昨夏、和歌山市で父親が当時2歳の男児を虐待死させた事件を教訓に、県は児童虐待予防に力を入れる。子どもに市町村の乳幼児健診を受けさせない、保健師らの家庭訪問を受けないなど、虐待リスクが高いとされる親には研修を受けてもらうように促す。都道府県が乳幼児健診事業や訪問事業と連携し、全県的に防止策を講じるのは全国初という。
 虐待の可能性が感じられる親を対象にした研修は、県が虐待経験がある親を対象に実施している「親支援プログラム」を活用する。子育ての悩みや不安などを話し合ったり講義を聞いたりして、子どもの行動や心理、虐待の防止、子育て技術などについて研修する内容。計5回で構成されており、再発防止などの効果が確認されている。市町村が実施する乳幼児健診を子どもに受けさせない親や「乳児家庭全戸訪問(こんにちは赤ちゃん事業)」を受け入れない親に、理由などを聞いた上で、この研修に参加を呼び掛けていく。
 乳幼児健診は、市町村が1歳半健診と3歳児健診の2回以上実施している。県内での受診率はいずれも95%程度。厚生労働省の調べでは、虐待した保護者の多くが、子どもに健診を受けさせていなかったことが分かっているという。訪問事業は国による虐待防止や育児不安軽減策として始まった。市町村の保健師や保育士らが生後4か月までの乳児がいる全家庭を訪問し、不安や悩みを聞いたり、子育て支援情報を伝えたりする。
■支援専門家を養成 市町村の対応力強化
 さらに県は、県児童相談所が重大案件に集中して対応できるよう、市町村の対応力を強化する。市町村の保健師や保育士を対象に家庭支援の専門家を20人養成する。県児相への2012年度新規児童虐待相談件数は718件で、統計開始の1990年度以来、ここ3年連続過去最多を更新。社会的関心の高まりなどで、160件だった2000年度と比べると4・5倍に増えた。虐待通報には、市町村が窓口となって対応し、保護などの措置が必要な重大案件の場合は県が対応することになっている。しかし、実際は市町村が解決すべき案件も多く県に上げられているのが現状という。さらに、市町村の保健師助産師、保育士を対象に妊娠、出産、育児の支援をする専門家80人も養成し、地域の子育て力を向上させる。県子ども未来課の岡本勝年課長は「これまでは子どもの保護や再発防止など、虐待発生後の対応が主だったが、発生を防ぐことに力点を置く。リスクが高い家庭を支援するともに、支援する側の人材も強化し、円滑に対応できるようにしたい」と話している。

本記事では,和歌山県における児童虐待予防の取組を紹介.
2008年7月に制定した「和歌山県子どもを虐待から守る条例」の第12条では「虐待を未然に防止するために,市町村および関係機関等と連携して子育てに関する支援を行うよう努める*1と規定.本記事では「虐待リスクが高いとされる親には研修を受けてもらうように促す」方針を紹介.「子どもことが最優先(Child First)」*2による多機関の連携の取組状況は,要確認.

*1:和歌山県HP(組織から探す子ども未来課子ども虐待防止対策)「和歌山県子どもを虐待から守る条例」(平成20年7月4日公布,和歌山県条例第43号)

*2: 高岡昂太『子ども虐待へのアウトリーチ』(東京大学出版会,2013年)368頁