全国の児童相談所に二〇一〇年度に寄せられた児童虐待の相談件数は五万五千百五十二件(速報値)で、初めて五万件を超え過去最多となったことが二十日、厚生労働省のまとめで分かった。 
 今回の速報値は、東日本大震災で集計ができなかった宮城県福島県仙台市を除いている。同様に三自治体を除いた〇九年度の数値と比較すると、一〇年度は一万二千九十件(28・1%)増。〇九年度(3・6%)を大幅に上回り、〇四年度(25・7%)以来の大幅増となった。一九九〇年度(千百一件)の集計開始から二十年連続の増加。厚労省は「大阪市で二幼児が死亡した事件などが大きく報じられ、疑いがある場合は児童相談所に連絡しようという意識が高まったためではないか」と分析している。自治体別で増加率が高かったのは愛知県(78%増)、栃木県(67%)、大分県(66%)など。
 長期間子どもの姿が確認できない場合、保護者に出頭を求めることができる制度が〇八年四月から始まり、一〇年度は五十例、対象児童は延べ七十二人(〇九年度は二十一例、二十五人)。応じなかったため再び出頭要求したのは六例、七人(同二例、二人)といずれも増えた。それでも確認できず、裁判所の許可に基づき家庭に強制的な立ち入りをしたのも二例、二人(同一例、一人)と増加。児童が登校せず出頭要求したが応じなかったケースでは、合鍵業者を呼んで鍵を開けると、保護者が自分でチェーンを外し、相談所員が児童を保護。また学校の入学手続きをしないためネグレクト(養育放棄)と判断した例では、鍵を開けようとしたところ、保護者が自主的にドアを開けた。

本記事では,全国の児童相談所における児童虐待相談に関する対応件数を紹介.同件数に関しては,厚生労働省のHPを参照*1
本記事にて紹介されているように,「宮城県福島県仙台市を除いて集計した」場合でも「平成22年度」は「55,152件」と前年度から「12,090」件が増加し「128.08%」の「増減率」*2にあり,過去20年間でももっと高い件数となっている.全国で児童相談所を設置している69の「都道府県・指定都市・児童相談所設置市」別での集計結果も拝読させて頂くと,一方, 新潟県鳥取県島根県山口県高知県沖縄県,そして,札幌市と広島市では,「対前年度」からは「減」*3にあるものの,他の61都道府県・政令指定都市児童相談所では増との結果.そして,本記事でも紹介されているように「増減率」のみに着目すれば,愛知県の1.78, 栃木県の1.67,大分県の1.66が最も高い増加率にある.
同省では同調査結果にあわせて,「社会保障審議会」に設置された「児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」が実施している,「平成21年4月1日から平成22年3月31日までの12か月間に発生」し「明らかになった児童虐待による死亡」「77事例(88人)を対象」とした,「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について」*4も公表.「虐待死」が47件,49名,「心中(未遂を含む)」が30件,39名*5とも分析.同審議会の同専門委員会では,これらの現状に対して,「地方公共団体」と「国」に対して幾つかの事項を提案.例えば,「地方公共団体」に対しては「虐待の早期発見とその後の対応」として,「児童相談所の職員の質の確保と虐待対応の中心的機関としての体制整備」「養育機関・教育機関等に所属していない家庭の孤立防止と,相談や支援につながる体制の整備」,そして「要保護児童対策地域協議会(子どもを守る地域ネットワーク)を活用した関係機関の連携の推進」として,同協議会の「活用促進と調整機関のマネジメント機能の強化」*6がある.
つまり,「他機関との連携する“場”を制度的につくる」ことで「情報の共有や意思疎通を図ろう」とする「巻き込み型」と,「他機関とのコネクションを保有している職員を児童相談業務に従事」することで「連携を容易にしようとする」「取り込み型」*7といった双方の制度的配置に言及.ではどのように,この二つのネットワークの仕組みを整備し,持続的な運営を維持することで,児童虐待という現象の「早期発見」に結びつくことができるのかは,悩ましい課題.

*1:厚生労働省HP(報道・広報報道発表資2011年7月子ども虐待による死亡事例等の検証結果(第7次報告概要)及び児童虐待相談対応件数等)「別添2児童相談所における児童虐待相談対応件数

*2:前掲注1・厚生労働省(別添2児童相談所における児童虐待相談対応件数)1頁

*3:前掲注1・厚生労働省(別添2児童相談所における児童虐待相談対応件数)2頁

*4:厚生労働省HP(報道・広報報道発表資2011年7月子ども虐待による死亡事例等の検証結果(第7次報告概要)及び児童虐待相談対応件数等)「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第7次報告)の概要

*5:前掲注4・厚生労働省(子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第7次報告)の概要)2頁

*6:前掲注4・厚生労働省(子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第7次報告)の概要)3頁

*7:手塚洋輔「児童相談行政における関係機関とのネットワーク構築」『児童相談行政における業務と専門性』(財団法人日本都市センター,2011年)30頁

日本都市センターブックレットNo.25 児童相談行政における業務と専門性―みんなで支える子どもと命―

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