佐賀県が推進する事業の民間委託について初の行政監査を行った県監査委員が、監査対象事業の約7割について改善を指摘した。業務の内容把握や経費の積算が不十分で、受託団体に過度の負担を強いているケースもあり、「協働とは名ばかりで県からの安い下請けと思われる」という文言もあった。質の高い公共サービス提供を掲げて民間委託を進める県にとって、厳しい監査結果となった。
 2008年度に県が社会福祉法人NPO法人などに委託した1010件、計19億2470万円の事業のうち、129件、約9億3800万円分を監査。全体の68%にあたる88件で契約事務など何らかの問題点を指摘した。社会福祉法人に委託した障害者の療育指導事業では、前年実績から依託額は上限額の385万円だったが、指導件数が予定を25%上回り実績額は450万円に上った。監査は「予算不足を理由に過去の事業量で積算し、受託者に過度の負担をさせた」と、件数に応じた契約を求めた。
 担当課は「予算は限られているので一定の線引きはせざるを得ない」と説明。社会福祉法人は「来た人にサービスを提供しないわけにはいかない。不足分はほかの事業でカバーした」としている。また人件費を算出する際、業務内容は職員や嘱託レベルなのに「予算が厳しい」「非営利団体だから」と、アルバイト同様の額で算定した例もあった。監査委員事務局は「県民協働が進む一方で財政事情から予算が削減される事業もあり、従来通りのやり方ではひずみが出ている面もある」とみてる。監査を受け、県会計課は受託者に過剰な負担をかけることがないよう各課に通知を出した。

本記事では,佐賀県の監査委員において行われた行政監査の結果を紹介.同監査結果に関しては,同県HPを参照*1
同報告書では,同県による「非営利団体への委託事業の内容と積算が妥当か,適切な報告書となっているか,成果品の確認検査が適切になされているか,その委託事業が効果を十分に発揮しているか」という観点から「検証」と,「今後の非営利団体への委託事業の改善に資することを目的」により,「本庁84課」の「357件」と「現地機関135所属」の「653件」*2に対して,同県監査委員が行った行政監査の結果.「本庁契約の相手方である非営利団体」において,同監査では,「公益法人132件」,「社会福祉法人20件」,「特定非営利活動法人」「45件」,「任意団体70件」,「その他法人90件」の計「357件」を「監査対象機関」として「選定」し,「予め各所管課から提出された関係書類に基づいて事務監査」の実施後,「事務監査において監査指摘のある事業の中から.25事業について委員監査」を行い,「併せて関係課として出納局会計課に対して委任契約(お願い委託)について確認調査」*3が実施されたことを,同報告書に記録されている.同調査結果からは,本記事でも一部紹介されているものの,「請負と委任(お願い委託)の違いなど,契約事務の理解が不十分なもの」,「契約に際し,仕様書等の作成が不十分なもの」,「県との協働事業が増加する中で,協働とは名ばかりで県からの安い下請けと思われるもの」,「委託事業の対価が,十分に確保されていないもの」,「契約額の上限額を定めることで,事業費の負担を相手に求めているなど,受託者に過重な負担を強いているもの」,「実績確認,事業効果の把握が不十分なもの」*4がある,との指摘がなされている.
「行政監査」では,「財務監査の枠内ではあるので,合規性・正確性や効率性・能率性などが監査観点」とされ「それ以外の基準を排除するものではない」*5ともされる.本調査結果においても,「県との協働事業が増加する中で,協働とは名ばかりで県からの安い下請けと思われるもの」*6との同監査結果は,仮に,あくまで県側の観点からすれば,「効率性」に基づく行為としても整理されなくもない.いかなる監査観点に依拠する指摘と理解することが適当なのだろうか.例えば,「協働したとしてもなお行政に残される責任」「協働により新たに生じる行政の責任を問う作業」*7といった,「問責/答責関係」*8)という,問責性に基づく監査結果と整理することが適当か.または,「協働」においてしばし教導される「対等」*9性に基づく監査結果と考えることが適当か.興味深い.

*1:佐賀県HP(県政の運営県庁の運営佐賀県の監査制度行政監査報告書)「行政監査報告書平成21年度(非営利団体への委託のあり方について)」(佐賀県監査委員)(同県HPを拝読しますと,「平成22年9月10日」が同報告書の「公表日」として記載されておりますが,同記事では,公表後の「各課に通知」を出された点を報道されたことに特徴があるのでしょうか) )

*2:前掲注1・佐賀県(行政監査報告書平成21年度)1頁

*3:前掲注1・佐賀県(行政監査報告書平成21年度)2頁

*4:前掲注1・佐賀県(行政監査報告書平成21年度)2頁

*5:金井利之『実践自治行政学』(第一法規,2010年)257頁

*6:前掲注1・佐賀県(行政監査報告書平成21年度)2頁

*7:原島良成「市民協働の政策法務」『Jurist』No.1401.2010・7・15,96頁

Jurist (ジュリスト) 2010年 7/15号 [雑誌]

Jurist (ジュリスト) 2010年 7/15号 [雑誌]

*8:金井利之「自治体経営」特別区人事・厚生事務組合,特別区職員研修所編『特別区職員ハンドブック2004』(2004年)21頁

*9:稲生信男『協働の行政学』(勁草書房,2010年)48頁

協働の行政学―公共領域の組織過程論

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