようになった。このため「餌付けを絶つしかない」と市は、全国で初の餌付け禁止条例を制定。罰則はないものの、注意に従わないなど悪質なケースでは氏名を公表するというものだ。
 いろは坂華厳の滝周辺を中心に、条例を周知する看板を十数か所に立てたほか、餌付けをしないように観光客を注意したり、エアガンでサルを威嚇したりするパトロールを実施。市農林課によると、現在は餌付けをする観光客はほとんどなく、一時は年間40件以上もあった人への危害も、近年は0件もしくは1件と大幅に減っている。施行後、餌付けで氏名を公表したケースもなく、市農林課は「条例の効果は大きい」と話す。宇都宮大農学部小金沢正昭教授は、農作物への被害増大などを受けてサルの捕獲を進めた効果もあるとみている。00年に16群600〜800匹いた市内のサルは、9群360〜450匹に減少し、いろは坂華厳の滝周辺もサルの数は減っているという。
 だが、華厳の滝中禅寺湖周辺の土産物店では、サルに菓子や漬物などが取られる被害が続いている。「サルは頭が良く、一度味をしめるとなかなかやめない」(小金沢教授)といい、各店は、ガラス戸を重いものにしたり、観光客に引き戸を閉めるよう呼び掛けたりしている。ある土産物店の経営者(58)は「ずっと付き合っていかないとダメなのかな」とあきらめ顔だ。小金沢教授は「サルの被害を減らすには、駆除とねばり強い対策が必要」とした上で、「施行から10年もすれば条例が市民に忘れられてしまう恐れがある。再度PRする必要がある」と話している。

本記事では,日光市における「サル餌付け禁止条例」施行,10年後の現状を紹介.
2000年4月に「制定」*1された同条例の執行状況ともいえる報道.同条例の「実効性確保」*2を考える際に,非常に参考となる,有益な報道.同条例に関しては,同市HPを参照*3
同条例では,第2条において「この条例において「サル」とは」,「所有者又は管理者のないニホンザル」と定義.同条例第3条では「何人も,サルに餌を与えてはならない」(「行政機関がサルの保護管理を目的として餌付けを行う場合」及び「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律第9条に規定する学術研究,鳥獣による被害の防止又は特定鳥獣の数の調整を目的として餌付けを行う場合」は除く)として,これに「違反」し,「その行為が特に悪質であると認められる者」は,市長は「その氏名等を公表することができる」(第4条)とある.小田原市の「小田原市市税の滞納に対する特別措置に関する条例」*4と同様に「氏名公表」の整備を通じた実効性確保が想定されている(なお,附則2において「当分の間,合併前の日光市の区域に限り適用」と区域指定があり,同一市内に属する「サル」の皆さんにより,適用区域間での「足による投票」*5の行動も想起されそう).
本記事では本条例「施行後,餌付けで氏名を公表したケースもなく」とも紹介.やはり,「公表すること自体が目的ではなく」*6,「行政上の誘導」*7が目的となり,その効果もまた観察できるとも整理ができそうか.興味深い.
本年度の2010年4月から施行された箕面市における「箕面市サル餌やり禁止条例」*8では,制定に先立ち実施された「パブリックコメント手続」*9時の資料として,先行して制定された「野生サル餌付け禁止条例」として,「福島市サル餌付け禁止条例」の他,「みなかみ町猿の餌付け禁止条例」,「福島市サル餌付け禁止条例」に関しても紹介.同資料からは,「みなかみ町猿の餌付け禁止条例」では「1万円以下の過料」,「福島市サル餌付け禁止条例」では,「日光市サル餌付け禁止条例」と同様に「氏名の公表」が規定.箕面市では「一万円以下の過料に処する」(同条例第9条*10)ことを規定.過料がもつ「誘因政策」*11の効果もまた,要確認.

*1:日光市HP(市の紹介旧5市町村の歴史年表旧日光市の歴史年表)「旧日光市の歴史年表 昭和・平成(1926年〜2006年)

*2:北村喜宜「行政罰・強制金」磯部力・小早川光郎・芝池義一『行政法の新構想Ⅱ』(有斐閣,2008年)139頁

行政法の新構想〈2〉行政作用・行政手続・行政情報法

行政法の新構想〈2〉行政作用・行政手続・行政情報法

*3:日光市HP「日光市サル餌付け禁止条例

*4:小田原市HP(納税)「小田原市市税の滞納に対する特別措置に関する条例

*5:畑農鋭矢・林正義・吉田浩『財政学をつかむ』(有斐閣,2008年)170頁

財政学をつかむ (テキストブックス「つかむ」)

財政学をつかむ (テキストブックス「つかむ」)

*6:鈴木潔『強制する法務・争う法務』(第一法規,2009年)158頁

行政上の義務履行確保と訴訟法務「強制する法務・争う法務」

行政上の義務履行確保と訴訟法務「強制する法務・争う法務」

*7:中原茂樹「行政上の誘導」磯部力・小早川光郎・芝池義一『行政法の新構想Ⅱ』(有斐閣,2008年)203頁

行政法の新構想〈2〉行政作用・行政手続・行政情報法

行政法の新構想〈2〉行政作用・行政手続・行政情報法

*8:箕面市HP(くらし文化文化財天然記念物「箕面山サル生息地」のニホンザルについて)「箕面市サル餌やり禁止条例(素案)」に対するパブリックコメント(平成21年6月)

*9:箕面市HP(市政箕面市へのご意見パブリックコメントこれまでに実施したパブリックコメント手続箕面市サル餌やり禁止条例(素案)」に対する市民意見募集(パブリックコメント)の結果「箕面市サル餌やり禁止条例(素案)」に対する市民意見募集(パブリックコメント))「箕面市サル餌やり禁止条例制定について

*10:箕面市HP「箕面市サル餌えさやり禁止条例」(平成二十一年九月三十日,条例第五十号)

*11:H.A.サイモン,V.A.トンプソン, D.W.スミスバーグ『組織と管理の基礎理論』(ダイヤモンド社,1977年)429頁

組織と管理の基礎理論 (1977年)

組織と管理の基礎理論 (1977年)