総務省がインターネット投票の導入に動き出す。まず海外に住む日本人を対象とする在外投票で、ネット投票のためのシステムを整備する。2019年度に実証実験し、20年度以降の公職選挙法改正をめざす。個人認証に必要なマイナンバーカードを海外で利用するための法整備や、セキュリティー対策の検討も必要になる。実現に向けた課題を整理した。
 現行の在外公館での投票や郵送による投票は、投票用紙を日本に送るのに日数がかかり、投票期間も短くなる。新たに検討するネット投票では、マイナンバーカードを使って本人確認をすれば、パソコンなどからどこでもすぐに投票ができ、投票期間も長くなる。
 海外に在留する18歳以上の邦人は17年10月時点で107万9418人いる。国政選挙に参加するための在外選挙人名簿の登録者数は、17年9月時点で10万506人いる。従来は転出先の日本大使館に出向いて手続きを済ませる必要があり、登録が伸び悩んでいた。投票率も17年の衆院選で21%にとどまる。
 今年6月の改正公選法施行で、転勤や留学で出国する前に市区町村の窓口で登録申請ができるようになった。在外投票を希望する人も増えるとみられる。ネット投票が可能になれば、投票率の向上にもつながりそうだ。
 実現に向けた課題は(1)本人確認をするための法整備(2)システム障害への対応(3)投票の秘密の確保――などがある。
 総務省はネット上の投票が本人かどうかを確認するため、海外でもマイナンバーカードが継続して利用できるようマイナンバー法の改正に取り組む。現在は、海外への転出届を出すとカードが失効してしまう。
 サイバー攻撃や自然災害でシステムが故障したりダウンしたりするリスクに備え、投票データのバックアップを保存する仕組みをつくる。不正アクセスを検知するシステムなども必要だ。投票の秘密を保つため投票データを暗号化して送信し、本人確認に使う投票者の情報は切り離して保存する仕組みを想定する。
 将来は国内に住む有権者の投票でもネット投票の活用が広がる可能性がある。海外ではエストニアが全国民を対象に導入しており、スイスも一部の州で採用している。日本では高齢化や過疎化が進み、投票所に足を運んで投票するのが難しい人も増える。投票や開票の立会人確保も課題だ。。

本記事では、総務省における投票環境の向上に関する取組方針を紹介。
2015年3月31日付及び2016年1月25日付の両本備忘録でも記録した通り、同省では2014年度に「投票環境の向上方策等に関する研究会」を設置し、「有権者が投票しやすい 環境を一層整備し、投票率の向上を図っていく」*1方策を検討。2018年8月に提出された「報告」では、「投票しにくい状況にある選挙人の投票環境向上」*2に向けて「ICTを活用した投票環境の向上方策」*3の検討結果が報告されている。「公平性と効率性」*4の確保を踏まえた、今後の具体化の状況は要観察。

*1:総務省HP(広報・報道報道資料一覧:2018年8月:「投票環境の向上方策等に関する研究会 報告」1頁

*2:前掲注1・総務省(投票環境の向上方策等に関する研究会 報告)2頁

*3:前掲注1・総務省(投票環境の向上方策等に関する研究会 報告)1頁

*4:曽我謙悟「第2章選挙ガバナンスに関する研究の動向と展望」大西裕編著『選挙管理の政治学 -日本の選挙管理と「韓国モデル」の比較研究』(有斐閣,2013年)43頁