指定した地区での路上喫煙を禁じる横浜市の条例をめぐり、過料2千円の処分を受けた東京都の自営業の男性(64)が、「違反現場が禁止地区とは認識できなかった」として市に処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が26日、東京高裁であった。田村幸一裁判長は「注意すれば現場は禁止地区と認識できた」として、処分取り消しを命じた一審判決を覆し、男性の請求を棄却した。
 一審横浜地裁判決は、路上喫煙の規制の現状について「禁止されている地域は極めて限られている」としたが、田村裁判長は「条例制定などの取り組みは、拡大してきている」と指摘。その上で、「あえて路上で喫煙する場合には、禁止地区かどうか十分に注意する義務がある」とし、違反現場にあった禁止地区を周知する路面表示も「注意を怠らなければ認識できた」として、男性の過失を認定した。一方、争点の一つだった過料処分に過失が必要かどうかについては、「本来違法とされていない喫煙を禁止し、それに対する制裁という過料の性質からも、違反者に過失がない場合まで制裁を科すのは不相当」と判断。一審に引き続き「過失がなくても過料を徴収できる」とする市側の主張を退けた。
 男性は2012年1月、市条例で喫煙が禁止された横浜駅近くの路上で喫煙。市の「美化推進員」から過料2千円の処分を受け、提訴した。今年1月の横浜地裁判決は、「違反現場は路面表示が小さく禁止地区との認識は困難」として、市に処分の取り消しを命じていた。原告側代理人は「市の主張通りなら、自治体の取り締まりに歯止めが利かなくなり、過失の必要性を認めた点は評価できる。判決については上告が可能か検討したい」と話した。横浜市は「処分が適法だったことが認められた」とコメントした。
〈解説〉マナー向上と条例周知求め
 東京高裁判決は、一審判決を覆しつつ、喫煙者にはマナーの向上を、規制する自治体側には条例の十分な周知徹底を求めた。個人のたしなみと、不特定多数が利用する空間の環境保全の両立に、一つの物差しを提示している。
 判決の根幹にあるのは、「路上喫煙をなくす」という条例制定の目的だ。横浜市は「規制の実効性を保つため」として県内で最も厳しく対応してきた。ただ、控訴審判決が求めたのは、丁寧な事前周知と注意喚起。それを徹底すれば結果的に、「知らなかった」との言い訳が通用しなくなり、違反者の過失の立証にもつながる、というわけだ。
 一方で、喫煙者にも注意義務があるとしている。現状では繁華街などを中心に路上喫煙の規制が進んでおり、吸う側も周囲の環境に注意すべき、との指摘は当然といえる。さらに判決は、自治体の独自ルールの設定にも影響を与えそうだ。路上喫煙のように、違法ではない行為にあえて過料を適用するためには、事前の周知徹底が欠かせない。「周知が不十分な場合は自治体の責任」という判決の指摘を踏まえ、罰則を適用することが求められている。

本記事では,横浜市による控訴審の判決を紹介.
同市が制定する「横浜市空き缶等及び吸い殻等の散乱の防止等に関する条例」*1第11条の3に基づき「喫煙禁止地区内」では「何人」も「喫煙」と規定されており,これを「違反した者」には同条例第30条には2,000円の過料が処せられる.
2014年1月22日付の同紙では,同処分の取消を求める訴訟に対して,横浜地裁では「路上喫煙を禁じる標識が小さく,過料の制裁がある記載もない」とし「市に処分取り消しを命じ」*2たことを報道.同市では,2014年2月5日付の同紙によると,「横浜地裁判決を不服として控訴」*3した.本記事では,同控訴審の判決を紹介.
本記事よると「処分取り消しを命じた一審判決を覆し」「棄却」としつつ,「本来違法とされていない喫煙を禁止し,それに対する制裁という過料の性質からも,違反者に過失がない場合まで制裁を科すのは不相当」との「判断」が示された模様.同判決を「判断注視」していたとされる「関係自治体」*4の間での,同判決後の対策の「波及」*5状況は,要観察.

*1:横浜市HP(組織資源循環局市民の方へ清潔できれいなまちづくり)「横浜市ポイ捨て・喫煙禁止条例)「横浜市空き缶等及び吸い殻等の散乱の防止等に関する条例」(平成7年9月25日,条例第46号)

*2:神奈川新聞(2014年1月22日付)「禁煙マーク「小さくて認識できず」,条例違反男性の過料取り消し処分/横浜地裁

*3:神奈川新聞(2014年2月5日付)「喫煙過料取り消し判決に不服、横浜市が控訴/神奈川

*4:神奈川新聞(2014年6月25日付)「横浜・路上喫煙 一律徴収 是か非か 関係自治体が判断注視

*5:秋吉貴雄,伊藤修一郎,北山俊哉『公共政策学の基礎』(有斐閣,2010年),250頁

公共政策学の基礎 (有斐閣ブックス)

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