嘉田由紀子滋賀県知事が看板政策に掲げる「流域治水」について、県は31日までに、本年度内の条例化を断念した。一部首長が慎重姿勢を崩しておらず、県議会の議決を得るのは難しいと判断した。当初予定の2011年度から2年以上遅れることが確実になり、水害リスクが高い地域への対応の遅れが懸念される。
 流域治水は、川の中だけでなく、川の外の対策も重視し、自主防災組織や水防訓練の徹底など住民の自助や共助の精神を含む総合的な手段で水害リスクの低減を図る新たな概念。嘉田知事が公約に掲げて初当選した06年度から、庁内をはじめ専門家、住民らと議論を進めてきた。条例化のベースになる流域治水基本方針は、11年11月議会に提案し、昨年2月議会で可決・成立した。しかし、水害の被害を受ける恐れがある地域での土地利用や建築の規制が盛り込まれているうえ、川床掘削や堤防整備など川の中で行う対策の優先度などをめぐり、県議会や一部市長から懸念が相次いだ。
 昨秋以降、県が流域治水の基礎情報として順次公表を始めた浸水予測図「地先の安全度マップ」についても、彦根市近江八幡市は「土地改良などに伴う地盤の高さの変化などデータの精度をさらに高める必要がある」「ハードの具体策を示さず、リスク情報だけを公表すれば住民が混乱する」などとして、それぞれの市域分の公表を認めていない。
 県議会の過半数を握る自民党県議団は「2市の同意を得ない段階では条例案に対応できない」(幹部)との意向で、条例化の見通しは立っていない。県は「県民のニーズはあり、できるだけ早期に条例化を目指したい」(流域治水政策室)として2市との調整を引き続き進める方針を示す。だが昨年12月の衆院選で国政参画を目指した嘉田知事と県議会の対立が続いており、「しばらく嘉田知事の看板政策を提案できる状況ではない」(県幹部)との声も出ている。

本記事では,滋賀県における「流域治水」の取組方針を紹介.
同県では,「どのような洪水にあっても,(1)人命が失われることを避け(最優先),(2)生活再建が困難となる被害を避けることを目的として,自助・共助・公助が一体となって,川の中の対策に加えて川の外の対策を,総合的に進めていく治水政策」*1と定義されている流域治水政策.本記事でも紹介されている「滋賀県流域治水基本方針」*2は2012年3月に制定.同方針内では,「本方針を実効性あるものにするため」に.「地先の安全度の調査・公表(情報公開,見直しなど)」,「 流域貯留対策に関すること(雨水貯留や地下浸透対策の推進など)」,「はん濫原減災対策に関すること(建築・土地利用規制の区域指定および態様,連続盛土構造物の設置協議など)」,「水害に関する地域防災力向上対策に関すること」,「水害に強い地域づくり協議会・水害に強い地域づくり計画に関すること」の5項目を「定めた県条例(仮称:滋賀県流域治水基本条例)の制定」*3を予定.
本記事では,「本年度内の条例化を断念」された方針であると報道.「自然災害であるとと同時に社会的な現象」でもある「水害」*4.「備える」*5側の社会の準備には,漸進的な対応とならざるを得ないのだろうか.今後の動向も要経過観察.

*1:滋賀県HP(組織から探す)「流域治水政策室

*2:滋賀県HP(組織から探す流域治水政策室滋賀県流域治水基本方針 − 水害から命を守る総合的な治水を目指して −)「滋賀県流域治水基本方針― 水害から命を守る総合的な治水を目指して―(前半)(後半)」

*3:前掲注2・滋賀県滋賀県流域治水基本方針)55頁

*4:嘉田由紀子生活環境主義でいこう!』(岩波書店,2008年)143頁

*5:前掲注4・嘉田由紀子2008年:143頁