大阪府内の自治体が、民間機関とタッグを組み、児童虐待の対応強化に乗り出している。大阪市が、個別ケースの会議に経験豊富な民間の専門家を招く異例の取り組みを始めたほか、府も市町村に専門家や児童相談所OBらを派遣している。児童福祉法改正で、2005年度から虐待の相談窓口が市区町村にも広がったが、専門職員の不足など課題も多く、見極めを誤って深刻な事態に陥るケースを防ぐのが狙い。厚生労働省も「自治体の体制はまだ十分に整っているとは言えず、民間の力も活用しながら地域全体で対応してほしい」と注目している。
 大阪市は、虐待の通報を受けた場合、保健所や警察、学校などでつくる連携機関「要保護児童対策地域協議会」でケース会議や事例検討会を開き、今後の援助方針や支援計画などを立てる。昨年度は約800回開催されたが、専門知識の不足などから方針決定や計画立案の際、担当者が不安を抱く場合もあったという。このため、市は7月、虐待対応の経験が豊富な児童福祉司や児童心理司、弁護士らでつくるNPO法人児童虐待防止協会」(大阪市中央区)に委託。守秘義務を課した上で、会議や検討会に招いてアドバイスを受けているほか、各区で行われる研修会で講師を務めてもらっている。
 大阪府も市町村の要望を聞き取り、同月から同協会のメンバーや児童相談所のOBらを派遣。親への対応方法などを指導してもらっている。今後3年で全市町村に派遣するという。一時保護などが必要な案件は児童相談所、子どもを家庭においたままでも支援が可能な軽微なものは市区町村が対応する。全国で09年度、市町村があたった相談対応件数は5万6606件で、児童相談所の4万4211件を大幅に上回った。同府寝屋川市で昨年3月に起きた女児の虐待死事件では、あざなどの報告が市の実務者会議にあがりながら、虐待事例と判断できなかった。
 同協会理事長の津崎哲郎・花園大特任教授は「今回の取り組みは行政と民間が連携して虐待対応にあたる新しい形で、今後、全国に広げていきたい」と話している。

大阪市住之江区で生後2か月の男児が父親から虐待を受けて死亡した事件で、市社会福祉審議会の児童福祉専門分科会は21日、再発防止のため、病院が児童虐待にグループで対応できる態勢の整備や、関係機関との連携強化を求める報告書をまとめた。
 報告書などによると、男児は昨年11月、住吉市民病院に骨折で入院。退院した翌日に父親に暴行され、約1か月後に死亡した。報告書は、医師や助産師らが虐待の兆候に気付きながら、児童相談所への通報を怠ったとし、「重要な決定が個人でなされ、大切な情報が放置された」と指摘。院内に虐待対応チームを設け、虐待の有無を複数で協議、判断する必要があるとした。

両記事では,大阪市及び大阪府における児童虐待予防の取組を紹介.
第2記事にて報道されている2011年10月21日に公表された「大阪市社会福祉審議会児童福祉専門分科会児童虐待事例検証部会」による報告書を拝読させて頂くと,同検証作業を通じて「児童虐待対応」に関しては,「関係する機関がそれぞれの組織内で「自己完結」的に対応する傾向がみられた」こと,そして,「生じた疑問に対してチームで協議するという体制が弱いという現実」,加えて「重要な決定が個人でなされたり,大切な情報が放置されるといった状況がみられた」*1とも指摘.
いわば,まさに「職人気質」的に「独自に経験的に身に付けた」*2「独自のノウハウ」*3に習熟された専門職や専門組織との間での業務分業・協業は,その専門性ゆえに,「個室主義」*4的な運営にあることも観察されている.ただやはり,「児童虐待の背景にある構造的で複雑な要因の連鎖」からすれば,「単一の機関による援助では限界」*5ともされる.そのためには,なるほど「他機関との連携する“場”を制度的につくる」ことで「情報の共有や意思疎通を図ろう」とする「巻き込み型」*6の整備もまた,その一つ課題.

*1:大阪市HP(報道発表資料一覧こども青少年局報道発表資料(2011年10月)【報道発表資料】大阪市社会福祉審議会児童福祉専門分科会児童虐待事例検証部会の報告書を公表します大阪市における乳児死亡事例 検証結果報告書」(大阪市社会福祉審議会児童福祉専門分科会 児童虐待事例検証部会,平成23年10月)12頁

*2:安道理『走れ! 児童相談所』(文芸社,2009年)193頁

走れ! 児童相談所

走れ! 児童相談所

*3:前掲注2・安道理2009年:193頁

*4:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『改訂版 ホーンブック地方自治』(北樹出版,2011年)186頁

ホーンブック 地方自治

ホーンブック 地方自治

*5:前傾注1・大阪市大阪市における乳児死亡事例 検証結果報告書)12頁

*6:手塚洋輔「児童相談行政における関係機関とのネットワーク構築」『児童相談行政における業務と専門性』(財団法人日本都市センター,2011年)30頁

日本都市センターブックレットNo.25 児童相談行政における業務と専門性―みんなで支える子どもと命―

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