名古屋市認可保育所の四月分からの入所選考にあたり、親の就労状況などに応じてランクや指数を付けて可否を判断する「点数制」の導入を始めた。市の担当者は「入所できなかった人に対し、客観的に説明できる基準ができた」と説明するが、親からは「ランクや指数は個々の家庭の状況を考慮してくれない」と不満の声も出ている。
 市が作った基準表によると、親の就労時間数などに応じて、AからHまでのランクがあり、さらに二十五項目の「調整指数」に家庭の状況が当てはまれば、加点または減点される。ランクが高く、指数の点が多い人から入所できる。例えば、天白区ではこれまで勤務状況が同じ水準の家庭を選考する際、自宅から保育所までの距離、親の通勤経路や時間などを総合的に判断し、それぞれの子が通いやすい所を決めてきた。同区の山田悟・民生子ども課長は「保護者の立場になってきめ細かくやってきたつもり。点数制は利点もあるが、画一的にやらざるを得なくなる」と話す。点数制では自宅からの距離、通勤経路などを点数化する項目はない。「車がなく、遠くには通えない」「土曜も仕事があり、終日保育をしてくれる所でないと無理」といった事情がある家庭から見直しを求める声が上がっている。
 市保育企画室によると、基準表の項目はこれまで各区で考慮していた内容のうち、多くの区で採用していたものを基に作ったという。加藤仁室長は「総合的な判断というこれまでの曖昧さをなくそうとした」と説明する。ただ、今後は基準の内容を検証していく予定で、「各区の担当者や市民の声を聞きながら改善していきたい」と話している。
◆家庭の事情を素通り
 四月から下の子を上の子と同じ保育所に入れられなかった市内のある主婦は、点数制による選考を「家庭の細かい事情を考慮してくれない。不親切な制度」と感じている。上の子は障害があり保育時間が短く、通院なども多いため、下の子も同じ保育所の入所を希望した。障害児用の特殊な靴の購入や、専門医のいる遠い病院まで車で行くためガソリン代がかかるなど負担は大きく、仕事を探している。
 だが、保育時間は七時間だけなので正社員は無理。時間の短いパートだとランクが低くなる矛盾がある。これまでは兄や姉が通園している場合は、弟や妹も同じ所に入りやすいとされていた。この主婦の場合もランクは一つ上がったが、障害児の介助に対する加点はなく、選考は有利にならなかった。「どこも大変だと思うが、障害児のいる家庭特有の事情は点数では示せない」と話す。
 昭和区の会社員女性(39)は育児休業の終了が迫るが、長男(1つ)の預け先が決まらない。通勤に片道一時間かかるため、駅近くにある第一希望の保育所だけ申し込んだ。「区役所で何度も入所が難しそうなら教えてほしいと頼んだ。駄目なら他の園も検討したかった」と区の対応に不満を持つ。ランクは最高のAで指数の加点もあったので、他に入れる所があったかもしれないとの思いが消えない。区によっては追加の希望がないか聞く所もあるが、昭和区は選考状況を知らせなかった。当面は長男が二歳になる十二月まで育休を延長する予定だが、後は退職するしかない。区内の認可保育所や家庭保育室は既に空きがなく、ビルの一室などに開設された認可外施設の利用も視野に入れ始めた。「親なら誰でも納得いく所に預けたいはず」と割り切れないでいる。(長野奈美)
 <点数制> 政令市で点数制を導入しているのは、横浜や大阪など14市(2013年度)。名古屋市認可保育所に入れない待機児童が多く、「明確な基準を」との声を受けて3年前から横浜市の制度を参考に検討してきた。13年度に導入した大阪市では事前に意見を公募したが、名古屋市は「以前からあった基準を全市で統一して公表した。制度そのものは変えていない」(保育企画室)として、昨年8月の市議会教育子ども委員会に報告して実施した。
 4月の入所希望者1万595人のうち、1月末の選考の結果、1168人が希望の所に入れなかった。

本記事では,名古屋市における保育所入所選考基準の取組を紹介.同基準は,同市HPを参照*1
同市への「申し込み者全員が入所できない時」に「区役所で公平な選考の上.入所を決定」するため,同基準を公表.「選考」手続では,まず「ひとつの保育所」で「現に入所している児童が継続して入所を希望する場合を優先」し,「新規の申込」への「入所の選考より」同基準に「沿って入所者を決定」する.同基準は,まず「居宅外就労(外勤・居宅外自営)」「居宅内就労(内勤・居宅内自営)居宅外就労(居宅外自営協力者)」「産前産後」「病気・けが」「障害」「親族の介護」「災害復旧への従事」「通学」「求職中」「育児休業中の入所(3歳以上に限る)」の10項目を「A〜Hの順に区分」*2する.
さらに同基準では捉まえられない「その他の世帯状況」*3を踏まえるために,「保育の代替手段」「世帯の状況」「就労の状況」「ひとり親世帯等」「きょうだいの状況」を「調整指数」*4として「加減点」する.
本記事後段では,政令指定都市では2013年度段階で「14市」が導入済み.とはいえ,本記事によると,同市の同基準導入は他市からの「政策移転」*5でも,全く同市が新たに設定されたものではない模様.「基準表の項目はこれまで各区で考慮していた内容のうち,多くの区で採用していたものを基に作った」と報道されており,同市の各区内で設定していた「複数の「事実上の標準」が固定化」*6された様子.入所基準の標準化に伴う入所状況の推移は,要観察.

*1:名古屋市HP(暮らしの情報健康と子育て子育て保育所等認可保育所 入所の手続き)「入所選考基準表

*2:前掲注1・名古屋市(入所選考基準表)1頁

*3:前掲注1・名古屋市(入所選考基準表)1頁

*4:前掲注1・名古屋市(入所選考基準表)2頁

*5:秋吉貴雄,伊藤修一郎,北山俊哉『公共政策学の基礎』(有斐閣,2010年),254頁

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

*6:城山英明『国際行政論』(有斐閣,2013年)315頁

国際行政論

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