高齢者を見守る民生委員の活動に役立ててもらおうと、横浜市は計九区の一部地域で今秋から、七十五歳以上の独り暮らしの高齢者の名簿を民生委員に提供する。名簿は高齢者の同意を得ず、住民票を基に作る。対象は約一万人を想定し今後、全区に広げたい考え。市の担当者は「災害時にも役立つのでは」と説明する。(荒井六貴)
 市健康福祉局によると、個人情報保護法などで、市が、民生委員や町内会に高齢者名簿を提供しなくなり、民生委員から「独り暮らしの高齢者が、どこに住んでいるのか分からない」などの声が上がり、活動に支障が出るとしていた。市の条例で、個人情報の目的外利用は禁じられているが、民生委員への提供は、例外規定の「公益上特に必要があるとき」にあたるとして、有識者の判断も踏まえ、実施することを決めた。
 名簿は、民生委員に渡し、訪問を受けるかどうかは、対象の高齢者に確認する。同意が得られれば、町内会などにも情報を伝えていくという。まずは鶴見、港南、戸塚、金沢などの九区の一部で開始。効果を検証した上で、来年度から全区で実施していきたいとしている。対象は約十一万人に上ると見込む。市の担当者は「地域の人が、独り暮らしの高齢者のことを知っていれば、災害時に一緒に避難することもできる」と指摘している。

本記事では,横浜市における民生委員への情報提供の取組を紹介.
「社会との役割を果たすこともしばしばである」*1民生委員.ただ,「情報共有に基づく協働への妨げ」*2とも解されることもある「個人情報保護法の全面施行後」には,「個人情報保護法の趣旨に対する誤解やプライバシー意識の高まりを受けて」「必要とされる個人情報が提供されない」ことで「個人情報を保護する側面が強調され有益な活用が行われない」「いわゆる「過剰反応」」*3も観察されている.
内閣府が2008年2月に実施された「都道府県」への郵送質問紙調査(回収率100%)では,「個人情報保護条例制定時の「過剰反応」の有無」に関しては「約77%の都道府県で「見られなかった」*4との認識が示されている.本記事を拝読すると,市町村レベルでの現状認識との間ではそのギャップも窺えそう.そのためか,都道府県レベルでの「「過剰反応」の解消に向けた取組」としては,例えば,「都道府県職員向け説明会・研修の実施」,「一般住民向け説明会の実施」,「事業者向け説明会の実施」,「市町村職員向けの説明会・研修の実施」*5という主に,啓発的な「地道」*6な取組が採用されている.
方や,同調査では,都道府県による「市町村における「過剰反応」の状況」も把握されている.その結果では「把握していない都道府県は約87%」*7の状況にもあり,あくまで同調査の実施時点では,市町村レベルの現状認識とのギャップはもとより,元来,現状に関する情報共有に至っていなかった様子も窺える.個人情報保護に関しても,場合よっては「市町村から見て都道府県の政策採用」は「不確実性を低下させない」*8ことも考えられないものの,都道府県の取組を通じて「政策採用のコストとリスクを引き下げ,政策のタイムリーな導入」*9を図ることも考えられそうか.

*1:西垣千春『老後の生活破綻』(中央公論新社,2011年)158頁

老後の生活破綻 - 身近に潜むリスクと解決策 (中公新書)

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*2:藤原静雄「情報共有の政策法務」北村喜宣・山口道昭・出石稔・礒崎初仁『自治政策法務』(有斐閣,2011年)498頁

自治体政策法務 -- 地域特性に適合した法環境の創造

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*3:内閣府HP(消費行政・食品安全の総合窓口消費者庁個人情報の保護)「個人情報保護に関するいわゆる「過剰反応」への対応に係る調査報告書(平成19年度)」(内閣府,平成20年3月)1頁

*4:前傾注2・内閣府(個人情報保護に関するいわゆる「過剰反応」への対応に係る調査報告書(平成19年度)135頁

*5:前傾注3・内閣府(個人情報保護に関するいわゆる「過剰反応」への対応に係る調査報告書(平成19年度)140頁

*6:前傾注2・藤原静雄2011年:499頁

*7:前傾注3・内閣府(個人情報保護に関するいわゆる「過剰反応」への対応に係る調査報告書(平成19年度)145頁

*8:伊藤修一郎『自治体発の政策革新』(木鐸社,2006年)209頁

自治体発の政策革新―景観条例から景観法へ

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*9:前傾注8・伊藤修一郎2006年:209頁