福岡市の原始から現代までの歴史を初めて体系的に「新修 福岡市史」として編さん中の同市は、第1回分を刊行した。初回分は、中世の古文書をまとめた第15巻と、今の福岡市民らの暮らしぶりをまとめた第29巻の計2冊。市は2024年までに、4編全35巻を刊行する方針で、「対外交流拠点として多彩で豊かな福岡市の歴史を市民の財産とし、次世代に伝えていきたい」としている。
 市は1997年度までに、明治22(1889)年−平成元(1989)年までの100年間の市役所の歩みを行政史として、福岡市史全19巻にまとめ刊行した。しかし、研究者らから「総合的な市史も必要」との声が上がったことを受け、「新修 福岡市史」の編さんを決定。
 2004年度に市史編さん室を立ち上げ、大学教授を中心とした約100人の編集委員会(委員長・有馬学九州大学名誉教授)を組織して、資料収集と編集・執筆の作業を続けている。「新修 福岡市史」は、通史編(9巻)▽資料編(16巻)▽民俗編(3巻)▽特別編(7巻)−で構成し、考古から近現代までを網羅。
 初回刊行のうち第15巻は、約2400点の古文書をまとめ収録した資料編「中世1 市内所在文書」(A5判・1350ページ、5千円)。第29巻は、現在の福岡市民や福岡市に縁のある人々の計156人について、日々の営みを写真と聞き書きで描いた特別編「福の民−暮らしのなかに技がある」(A4判・330ページ、1800円)。15巻は1千部、29巻は1500部作製した。同市博物館や同市役所1階の市情報プラザなどで販売している。
 10月9日午後1時半から、福岡市早良区の早良市民センターで西谷正・九州歴史資料館長と井上一・ブルックスタジオ代表による刊行記念講演会もある。入場無料。市史編さん室=092(845)5245。

本記事では,福岡市における市史の編纂を踏まえた,第1回目の刊行が行われたことを紹介.同編纂の取組に関しては,同市HPを参照*1
「政治,経済,社会,文化,風俗,習慣,自然,環境などあらゆる分野を対象とし,地域・市民の視点に立っ」た内容として,「平成16年度より『新修 福岡市史』」として編纂が開始されており,「平成21年度から35年度」の間で刊行が予定される同市史編さんのプロジェクト.本記事を拝読すると,「特定の人物の出会いや人生経験が,いかに一つの状況から離れて他の状況へ移っていくための制度設計の原則を作り出してきたか,そしてその原則が新しい状況の中へいかに融合していったのか,を辿る」ことがその特性とも解される「行政史」*2に関しては,既に「1997年度まで」に刊行済みとなり,今回の編纂は,「現在の福岡市域を基本的な対象地域」とされ「原始から現代(2000年)まで」の同「市の歴史を日本国内にとどまらず国外,特にアジアとの関わりに重点を置いて明らかに」*3されるという雄大な取組となる模様.興味深い.
下名が,いわゆる自治業界に足を踏み入れさせて頂いた「平成11年度」に,「京都市行政の歩みを明らかにすることを目的」として「京都市政史編さん」が開始されたとの報道を拝読し,是非とも手に入れたいと思いつつも,最終巻の刊行が「平成27年3月」*4と知り,その超長期の刊行計画に驚きを覚えた記憶がある.もちろん,「歴史家は,常識にしたがって行為や出来事の多元的複合的因果関係の中から最も関心のある数少ない因果関係を選択抽出し,それを軸として因果関係を単純化する.歴史は,単純化した筋書に沿って叙述される」*5ものの,歴史を描くこと自体には,また歴史が必要となるということなのだろう.刊行が楽しみ(下名個人の関心からは,「近現代専門部会」において「近現代専門部会は従来にないユニークな自治体史の編集をめざしています」*6との紹介されており,その「ユニーク」さとは,どのような内容か,興味津津).

*1:福岡市HP(生活情報文化・スポーツ・生涯学習:文化:文化財・歴史)「福岡市史

*2:クリストファー・フッド『行政活動の理論』(岩波書店,2000年)176頁

行政活動の理論 (岩波テキストブックス)

行政活動の理論 (岩波テキストブックス)

*3:福岡市HP(生活情報文化・スポーツ・生涯学習:文化:文化財・歴史福岡市史)「基本計画(全文)

*4:京都市HP(市の組織行財政局各課の窓口歴史資料館)「京都市政史編さん

*5:升味準之輔『なぜ歴史が書けるのか』(千倉書房,2008年)69頁

なぜ歴史が書けるか

なぜ歴史が書けるか

*6:福岡市HP(生活情報文化・スポーツ・生涯学習:文化:文化財・歴史福岡市史)「各部会紹介近現代専門部会